213 死なないように努力をするさ
しかし、旦那さんは淡々と言った。
「悪いがアナベルでは、パウリーネの相手にはなれない」
それに対し、アナベルはきっぱりと返す。
「分かっています。私が出来るのは、『時間稼ぎ』だけ。それもごくごく短い時間の……」
「……」
「だけど、交代で戦っているシラネさんは旦那さんの今の状態を知りません。旦那さんの唯一の肉親であるシラネさんにこの状態を伏せたまま戦いを進めるのは明らかに良くないことです」
「……」
「分かってくれますね。ラティーファさん」
ラティーファは黙って頷くと、シラネに交代を告げた。
ゆっくりと後ずさりしながら戻って来たシラネは、自分の代わりに旦那さんではなく、アナベルが出た事実に驚いたが、疲労困憊しきっている旦那さんの姿を見て、もっと驚いた。
「旦那さん……」
◇◇◇
シラネは一呼吸置いてから、静かに言った。
「旦那さん…… もう…… 戦うな」
「……」
「次もあたしが出て、チャージオンする。それで、パウリーネを止める」
旦那さんも静かに返した。
「それは駄目だ。シラネ」
「!」
「シラネではチャージオンしてもパウリーネは倒せない。戦うことで強い者と正々堂々と勝負することを望むパウリーネの本来の意識を取り戻すことは出来ない」
「そんなことは分かっているっ!」
シラネはいつしか涙声になっていた。
「だけど、このままじゃ旦那さんは死んじまうじゃねえかっ! ラティーファちゃん、あんたもそれでいいのかっ?」
ラティーファも静かに言った。
「よくはないよ。シラネさん」
「じゃ、じゃあ」
「だけど、この戦いを終わらせることが出来るのは、旦那さんしかいないんだよね。旦那さんが戦わないと、みんなが死んじゃうの」
「でも、そのせいで旦那さんが死んでもいいのかっ?」
「それはそれで嫌だな。旦那さんが死んだら、あたしも死んじゃおうか」
「馬鹿言ってんじゃねぇっ!」
シラネはついに大声を上げた。
「あ~っ、もうっ、分かったっ! 頼むっ! 旦那さんっ! 行ってきてくれっ! そして、頼むっ! 死ぬなっ!」
「別に俺も死にたい訳じゃないよ。死なないよう努力をするさ……」
旦那さんはゆっくりと腰を上げた。




