221 最終章プロローグ
「お疲れさん。バカンスを楽しんで来てくれっ。遅い新婚旅行になっちゃったけどな」
笑顔でアナベル・オキニィ夫妻に語りかけるのは、パウリーネ。現在のポストは「偵察局長」だ。
「ありがとうございます。長い休みをもらっちゃってすみません。楽しませてもらってきます」
笑顔でアナベルも答える。
「な~に。結婚して10年も夫婦での長期休暇やれなかったのは、こっちだからな。子どもはいくつになったんだっけ?」
「上が5つ、下が3つ。両方、男の子です。母が張り切って預かってくれるので」
「良かったですね。どこへ行くんでしたっけ?」
ルカイヤも尋ねる。現在のポストは「偵察局参謀長」だ。
「はいっ。惑星『ビル・エル・ハルマート』と惑星『アクア3』です。その前に『ミッドラントホールディングス』の本社にも顔を出して行きます」
笑顔で答えるアナベル。
爆笑するパウリーネ。ルカイヤも笑いを噛み殺している。
「わぁっはっはっ、そいつぁいいっ! あんたたちらしいわ。みんなによろしくなぁっ~」
「はいっ」
アナベルは元気に挨拶すると、相変わらず寡黙なオキニィを伴い、もう一度、頭を下げ、偵察局庁舎を後にした。
「ルカイヤちゃん。こいつぁ、二人の帰りが楽しみだ。いい土産話が聞けそうだよ」
「そうですね。パウリーネ様。私も楽しみです」
◇◇◇
「おおっ、アナベルちゃんにオキニィ。ひっさしぶりだな~。えっ、10年目の新婚旅行?今度、あたしがパウリーネちゃんに、あんまり部下をこき使うなって、言っといてやるよっ!」
今年、35になるが、相変わらず元気なシラネである。自分より5つ年上の偵察局長パウリーネもちゃん付け。無敵ぶりは変わらない。現在のポストは「相談役兼ミッドラント戦闘技術研究所長」である。
「お久しぶりです。シラネさん。あ、ご主人は正式にミッドラントのCEOになられたそうで、おめでとうございます。創業者一族以外では初のCEOだそうで」
「おうっ、先代のCEOが、いつまでも創業者一族が経営してるようじゃ駄目だって人だったからな。さすが長老の親友だよ。そんで、あたしはCEOの女房が取締役じゃまずかろうと言って、相談役にしてもらった。おかげで気楽にやらせてもらってるよ。いっひっひ~」
「そう言えば、息子さんも勉強も運動もよくお出来になると評判で……」
「せがれか~、う~ん」
明るかったシラネの表情が一転曇った。
(あれ、まずかったかな)
アナベルの焦燥をよそにシラネは続けた。
「せがれは優秀だ。それは間違いねぇ。亭主の頭の良さとあたしの戦闘能力をうまく受け継いだ。だが、時々、それに驕りが感じられる時がある」
「……」
「いや、悪いね。暗い話になっちゃって、バカンス楽しんで来てよ。みんなによろしく言って来てよ。後さ~、今度は土産話をしに来てくれ」
「はいっ」
アナベルは元気に挨拶すると、ミッドラントホールディングス本社ビルを後にした。




