161 絶滅危惧種の珍獣を殺した女
「…… いやだね」
「!」
「誰がこんな戦闘と軍略両方で化け物みたいな才能を持つ女の止めを刺すか。あたしゃ、絶滅危惧種の珍獣を殺した女として、銀河に悪名を轟かせたくないよ」
「絶滅危惧種の珍獣? その例えは……」
「いいから引き上げるよ。ほら、旦那さんっ、行くよっ!」
「えーっ」
露骨に不満を顔に出す旦那さん。
「こいつなんか結構強そうだよ。一戦交えてからでもいいじゃん」
ソローキンを指差し、訴えかける旦那さんだが、シラネはそれを一蹴する。
「また、今度、戦わせてやるから。今はルカイヤの命がかかってんだ」
「今度は絶対戦わせてよ。で、どこに引き上げるんだ? 宙港占拠されてるから空挺降下して来たじゃないか。俺たち」
「ルカイヤのことだ。どこかに緊急脱出用の小型宙港でも隠してるんじゃないか?」
「本当にシラネさんは何でも見抜くのですね。ここから東南東に15キロほど離れたところに湖があります。そこの倉庫に航宙艇の『エミリー』が隠してあります」
「ビンゴ! よしっ、そこから脱出するぞっ! ルカイヤはもう寝てろ。体力を少しでも温存するんだ」
「ええでも、一つだけ。緊急コードLE発令します」
緊急コードLE。バストーニュ防衛軍の将兵は速やかに訓練用の機材を破壊した後、湖に集結し、惑星「バストーニュ」を脱出する。
「お見事! 撤退戦こそが将の真価を問われると言うが、やっぱりルカイヤは一級品だ」
シラネはしきりと感心する。
「それで、やっぱりパウリーネ様の救出は難しいのですね……」
シラネは首を垂れる。
「すまない。あたしと旦那さんと坊っちゃんの力をもってすれば、今も救出できる可能性はある。だが、そのことでルカイヤの治療が遅れて、死なせたなんてことになったら、あたしの心が耐えられない」
「私をそこまで買っていただきありがとうございます。もう眠ります」
「すまない。後になるが、必ずパウリーネも救出するからな」




