218 また一人、兄貴のファンができちまった
「偵察局病院」はその性質上、独立した建物を持たず、警察病院の7階より上を特殊病床ということにして、偵察局員の傷病者を収容している。
逸る気持ちを押さえつつ7階の受付の前に立ったシラネと坊っちゃんを迎えたのは、シラネと通信で話した医師だった。
シラネは問うた。
「その後、どうなんだ?」
医師は沈痛な面持ちで答えた。
「良くありません。いや、率直に申し上げますと、何故、この状態で生命活動を維持出来るのか、不思議なくらいです」
◇◇◇
旦那さんの病室は10階にあった。
この階は病室が1つと後は院長室しかない。
VIP待遇ではあった。
ガラス越しの病室で昏々と眠る旦那さん。
その前で待ち受けていたのは、ルカイヤとパウリーネだった。
「シラネ様に…… 坊っちゃん」
シラネと坊っちゃんに声をかけてきたルカイヤを押しのけるかのようにパウリーネが前に出た。
「あっ、あたしがパウリーネです。もっ、もう今回はあたしのせいで、こっ、こんなことになっちゃって……」
「貴方のせいではないですよ」
シラネは冷静に言葉を返す。
「偵察局員をやっていれば、いつでも有り得ることです。それにパウリーネさん、貴方だって要安静では?」
「あたしの方はもう大丈夫ですっ! それより、居ても立っても居られないんです。こんな時、不謹慎なのは分かっているんですが、旦那さんは、銀河最強のレーザーセイバー使いと言われたこのあたしが初めて自分の背中を預けてもいいと思えた人なんです。旦那さんと組めれば、敵が何百人いようが、何千人いようが負ける気がしない。そんな人にこんなことで死んでほしくないんですっ!」
(また、一人旦那さんのファンが出来ちまった。こんな時に死ぬんじゃねえぞっ! 旦那さんっ!)
◇◇◇
「ところで、ルカイヤちゃん。その…… ラティーファちゃんは?」
シラネは長椅子にもたれかかって寝入っているラティーファを指差した。よく見ると号泣したらしき形跡がある。
「ラティーファさんは……」
ルカイヤは目を伏せて、答えた。
「旦那さんが入院してから、ずっと寝ずにここにいて、心配した看護師さんが別室で休むように言っても、ここにいると言って聞かなくて、とうとう、ここで寝入っちゃったんです」
「そうか」
シラネは顔を上げると頼んだ。
「すまないが、毛布を貸してくれないか? ラティーファちゃんはあたしの妹分だし、旦那さんの彼女だ。せめて毛布をかけてやりたいんだ」
「その毛布。私も一緒にかけてよろしいかな?」




