109 まさか あんなものまで持っているとは
「どういうことっ? 宙港じゃなくて、海面に降りるなんて……」
ラティーファの疑問に即座に答えたのは、坊っちゃんだった。
「宙港だと僕らの射撃を受けるからでしょう」
「それにしても、海面に降りられる航宙機なんかあったんだ?」
「あれは正式に言うと『航宙機』ではなく、『航宙艇』です。リバーウエスト社の『エミリー』の輸送タイプです。着水出来るし、水上から飛び立てます。でも、まさか、あんなものまで持っているとは……」
島の訓練生たちが茫然としている間、「航宙艇」からは、わらわらと敵兵が飛び出して来た。
今までと違い、「狂信的暗殺者」の姿は見られない。
◇◇◇
敵兵は素早く散開し、射撃を始める。
「いけないっ! みなさんっ! 散開して遮蔽物に隠れて応戦して下さい」
訓練生は、坊っちゃんの指示一下、散開する。
(これは……)
坊っちゃんにはすぐ分かった。
(今まで戦ってきた相手とはモノが違うぞ。精鋭だ。『ビル・エル・ハルマート』や『アクア3』の現地徴募兵とは訳が違う……)
「エウフェミアさんっ!」
坊っちゃんは振り向きざまに声をかける。
「すぐにエウフロシネちゃんを連れて、建物の中に退避して下さいっ! こいつらは危険だっ!」
エウフェミアは頷くと、右腕でエウフロシネを抱きかかえ、建物に入ろうとする。
だが、エウフロシネは抵抗した。
「坊っちゃんっ! 坊っちゃんが心配っ!」
「エウフロシネちゃんっ!」
エウフェミアはいつになく厳しい顔でエウフロシネを窘めた。
「前もそれで『人質』になって、みんなに迷惑かけたでしょっ! 忘れたのっ?」
「うっ、うん」
エウフロシネは静かに頷いた。
「大丈夫。旦那さんと坊っちゃんのコンビは今まで負けたことないんだってから」
エウフェミアは最後に笑顔を見せた。




