116 そんな訳あるかっ!
「ふぅ」
「人材育成機関」での旦那さんの教官としての適性の無さを聞かされたシラネは大きく溜息をついた。
「予想はできたけどきついね~」
「そうなんだよ。シラネ君。無理は承知の上だが、短期集中でもいいから、教官になってくれないか」
偵察局長は画面の向こうで頭を下げる。
「ふーん」
シラネは少し考えたが、すぐに次の提案を出した。
「いっそのこと、『剣術訓練コース』の訓練生に『ビル・エル・ハルマート』に来て貰うってのはどう?」
「シラネ君がどうしてもそっちを離れられないのなら仕方ないか。ミッドラントの施設は貸して貰えるかね?」
「それはあたしがミラー社長に頼んで何とかする。とにかく、旦那さんと互角の戦闘力を持った敵が出て来たとなると事態は予断を許さないしね」
「すまん。手間かける。一刻も早く君に頼らずに済むようレーザーセイバー使いを育てなければ」
「すぐに育つもんでもないだろうけど、やるしかないね」
◇◇◇
「ところでさぁ」
シラネは話題を変える。
「旦那さんはどうするの? また、記憶喪失になったんだよね」
偵察局長は自らの額を右手で押さえる。
「それなんだよ。ラティーファ君は大学が始まるから『学術研究惑星』に帰らなければならないし、坊っちゃんは『射撃訓練コース』の教官をしなければならないし……」
「ならさぁ」
シラネはにやりと笑う。
「ラティーファちゃんに『学術研究惑星』に連れて行かせればいいじゃん。どうせ『アクア3』に置いておいたって、何の役にも立たないし、放っとくと本気で漁師になっちまうよ。旦那さん」
「そっそっそっ、それは困るっ!」
偵察局長はあわてる。
「教官としては無能でも『偵察局』最強のレーザーセイバー使いなんだ。漁師になられちゃ困る」
「だから、ラティーファちゃんに連れて行かせろって言ってんの」
「うーん。『学術研究惑星』に『偵察局』の施設あったっけな」
「面倒だからもうラティーファちゃんと同棲させちゃえばぁ~」
「(うわ、冷静なようで、やっぱり旦那さんの妹だ。無茶苦茶言う)いやいやいや。ラティーファ君はミッドラントのアブドゥル技師長の孫娘だろう。そんなこと言っていいのか?」
「黙っていれば分からないんじゃない?」
「……(そんな訳あるかっ!)」




