表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/379

刹那の動き


――キーンコーンカーンコーン


「て、天童……」


 本日の授業も終わり、自習室に向かうためバッグに勉強道具を突っ込んでいると、弱々しい声で高山が声をかけてきた。

珍しく今にも力尽きそうな声で俺に何かを訴えてくる。


「どうした、そんな声で。珍しいな」


 肩にバッグをかけ、高山の方を覗くと顔がやや青白くなっている。


「俺は、もうダメかもしれない……」


「何があったんだ?」


「は、腹が……」


 高山が腹を押さえて涙目で俺に訴えてくる。

たまたま俺の手には熊さんにもらった胃腸薬がある。


「ほら、これやるよ」


「た、助かる……」


 そんなやり取りをしていると、杏里と杉本が俺達の隣にやって来た。


「ど、どうしたんですか?」


 心配そうな目で杉本が高山に声をかける。


「いや、ちょっとお腹が……」


「天童さんも腹痛、高山さんも腹痛……。も、もしかして私の作ったデザートが……」


 いえ、そんな事はありません。俺は腹も痛くないし、わりかし元気です。

隣で杏里も心配そうにこっちを見てくる。


「天童さんはお弁当食べて、腹痛になったのですか? それともデザートで……」


 あ、やばい。俺のせいで二人が犠牲になりつつある。


「そんな事無い。高山はきっと食べすぎだ。な、なぁ高山」


 杏里の弁当はうまかった。杉本さんのデザートもうまかった。

まずかったのは俺の対応だ。すまん、みんな……。


「か、かーちゃんの作った弁当を早ベンして、昼に三段弁当を食べて、デザートを食べただけなのに……」


 うん。それは食べすぎと言うんだよ。


「天童さんは、大丈夫ですか?」


「あぁ、俺は何ともない。二人とも心配しなくていいぞ」


 隣で高山が胃腸薬をのみ、一息ついている。

多分すぐにすっきりするだろう。


「高山もすぐに治るだろうし、自習室に行こうか」


 若干ダメージの残っている高山のバッグを俺が持ち、四人で自習室に向かう。



――ピッ


 杉本さんがエアコンのスイッチを入れてくれた。

今日は我慢大会にならないで済みそうだ。


 席順は昨日と同じ。一つ違うのは高山のテンションが低いくらいだ。


「悪い。やっぱ保健室行ってくる」


 高山がふらつきながら自習室を出て行こうとしている。

これは、俺が着いて行った方がいいかな?


「あ、私が付き添います」


 杉本さんが席を立ち、高山の肩を支えようとしている。


「だ、大丈夫。一人で行けるから」


「少し顔色が悪いですよ。杏里と天童さんは自習室で待ってて下さいね」


 自習室から出ていく二人を俺と杏里は待つことにした。

二人が出て行って数分、特に会話はない。

互いにノートに書きつつ、教科書を読みつつ、何となくお互い意識してしまっている。

杏里の手が止まり、ペンがノートに転がる。そして、俺の方に少しだけ近寄り、肩をよせてくる。


「司君。お腹、本当に大丈夫? 何度も味見したんだけど、もしかして私のお弁当が原因じゃ……」


 少し涙目になりながら俺に訴えてくる杏里。

そんなに心配しないでください。


「杏里のお弁当はうまかったよ。作ってくれてありがとう」


 俺は笑顔で杏里の頭をなでる。

杏里も笑顔で俺に答えてくれた。


「本当に大丈夫なの?」


「あぁ、本当にうまかったよ。また作ってほしいな」


「うん。また作るね」


 高山の腹痛騒ぎで俺達は自習室に二人っきり。

学校で二人きりになる事など今までなかった。

テーブルの下で俺と杏里の手が重なっている。


「杏里は俺達の事、杉本さんに話すのか?」


「うん……。何度も考えたけど、映画が終わって一段落したら話してみるつもり」


「俺も高山に話そうと思っているんだ。俺達の事、高山に話してもいいかな?」


「私達の事、あの二人に知ってもらいたい。そして、出来れば学校でも司君ともっと一緒にいられるように……」


「俺も学校でも杏里と、もっと一緒に、もっとそばにいたい……」


 俺と杏里の距離が近づく。

ほんの、あとほんの少しで顔がくっつきそうになるくらい。


 そして、杏里が目を閉じ、俺の唇が杏里の唇に重なる――。



――ガチャ


「ただいまー!」


 刹那。俺と杏里は元の席に戻る。

そして、互いにノートを開き、参考書を開き始めた。

杏里! 参考書が上下逆だぞ!


「お? お二人さん、進んでいるかい?」


 すっかりいつもの調子に戻った高山。

その後ろで杉本さんがこっちを覗いているのがわかる。


「ただ今戻りました」


「お帰り。熊さんいた?」


「おう、お腹をグーッと何カ所か、ぐわっとさすって貰って、薬を飲んだら痛みが無くなった。食べ過ぎだって」


 俺は心臓がバクバクしているが、顔に出さないように細心の注意を払う。

杏里は参考書で顔を隠しながら、下を向いたままだ。

こっちから見ると、耳が赤くなっているのがわかる。


「よし、やっとこれで集中できる! 心配かけて悪かったな」


「いや、問題ない。テストも近いし、頑張りますか」


「そうですね。でも、杏里のおかげで勉強がしやすいし、はかどりますね」


 そう。杏里は学年トップの学力を。そして、教え方も非常にうまい。

そして、意外な事に高山も教えるのが上手かった。


 しばらく集中し、勉強をしていたがだんだん集中力が切れかかってきた。

少し休憩でもしますかね。


「そろそろ一回休憩を入れないか?」


「ん? もうそんなに時間がたったのか? 早いなー」


 高山がペンを置き、背伸びをしている。

杏里もペンを置き、高山と同じように背伸びをしている。

そして、杉本も杏里と同じように両手を組み、その腕を頭の上に伸ばし始めた。

同時に高山の目線も杉本の胸辺りを見ているようで、少し鼻の下を伸ばし始めた。

一体何をしているんだか……。


 さっきまで腹痛で、唸っていた奴の行動とは思えない……。

でも、俺の目線はそんな中でも杏里の方にしっかりと向いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載中】 微笑みの天使の恋心 ~コスプレイヤーの彼女は夢を追いかけるカメラマンに恋をした~

【短編集】主に恋愛、ラブコメ、青春系の短編 をまとめました。お気軽にお読みください。

【完結済み】可愛い後輩の選択 ~俺が最愛の人に出会うまで~

【第一章完結】武具に宿った魂を具現化したらいつの間にか最強パーティーに! ~具現化した武器っ娘とダンジョン攻略。武器にも乙女心があるんです~(仮)

よろしくお願いします!


ブックマーク未登録の方は、ご登録をお忘れなく♪
是非よろしくお願いいたします。


↓小説家になろう 勝手 にランキング参加中!是非清き一票を↓
清き一票をクリックで投票する

ツギクル様 →  ツギクルバナー

アルファポリス様 →  cont_access.php?citi_cont_id=329323098&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ