211 知っててやってました
旦那さんはパウリーネと2回剣戟を交え、3回目にはチャージオンした。
今度もラティーファが旦那さんを回収し、シラネがその間打って出た。
(おっ?)
シラネは感じた。
(明らかにパウリーネの圧力が弱くなっている……)
パウリーネはレーザーセイバーを振り回す行動が影を潜めて、しっかりと握り、シラネの攻撃に備えている。
(それに眼の色の赤みが明らかに薄くなった。もう「赤」とは言えない。「ピンク」だ)
(行けるかもしれない。行くぞっ!)
シラネはレーザーセイバーを大きく振り上げ、パウリーネに向けて突進し、パウリーネのレーザーセイバーに一撃を加えた。
だが、それは簡単にパウリーネに撥ね返され、シラネは後方に転がった。
(ふっ、旦那さんのような訳にはいかないか……)
「シラネさん。交代の準備ができました」
◇◇◇
ラティーファの声のトーンは明らかに下がっていたが、この時のシラネはまだそのことに気づいてはいなかった。
旦那さんはパウリーネとほぼ互角に打ち合えるようになり、4回目の打ち合いでチャージオンした。
すぐにシラネが代わりに前に出て、ラティーファは旦那さんを回収した。
シラネもパウリーネに立ち向かうのに、もはや圧力は感じなかった。
直接の剣戟も未だに押され気味とは言え、撥ね返されるようなことはなくなってきた。
「シラネさん。交代の準備ができました」
◇◇◇
ここでシラネは初めて気がついた。ラティーファの声のトーンが下がっていることに……
シラネは、両手でラティーファの両肩を掴むと問い質す。
「ラティーファちゃん。何か隠していないかっ?」
ラティーファは黙って横を向き、視線を外した。
そこで一歩前に出たのはルカイヤだった。
「ラティーファさんは説明しづらいでしょうから、代わりに私がします」
◇◇◇
「『チャージオン』がなぜあそこまで攻撃力を上げるのか? それは洗脳ほどではないですが、脳のリミッターを外すからです」
「!」
「その後、記憶喪失や方向オンチになるのは、急激に働いた心身を強制的に脳が休ませようとしているからなんです」
「ということはまさか?」
「そう。無理に回復期間を短くすることは、心身に深刻なダメージを蓄積させる行為なのです」
「ラティーファちゃんっ! それを知っててやってたのかっ?」
シラネはもう一度両手でラティーファの両肩を掴むと、それを大きく揺さぶった。
「あたしは…… 知っててやってました……」




