126 犬じゃないんだから
坊っちゃんは少し緊張していた。旦那さんとこれだけ別行動になるのは久しぶりだ。
今回は「チャージオン」後の回復をラティーファに全面的に委ねた形である。
体質だから仕方ないとは言え、どんなに近くで長く接していても、「チャージオン」するときれいさっぱり忘れる男である。
(作戦行動開始時にはじめて一緒になるようなもんだからなあ~。よそよそしくても嫌だなあ)
作戦行動のための航宙機はアナベルとオキニィを乗せて「副都心惑星」を発ち、「学術研究惑星」で旦那さんを乗せ、最後に「アクア3」で坊っちゃんとレーザーブラスター使い5人を乗せることになっている。
航宙機はゆっくりと「アクア3」の宙港に着陸する。
固い表情で坊っちゃんは一人一番前の席に座る旦那さんに声をかける。
「あの、旦那さん。僕、坊っちゃんだけど……」
次の瞬間、旦那さんは起立し、直立不動となった。
「あっ、あっ、あっ、坊っちゃんね。全然、憶えてないけど、お世話になったそうで、よっよっよっ、よろしくね」
「あの、僕のこと憶えてないのは仕方ないけど、何でそんなに緊張してるの?」
「ラっ、ラティーファがあんたは坊っちゃんにはうんとお世話になったんだから、ちゃんと挨拶しろと、後で坊っちゃん本人に確認して、挨拶出来てなかったら、プロレス技で締めると」
(ふうっ)
坊っちゃんは息を吐いた。
(少なくともよそよそしくはならずに済みそうだね)
「大丈夫。ラティーファには、ちゃんと挨拶できたと言っておくよ」
「よかったぁ~」
一気に緊張が解けた旦那さんは椅子に座りこむと、航宙機の機長に声をかけた。
「ところでさ~、今回、強い奴はいるんだろうね。それでどこに行くんだっけ?」
「さっき、航宙図を渡したでしょう」
機長は呆れて言う。
「あ、これか。で、どれが一番強いの?」
「それをこれから調査するんですよ」
「面倒だなぁ。匂いで分かるとかないの?」
「犬じゃないんだから。ためしに航宙図の匂い嗅いでみたらどうです?」
「成程。くんくん…… 駄目だ。同じ匂いしかしない」
「そりゃそうでしょうよ」
ふと見ると、アナベルにオキニィ、レーザーブラスター使いも笑いを噛み殺している。
(やっぱ、旦那さんは旦那さんだ。緊張した自分が馬鹿みたいだ)
坊っちゃんはそう思った。




