160 お金なら貸すほど持ってないよ
(!)
レーザーセイバー自体がまだそう出回ってもいない最新兵器である。そのもの自体の破壊力が通常兵器の比でないほど強い。
すんでのところで躱したはずのルカイヤの右手右足の一部に強烈な熱を帯びた痛みが襲ってきた。
(そんな躱したはずなのに……)
ルカイヤは気丈にもイワノフを睨みつけた。
(さっきの一撃で負傷したことを悟られないように……)
「ふっ」
イワノフは冷笑した。
「大したものだ。今のはかすったな? それでも正気を保つとは大した精神力だ」
「!」
「何とも惜しい。わしの忠実なしもべにならんか?」
「お断りします。負傷したとは言え、自死するくらいの力は残しているんですよ」
「いい覚悟だ。せめてわしの手で殺してやろう」
イワノフはもう一度レーザーセイバーを振りかぶった。
◇◇◇
次の瞬間、レーザー光がイワノフの左足の甲を貫いた。
「ぐおぅ」
倒れこむイワノフ。
「おっ、遅いですよ。今頃、来たんですか」
息も絶え絶えになるルカイヤの視線の先には、シラネ、旦那さん、そして、後方からレーザーブラスターを撃った坊っちゃんの姿があった。
「あたしゃこれでも、ミッドラントの役員だよ。出前じゃあるまいし、呼ばれてすぐ行けないよ」
シラネは倒れているルカイヤを抱きかかえた。
「この私が『外交交渉』するんです。シラネ以外の人間とはしたくもありません」
「おかげで『ミッドラント』ばかりか各関係機関調整するのに時間がかかっちゃたんだよ。民間企業の一役員を使節団代表にしないと、交渉に応じないなんて、無茶苦茶だよ」
「でも、シラネは来てくれましたね。ところで一つお願いがあるんですが」
「何? お金なら貸すほど持ってないよ」
「ふふふ。死ぬ前にシラネという人に会えてよかった。残念ながら私はもう駄目です。最後の望みはシラネに止めを刺してもらいたいのです」




