203 当然です 1人でも行きます
「やっぱり今夜のうちに行くのかい?」
「当然です。一人でも行きます」
シラネは溜息を吐いた。
「洗脳機関」の本拠から強い者の気配がすることについては、旦那さん、坊っちゃん、シラネ、アナベル、オキニィ、シナン、そして、ラティーファも感知している。
それが、パウリーネである可能性は極めて高い。
だが、今夜のうちに、夜襲をかけてまで奪還すべきかというと、諸手を上げて賛成とは言い難い。
視界の良くない夜間はどうしても土地勘のある側に有利に働くからだ。
「私が先導します。それでも不安だと言うのなら、私一人でも行きます」
ルカイヤは譲らない。
(やはりこうなったか)
シラネは考え込んだ。
ここで一番愚かなのは戦力の集中を外すことだ。
ましてや、今回の作戦行動が順調なことについてはルカイヤの貢献が大きい。
そのルカイヤを分離行動させるのは、自殺行為だ。
「分かった」
シラネは静かに言った。
「あたしらも同行する。精鋭8名と普通兵20名で『洗脳機関』の殲滅とパウリーネの救出を行う」
最終決戦の最終ラウンドの幕開けであった。
◇◇◇
日没後の惑星「バストーニュ」は真っ暗だ。
「洗脳機関」による支配が始まってから、厳重な灯火管制が敷かれているためである。
要塞惑星であるが故に住民は軍事関係者が多かったが、そこでの生活を成り立たせなければならない以上、当然非軍事関係者もいる。
彼らの多くは「洗脳機関」の支配が始まった後、惑星を脱出せんとしたが、強権で制止された。
それでも脱出しようとした者は死をもって報われた。
かくて、この惑星の住民たちは全ての灯りを消し、自宅の中で息を殺して事態を見守っているのである。




