210 ディ ディープキスしてました
パウリーネはまたレーザーセイバーを振り始めた。
(成程。すげぇ圧力だ)
シラネは倒されないように、しっかりとレーザーセイバーを握りしめ、ゆっくりと前進を続けた。
その時だった。後方から様々な声が聞こえて来たのは……
最初はアナベルの声だった。
「えっ、えっ、えーっ、ラティーファさん、だいたーん」
次はシナンの声だった。
「ラティーファちゃん、分かってはいた。分かってはいたけど、こうまで見せつけられるのはきついよー」
後はわいわいがやがや、普通兵たちの声。
(何だってんだ? 気が散るっ!)
そうは言ってもパウリーネと対峙している以上、気を抜いたが最後、圧力に飛ばされる。
いや、それで済めばいい。本当に気を抜くとレーザーセイバーの一撃で殺されかねない。
そこへラティーファの声が届いた。
「シラネさーん。お待たせしました。また、交代しまーすっ」
◇◇◇
ラティーファの言葉がシラネに届くと同時に、旦那さんはレーザーセイバーを大きく振り上げ、パウリーネに向かって、突進してきた。
シラネは慌てて道を開け、ゆっくり、後ずさりしながら、ラティーファたちのところへ戻った。
「で、何が起こってた訳?」
怪訝そうな顔でシラネは尋ねる。
「あ、あの、ラティーファさんが、だ、旦那さんに……」
アナベルは小さい声でやっと答える。
「ラティーファちゃんが旦那さんに? 声が小さくてよく聞こえないよ」
「ディ、ディープキスしてました」
「!」
シラネは絶句した。
しばらく沈黙が空間全体を覆った。
その中でやっと次のセリフを絞り出したのはシラネだった。
「すっ、するってえと何か? あたしは実の兄貴がディープキスしてる、その鼻先で命懸けで戦っていたのか…… てか、戦場で何してんだ、ラティーファちゃん?」
「『チャージオン』から最も迅速に回復する方法…… です」
「なーるほど、『チャージオン』から最も迅速に回復する方法。なるほどなるほどって、マジか?」
「…… マジもマジ。大マジです」
「うんそうかあ。でも、これでいいのか?」




