135 宿願かなって
ルカイヤは画面を眺めていた。
「『ラティーファ・ラフマーン』。やはり、伝説の航宙機エンジニア『アブドゥル・ラフマーン』の孫。あの時の赤ちゃん……」
19年前のあの日……
いつになく早めに帰宅したルカイヤの父は至極上機嫌だった。
「やったよ。とうとう要望が通った。ラフマーン技師長のチームに入れることになった」
上機嫌の父に母も笑顔になる。
「よかった。ラフマーンさんと一緒に航宙機の設計がやりたくて、ミッドラントに入ったんだもんね」
「うん。学校出て10年目。やっと宿願がかなったよ」
「じゃあ。今日はごちそうね。ルカイヤ。準備手伝って」
「はーい」
あの時の「ビル・エル・ハルマート」は好況に沸いていた。
何故、好況に沸いていたかなど、当時6歳のルカイヤには知る由もなかった。
◇◇◇
「ルカイヤ。俺の上司のラフマーン技師長の家で初孫が生まれたそうだ。これからお祝いを持って挨拶に行くけど、一緒に来ないか? 赤ちゃん、見られるぞ」
「赤ちゃん? 見たいっ!」
6歳のルカイヤは父の提案に飛びついた。
市街地のはずれにあるごく普通の家。生まれて間もなく大人の両手くらいの大きさしかないラティーファはそれを囲む大人たちの笑顔に囲まれて、静かに横たわっていた。
「かわいい」
ルカイヤからはそんなセリフが自然に出た。それがまた一層周囲の大人たちを笑顔にさせた。
「ルカイヤちゃんだっけ? 抱っこしてみる?」
声をかけたのはラフマーン技師長だった。
「いえ、そんなもし落としでもしたら」
あわてるルカイヤの父だったがラフマーン技師長は笑顔で返した。
「大丈夫だよ。大人が後ろで支えてやれば」
抱き上げた小さな命は温かだった。その後の19年間、ルカイヤは赤子を抱き上げるということをしたことがない。
惑星『ビル・エル・ハルマート』が『銀河連合』の爆撃機に空襲され、市街地が灰燼と化すのはこの日からわずか10日後のことだった。




