100 自習以外やったことがない
「てゆーか、『剣術訓練』コースの方は『自習』以外やったことないんですけどね。みんな『射撃訓練』コースが羨ましいと言ってます」
アナベルは淡々と語る。
事の真相はこういうことらしい。
「剣術訓練」コースの訓練生は十名は「星間警察」「偵察局」の中の多数の受講希望者から選抜された。
選び抜かれた栄えある「剣術訓練」コースの訓練生のうち九名は希望に満ちて「人材育成機関」の門をくぐった。
教官は「洗脳機関」の指揮官三名を倒した通称旦那さんことホタカ・スカイ氏である。
訓練生のうち、ただ一名アナベルだけは一抹の不安を抱いていたが。
◇◇◇
不安は見事に的中した。
開講の日、背筋をピンと伸ばし、横一列に並んだ訓練生の前に現れた旦那さんは部屋中に響き渡るような大きな溜息をついた。
それから…… 背中のレーザーセイバーを抜刀した。
しかし、そのレーザーセイバーには「柄」しかなかった。
旦那さんはもう一度、大きな溜息をつくと、おもむろに壁に「自習」と書かれたA1程の紙を張り付けた。
最後に、「そこに模擬刀があるから、適当にやってて」と言うと、部屋から出て行った。
残された訓練生たちは茫然としていたが、事前にこの事態を予測していたアナベルだけは冷静だった。
「ぼうっとしていても時間がもったいないです。せめて『模擬剣闘』をして、先生を待ちましょう」
こう呼びかけ、現在に至る。この後、旦那さんの姿を見た訓練生は誰もいない。
◇◇◇
「そう言えば……」
エウフロシネが言う。
「あたしが今日、ここに来る時に、船に向かう黒い影とすれちがったんだけど……」
「やっぱりかあ」
坊っちゃんはうなだれる。
「それが、旦那さんだよ。そうじゃないかと思ってたけど、やっぱり、ここの人たちと一緒に漁に行ってたんだ……」




