219 費用に糸目はつけないで下さい
振り返ったシラネの眼に映ったのは……
「長老!?」
「久しぶりですな。シラネさん」
「『ビル・エル・ハルマート』からここまで来たんですか? もう、お年なのに……」
「70になりましたよ。年寄に長旅はきついが、ラティーファも心配だし、何より旦那さんは『ビル・エル・ハルマート』の恩人だ。旦那さんがいなかったら、今の繁栄はない」
「シラネ様、この方は?」
ルカイヤの問いに、シラネはすぐ答える。
「アブドゥル・ラフマーンさん。通称『長老』。ビル・エル・ハルマート=ミッドラント航宙機製作所の技師長。ラティーファちゃんのおじいさんだ。惑星『ビル・エル・ハルマート』の戦乱では、あたしや旦那さん、坊っちゃんと一緒に戦った人だ」
「ビル・エル・ハルマート=ミッドラント航宙機製作所の技師長って、あの最新鋭の垂直離着陸航宙機を設計した?」
「ルカイヤさん。よくご存知ですね。さて、シラネさん、一緒にラティーファに毛布をかけたいのですが……」
「あ、はい」
シラネと長老が共にラティーファに毛布をかけていると、後ろで大きな声がした。
「何度も言っていますが、費用に糸目はつけないで下さいっ!」
◇◇◇
「費用に糸目もつけませんが、治療にミッドラントの技術が使えるなら、どんどん言って下さいっ! 既に特許を取得している技術も、未公開の技術も全て無償で提供するっ! 何としてでも、旦那さんの命を助けて下さいっ! 旦那さんは私の義兄でもありますが、『銀河帝国』の陰の救世主なんですっ!」
「シラネ様、あの医師に強く頼みこんでいる方は?」
ルカイヤの再度の問いに、シラネはまたすぐ答える。
「ビル・エル・ハルマート=ミッドラント航宙機製作所のミラー社長。あたしの夫でもある。やはり、惑星『ビル・エル・ハルマート』の戦乱では、あたしや旦那さん、坊っちゃんと一緒に戦った」
「ミラー社長って、銀河帝国十大コンツェルンの1つミッドラント財閥の次期CEOと言われている……」
◇◇◇
「坊っちゃんっ!」
突如、駆け込んで来た10歳くらいの女の子が坊っちゃんに抱き着きながら、叫んだ。
「旦那さんはっ! 旦那さんはっ! 大丈夫なのっ?」
その後ろから歩いて来た40代くらいの男性も問うた。
「坊っちゃん。旦那さんは大丈夫なんですかい?」
「坊っちゃん、この方々は?」
ルカイヤは今度は坊っちゃんに問うた。




