206 大ケガまでは許す 倒れていろ
悔しいがその通りなのだ。今のパウリーネには誰にも勝てない。シラネは唇を噛んだ。
その時だった。
「シラネっ! 俺が行くっ!」
旦那さんがレーザーセイバーを片手に立ち上がった。
「あんたっ! 大丈夫なの?」
ラティーファが何時になく真剣な表情で問いかける。
「大丈夫……じゃない」
旦那さんの答えに周囲は慄然とする。
「怖いんだ。こんな感じは初めてだ」
周りは頷く。当然だ。旦那さんと言えば、とぼけているか、退屈しているかだ。「怖い」という感情とは一番無縁なはずだった。
「だが、それでもこのメンバーで一番強いのは俺だ。勝てる気がしないが、せめて一太刀、二太刀、三太刀くらいは浴びせてくる。その後は済まないが頼む」
「分かった。次はあたしが……」
シラネが言いかけた時、ラティーファが遮った。
「いえっ、シラネさん。旦那さん、いや、ホタカの後はあたしが行くっ!」
「何言ってんだ。ラティーファちゃん。本来ならまだ『学生』なんだから、参加しないはずの戦闘なんだぞっ!」
「分かってる。これはあたしのわがままだ。でも、あたしはどうしてもホタカの後に行きたい。ホタカが死ぬなら、あたしも相手に一太刀浴びせて死ぬ」
ラティーファの眼はまっすぐにシラネの眼を見つめていた。
シラネは静かに返した。
「分かった。旦那さんはあんなんでも、あたしのたった一人の家族だ。それをそんなに思ってくれたんじゃ、何も言えねえよ。だがな……」
「旦那さんもラティーファちゃんも死ぬな。あたしは『死んで名を残す』という感情に酔っ払う奴が大嫌いだ。大ケガまでは許す。倒れていろ。ラティーファちゃんの次はあたしが行く。あたしも大ケガしても死ぬ気はねぇ。次はアナベルちゃん、頼む」
「はい」
アナベルも真剣な眼で頷いた。
「みっ、みなさん、すっ、すみません。わっ、私がもっとしっかりしていれば、こんなことには……」
ルカイヤはかつての雄姿が見る影もなく、落ち込んでいる。
シラネは最後にやっと笑顔を見せた。
「ルカイヤちゃん。気にするな。今までだってこれほどではなくと逆境はあった。今回もきっと何とかなる。パウリーネも帰って来るよ」
旦那さんはレーザーセイバーを背負うと立ち上がった。
「ほんじゃちょっくら行ってくるわ」
ラティーファは笑顔で声をかけた。
「ホタカ。頑張れーっ!」
アナベルは思った。
「凄い人たちだ。この人達は……」




