212 アタシハツヨイモノトタタカイタイ
ラティーファのその答えに、シラネは力なくその場に崩れ落ちた。
「シラネさん。ラティーファさんを責めないで下さい。ラティーファさんはとても賢明な方です。悩みに悩み、相当の決意をもって臨んだ行動なんです」
ルカイヤの言葉に、シラネは更にうなだれた。
「分かっているさ。分かっているからこそ、情けないんだ。自分の力の無さが。旦那さんとその彼女をそこまで追い込んだ自分の力の無さが。あたしだって分かっているんだ。そうしなきゃ、今のパウリーネに勝てないってことは……」
「……」
「だがっ! それでもっ! それでもっ! 生きていてくれっ! 頼むっ! 旦那さんもっ!ラティーファちゃんもっ!」
ラティーファは黙って頷いた。
◇◇◇
やがて、旦那さんとパトリーネの打ち合いは長く続くようになってきた。
「ちょっと待って下さい」
ルカイヤが何かに気付いた。
「パウリーネ様が何か言ってませんか?」
そこにいた者全員が耳をそばだてた。
「……ア……タ……シ……ハ……ツ……ヨイ……モノト……タタ……カ……イタ……イ」
「!」
「戻って来ているっ! 以前のパウリーネ様が戻って来ているっ!」
ルカイヤは声を張り上げた。
「これで…… 後は旦那さんがどこまでもつかだな」
シラネは祈るような気持ちになった。
◇◇◇
旦那さんは4回目のチャージオンをした。即座にシラネは駆け出し、パウリーネと打ち合いを始める。
ラティーファが両脇を抱え、連れ戻した旦那さんは素人目にも疲労の蓄積がはっきり見えてきた。
もはや、ラティーファが旦那さんとするディープキスは恋愛関係に対する関心などかけらもなく、ただただ固唾を飲んで、戦況を見守るための対象でしかなかった。
旦那さんは程なく自分を取り戻した。そして、すぐに言った。
「シラネに引き上げるように言ってくれ」
シラネに声をかけようとしたラティーファをアナベルが制止した。
「待って下さい。次の時間稼ぎは私が行きます。旦那さんとラティーファさんはもう1回だけ、シラネさんと話し合って下さい」




