216 人間としては殺さねぇが 工作員としては殺す
白い光が僅かに晴れだす時、ラティーファとルカイヤは早々に行動を開始し、それぞれ記憶喪失に陥っている旦那さんとパウリーネを回収した。
そして、素早く用意された車に搭乗すると、完全に白い光が消え去る前に去っていった。
戦場で多くの者が視覚を取り戻した時、4人の姿はもうなかった。
シラネは叫んだ。
「ようっしっ! もう障害は何もねぇ! みんな、思う存分にやれっ! 但し、絶対に死ぬなっ! 後は出来るだけ相手を殺すなっ! 捕虜にしろっ! 投降を促せっ!」
◇◇◇
周囲から大歓声が上がり、「銀河帝国偵察局」の兵は「洗脳機関」の拠点である建物に突撃した。
シラネはゆっくりとうずくまっているイワノフに近づいた。
「殺せっ!」
叫ぶイワノフにシラネは淡々と返す。
「殺さねぇよ」
「これ以上の生き恥には耐えられん。殺せっ!」
「殺さねぇよ。これくらいの生き恥で耐えられないなんて言わないことだな。これから、もっとたくさんの生き恥が待っているのだから……」
「ぐっ」
「心配するな。『人間』としては殺さねぇが、『工作員』としては殺す。二度と『工作員』として働けないよう、知ってる情報は残らず吐いてもらうからな」
◇◇◇
「洗脳機関」の最後の拠点は、その後僅か2時間で陥落した。
死傷者は「銀河帝国偵察局」側がゼロ。「洗脳機関」側が10名。
「洗脳機関」側の投降者、捕虜は軍団長・指揮官・兵員の3種類に分類されて管理され、軍団長は厳重に警備されて首都星系に護送された。
指揮官と兵員は後から派遣されてきた「銀河帝国偵察局」の専門官に訊問された。
事前の予想通り、殆ど情報を教えられていなかったが……
訊問を受け終わった指揮官と兵員は本人の希望に基づき「銀河連邦」に送還せんとしたが、「銀河連邦」側からの回答は以下のとおりだった。
「『銀河連邦』には『洗脳機関』なる組織は、過去現在未来とも存在しない。『銀河連邦』の『洗脳機関』に所属していたと主張する者は『銀河連邦』とは無関係のテロリストである。『銀河帝国』の判断で自由に処理されたい。なお、『銀河連邦』はそのような者を一切受け入れない」




