147 最後の最後で大魚を逃した
「ルカイヤさん。貴方という人を戦闘で失うのは耐えがたい損失です。投降してください。相応の応対をさせていただきます」
「ありがたいお言葉ですね。で、パウリーネ様はどうされるおつもりです」
「もちろん、丁重に応対させていただきます」
「ふふ。アナベルは真っ直ぐでとてもいい人ですね。そういう人は好きですよ」
「ルカイヤさん」
アナベルは一段と真剣な表情になった。
「『ビル・エル・ハルマート』で戦乱に巻き込まれ、難民となって苦労されたことを私も聞きました。だけど、ルカイヤの高い能力が犯罪組織である『洗脳機関』などで使われている現状は私にとって、残念な事実でしかありません。どうか投降して、私たちにその力を貸してください」
「ふふ。犯罪組織ですか、そのとおりですね。でも……」
ルカイヤは不意に上空を指差した。
「それでも、『洗脳機関』の中には難民の娘である、この私を慕ってくれる人もいるのですよ。このように……」
◇◇◇
上空からはゆっくりと垂直離着陸航宙機が降下して来ていた。
「!」
「坊っちゃんっ、あれは?」
アナベルは思わず坊っちゃんに問いかける。
「えっ? あれはアブドゥルさんの設計したミッドラント社製じゃない。あれは……」
「…… 『フォージャー』。そんな馬鹿な。『銀河連邦』側の航宙機だよ。あれ」
坊っちゃんも驚愕の色が隠せない。
そうこうしているうちに垂直離着陸航宙機は着陸し、パウリーネを抱えたルカイヤはそそくさと搭乗し、また、離陸していった。
誰かが叫んだ。
「呆然として見てるだけじゃ駄目だ。射撃しないと」
「いえ。いいです」
坊っちゃんが遮った。
「撃っても当たらないでしょう。もう一歩で、今回は『偵察局』の完勝だったのに、最後の最後で大魚を逃した」




