106 何でいきなり技かけられてるんですか
旦那さんのもっともな疑問に、場は一転静まり返った。
「うん。そういや、俺たち、金払ってなかったな」
「そうだそうだ」
「いやぁ、つい、盛り上がっちゃったな~」
荒くれ海の男たちは大爆笑した。
◇◇◇
荒くれ海の男たちはそれで納得したが、ラティーファはそうはいかなかった。
「ラッ、ラッ、ラッ、ラティーファさん。何で俺はいきなりホールドかけられてるんですか?」
「全く……」
ラティーファはホールドする腕に力を入れる。
「旦那さんは何しにこの惑星に来たんだっけ?」
「何って、ええと、肉食魚退治だっけ?」
その答えにラティーファは、みたび背筋を伸ばす。
「ぐわあぁぁぁっ」
またも旦那さんが悲鳴が上がる。
「そうじゃないでしょ。旦那さんの仕事は『人材育成機関』の教官でしょ?」
「言われてみれば、偵察局長がそんなこと言ってたような……」
ラティーファは大きな溜息をついた。しかし、ホールドは外さない。
「何で、その『人材育成機関』の教官が訓練生ほっぽり出して、魚取りに精出してんの?」
「だって、強そうな人が誰もいなくて、その点、肉食魚は強いんがいて……」
「強そうな人がいないなら、旦那さんが鍛えて、強くすればいいでしょ」
「他人を強くするやり方なんか分かんないよ。俺には……」
ラティーファはもう一度大きな溜息をついた。ホールドはそのままだ。
(そうだ。旦那さんは呆れるくらい不器用なんだ。はああ。でも、そういうところが……)
ラティーファはあわてて頭を振った。
(いやいやいや、何を考えている。あたし。今はそんなことを考えている場合じゃないだろう。よしっ!)




