226 後日譚 誰かに似ている三つ子
それは本当に普通の民家だった。
10年前、「ビル・エル・ハルマート」で、「学術研究惑星」で、「アクア3」で、「ウィルツ」で、そして、最後は「バストーニュ」で激闘を担ってきた人の住まいにはとても見えなかった。
ここが、本当にあの「ラティーファ」の家なのか?
そんな疑念をアナベルとオキニィが抱いた時、オキニィは不意に後ろから左腕を掴まれた。
「えっ?」
パウリーネ、ルカイヤ、坊っちゃんにこそ遅れを取るものの、オキニィだって、「銀河帝国偵察局」で五本の指に入る程の戦闘員だ。
そのオキニィに気付かせることなく、後方から左腕を掴む?何者?
振り返ったオキニィが見たのは、身長140くらいの女の子だった。
「えっ?」
オキニィは当惑した。それは一連の流れを隣で見ていたアナベルも同じだ。
だが、女の子はオキニィとアナベルに話す暇を与えず、先に話し出した。
「ねえねえ、おじさん。強いでしょ? あたしと勝負しない? 強い人と勝負したいんだ」
「えっ?」
なおも事態を掴みかねるオキニィに、女の子はあるものを見せた。
「おじさんは強いよね。ほら、これがこんなに光っているもの……」
女の子が見せたのは……レーザーセイバー!
◇◇◇
「駄目だよ。子どもがそんな危ないもの、持ち出しちゃ! どこから持って来たの?」
慌てて問いかけるアナベルに、女の子はしれっと答えた。
「危なくないよ。あたしもう10歳だもの。シヴツお兄ちゃんは10歳の時はレーザーブラスター撃ちまくっていたって言ったよ」
(シヴツお兄ちゃんって、坊っちゃんのこと? じゃあ、この娘は?)
考え込むアナベルの後ろで、今度は別の声がした。
「駄目だよ。タギツちゃん。勝手にレーザーセイバー持ち出しちゃ、また、お母さんに怒られるよ」
◇◇◇
「何だよ。イチキちゃんだって、お母さんから勝手に工具持ち出しちゃ駄目って言われてるんじゃないの?」
「工具は武器じゃないからいいんだもん。ねえねえ、おじさん」
イチキと呼ばれたタギツとそっくりな少女は、オキニィの右袖をめくりあげた。
「!」
驚きのあまり言葉を失っているオキニィの右腕の義手をイチキは撫でまわした。
「思ったとおり、凄い技術の義手だね。ねえねえ、ちょっと分解させてくれない?」
「えっ? ぶんかい?」
「大丈夫。ちゃんと元に戻すからさあ。あたし、ハイテクの機械見るとわくわくしてくるんだ」
「あー、イチキちゃん、いけないんだあ。こないだも漁船のエンジン勝手に分解して、組み立てなおしたら、部品が5つも余って、お母さんに怒られたじゃない」
「ふーんだ。タギツちゃんのばーか。あの時は、あのエンジンが旧型過ぎて、あたしの技術に合わなかったのっ! 今度は絶対、大丈夫!」
(何なの? この娘たち。双子みたいだけど、二人とも凄い娘。それに誰かに似ているような……あっ!)
◇◇◇
ゴンッ
言い争うタギツとイチキの真後ろから、拳骨による一撃が加えられた。
「いった~」
「何するの~。タオリちゃ~ん」
「何するのじゃないでしょ? タギツちゃんもイチキちゃんも勝手にレーザーセイバー持ち出したり、機械を分解しちゃ駄目って、お母さんに怒られたばかりでしょ!」
(もっ、もう一人増えたっ! 三つ子? 三人ともそっくり!)
事態の急展開に状況を見入るばかりのアナベルとオキニィ。
だが、拳骨の一撃でめげるタギツとイチキではなかった。
「ふーんだ。タオリちゃんの真面目ぶりっこ」
「タオリちゃんのいいんちょ~ぶりっこ」
「そういうことばっかり、やってるからモテないんだよ~」
「そうそう、せっかくあたしたちと同じ顔で美人なのにさ~」
「知ってるよ~。タオリちゃんさぁ、2学年上のアカギ先輩のこと好きなんだよね」
「もうバレバレ。で、せっかくアカギ先輩が親しみを込めて、『タオリちゃん』って呼んでくれてるのにさ~」
「『タオリちゃん』じゃなくて、ちゃんと『スカイさん』と姓で呼んでくださいだってー」
「どんびきー」
今まで黙って聞いていたタオリだが、やがて、顔を真っ赤にして怒り出した。
「あんたたち~、黙って聞いていれば言いたい放題ー」
「わ~、いいんちょが怒った~」
「いいんちょ、いいんちょ」
笑いながら逃げ出すタギツとイチキ。夢中で追いかけるタオリ。
「ねっ、ねぇ、今、『スカイさん』って……」
アナベルがオキニィに問いかけていると、後ろで声がした。
「もう、あんたたちっ! ちゃんとお客さんに挨拶したの?」




