214 周囲から愛されるケンカバカ
シラネはアナベルに交代を伝え、アナベルがゆっくり後ずさりしていく脇を旦那さんは足早に駆け抜けていく。
(やはり旦那さんが行きますか。危険と分かっていてもそれしか方法がない。残念です)
アナベルは小さく溜息をついた。
ラティーファは呟いた。
「あーあ。旦那さん駆けって行っちゃったよ。何だかんだで強い者と戦うのが好きな戦闘バカなのかなぁー」
「そうでもないぞ。ラティーファちゃん」
シラネが宥める。
「さっき、『狂信的暗殺者』を旦那さんと一緒にシンクロ攻撃しただろ? ラティーファちゃんの力量も相当上がっていたが、旦那さんがかなりラティーファちゃんをうまくフォローしていた」
「!」
「旦那さんはそういう気配りとか気遣いが一切出来ない奴だったんだよ。『アクア3』じゃ教官の仕事ほっぽり出して、魚獲ってたろ。ま、気配りとか気遣いはラティーファちゃんにしか出来ないんだけどさ」
「どうして……」
「?」
「どうして今になってそんな話を始めるんですか? シラネさん。やっとやっと、気持ちを押し殺して、旦那さんを送り出したのに……」
(やっぱり無理していたか、20歳)
シラネは黙って後ろからラティーファの肩を抱いた。
◇◇◇
旦那さんはパウリーネとの打ち合いが再開されると、疲労の色も見せずにレーザーセイバーを振るった。
やはり、少しは生来の戦闘好きが救いになったのかもしれない。
「あ、でも何だか……」
戦況を凝視していた坊っちゃんが言う。
「旦那さんとパウリーネさんの打ち合いなんだけど、パウリーネさんが洗脳される前のパターンに戻ってきたような……」
アナベルも言う。
「私も戦闘パターンが『とにかく相手を倒す』から『お互いの力を確かめ合う』に変わって来たように感じます」
オキニィも言った。
「パウリーネさんの眼を見て下さい。もう、赤みは全くありません」
(旦那さん……)
シラネは一人思った。
(周囲から愛される戦闘バカ。ふっ、あたしは一生かけても旦那さんにゃ勝てないわ)




