104 素早くすり抜け入れ違いに乗船しようと
エウフェミアが最終的にシナンを連れて行ったのは、やはり、エウフロシネが坊っちゃんを連れて行った砂浜だった。
「ここはエウフロシネちゃんとあたしの秘密の場所で、ここで二人で、肉食魚の歯でネックレスを作ったんです」
「そんな大事な場所に、俺が来ちゃっていいの?」
シナンの問いに、エウフェミアは笑顔で答える。
「いいんです。ここは坊っちゃんも来たことあるんですよ」
エウフェミアはまたほほ笑んだ。
その笑顔は、この惑星の衛星の反射光を浴びて、輝いていた。
シナンはドキリとした。
(そう言えば、こんな感情は、ラティーファちゃんにしかなかったかもしれない。シラネさんにはなかったな)
己の胸の鼓動の高鳴りに、思わず黙り込むシナンだったが、エウフェミアは懐からなにやら取り出した。
「あの、これ、貰ってもらえませんか?」
懐から取り出したのは、肉食魚の歯で作ったネックレスだった。
「これは大事なものじゃ?」
「大事なものです」
エウフェミアはシナンの眼を見据えて言う。
「だから、貰って欲しいんです」
シナンは一瞬だけ躊躇したが、すぐ、受け取った。
「ありがとう。大事にするよ」
◇◇◇
翌朝は好天に恵まれた。
『人材育成機関』の島行きの船は、あっという間に目的地に到着した。
毎日のことにかかわらず、着くや否やエウフロシネは船から飛び降り、『人材育成機関』の建物に向かい、駈け出した。
「ああっ、待ってよ~っ、エウフロシネちゃん」
エウフェミアはあわてて船から降りる。
「凄い張り切りようだね~」
シナンは感心しつつ、追うように降りる。
そこに船に近づく黒い影一つ。
黒い影は素早く船から降りる一行をすり抜け、入れ違いに乗船しようとした。




