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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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白馬の王子


 急に声をかけてしまったので、姫川が指を切ってしまった。

完全に俺のミスだ。声をかける前に注意深く見ればよかった。


「だ、大丈夫か!」


 俺は慌てて姫川の手を取り、すぐに流水で姫川の指を流した。

そして、茶箪笥から綺麗な布巾を取り出し、切ってしまった場所に布巾をあてる。


「大丈夫ですよ。そんな大事にしないでください。ほんのちょっと切っただけです」


「ごめんな、急に声かけて」


「いえ、私も不注意でした。気にしないでください」


「いま絆創膏持ってくるから座って待ってろ」


 姫川を椅子に座らせ、急いで救急箱を手に持ち姫川の元に戻って来る。

そして、救急箱から一枚の絆創膏を取り出す。


「ほら、指出して」


「え、自分でできますよ」


「いいから、遠慮するな」


「うん……」


 俺は椅子に座った姫川を目の前に、片膝をついてその手を取る。

白く細い手を取り、切ってしまった指先を見る。

ほんの数ミリ切れただけだ。良かった、大事にならなくて。


 優しく指に絆創膏をつけ、そのまま手を握りながら、切ってしまった指をまじまじと見る。

うん、大丈夫そうですね。本当に良かった、大きな傷にならなさそうだ。


 ふと顔を上げると姫川が俺の方を見ている。

その顔は少しにやけており、若干だが頬が赤くなっている気がする。


「どうした? 痛いのか?」


「……痛くない。ありがとう、司君」


――ドキンッ


 鼓動が高鳴るのを感じた。

姫川に下の名前で呼ばれた。ただの下宿ルールかもしれないが、突然では心臓に悪い。

女子に下の名前で呼ばれた事など皆無。俺はどう反応すればいいんだ?


「そ、それはよかたーな、あん、り?」


 それから互いに言葉を交わすわけではなく、二人の目線は交差したまま、時間だけが過ぎていく。

はたから見たら手を握り、見つめ合う二人に見えるだろう。

その姿は椅子に座った姫の手を取り、忠誠を誓う騎士のようにも見えなくもない。


 そんなわけあるかい!


 俺の心臓は爆発寸前だ。手を離すタイミングを完全に見失っている。

しかも、姫川を下の名で呼んだのはいいが若干噛んでしまった。

言い直した方がいいのか、早く姫川の反応が欲しい。俺はどうしたらいい?

このまま姫川からのアクション待ちでいいのか?



――ガチャ


「司? 杏里ちゃんの手を握って何しているの?」


 え? あ、いやそうじゃないよ?

俺はあわてて姫川の手を離した。


 姫川も少し頬を赤くしながらも、自分で自分の手を握っている。


「ちょ、ちょっと指を切ってしまって……」


「そ、そうそう。絆創膏はってただけだ」


「ふーん……。杏里ちゃん、そろそろお風呂に入る事ができそうだけど、今日は私と一緒に入るかい?」


「え? 一緒にですか?」


「そう。女同士、裸の付き合いでもしようじゃないか」


「はぁ……」


「司は勉強でもしてなね」


「はいはい……」


「覗かないように」


「覗くか!」


「では、お風呂に入る前に、ちょっと洗濯機回してきますね」


「うん、大丈夫だよ。お湯が入るまでもう少しかかるからね。あと、洗い物は私が続きをしておくよ」


「ありがとうございます。ごめんなさい、迷惑をかけて」


「そんな事無いよ。気にしない事!」


 そして、母さんは台所に立ち、姫川は自室に戻って行った。

俺は姫川の座っていた椅子を元の場所に戻し、再び一人リビングに。

母さん一人増えただけでなんでこんなに疲れるんだ?

 

 俺は今日、家事一切してないのにもいつもの数倍疲れている。

それに姫川の事を杏里って呼ばないとダメなのか?

そんな事を考えただけで、握ったペンからきしむ音が聞こえてくる。



――


 しばらくすると部屋の外から洗濯機の回る音と女性二人の高い声が聞こえてくる。

柔らかーいとかすべすべーとか、俺には一切聞こえていない。

ここは無心だ。無心にならなければならない。


 俺は心を強く持ち、勉学に励む!


「あがったよー」


「お待たせしました……」


 湯上りの二人を横目に、俺は自分の風呂の準備をして、風呂場に向かう。

姫川はいつも通りの頭タオルにパジャマだったが、母さんはバスタオル一枚で部屋をうろついている。

昔からそうだが、早くその癖を何とかしてほしいものだ……。


「じゃ、俺も風呂入って来るよ」


「はいはーい」


 のぼせたのか、疲れたのか姫川は無言で椅子に座っている。

一体風呂場で何が起きたのか、俺には知る由もない。



――


 はぁぁぁぁ……、落ち着く。

一人湯に入り、ゆっくりと今日の疲れを癒す。

今日の湯はなぜかいつもと違ってやや白く濁っている。

きっと母さんが入浴剤か何かを入れたんだな。

これはこれで、嫌いではない。温泉とか大好きだしね。


 いい感じに俺も茹で上がり、風呂場を後にする。

牛乳を飲もうと台所に向かっていると、洗濯機の前に姫川が一人立っているのが目に入ってきた。

手には何か紙みたいなものを持っており、微動だにせず読みふけっている。

さっきの件もあり、やや遠くから姫川にも聞こえるような声で声をかけてみる。


「姫川、何見てるんだ?」


 すでに姫川が回していたと思われる洗濯機は動いていない。

そして姫川本人も動いていない。まるで時間が止まっているかのようだ。


 ビクッと肩を震わせ、手に持っていた紙を背中に隠し、俺の方に振り向く。

何か見られたくなかったものなのか?


「つ、司君! お、お風呂あがったんだね」


 下の名前で呼ばれ、少しだけ鼓動が高鳴る。

姫川は練習の成果なのか、噛まずに言えている。

俺も後で自主練でもしようか……。


「ん? あぁ、今上がった。何してるんだ?」


 かなり挙動不審な姫川。やや腰も引けている。


「何でもない! 気にしないで!」


 そう言われると気になる。何を隠したんだ?

もしかしてラブレターか! 確かかなりの量を貰っていたと聞くが、ここ最近はどうなんだろう?

非常に気になりますね。


 俺は少しだけ追及してみる事にした。


「もしかして誰かにラブレターでももらったのか?」


「違います! もらっていません!」


「そうか……。じゃぁ、背中に何を隠したんだ?」


「あぅ……。えー、秘密です!」


 えー、気になるじゃないか。


「俺が見たらまずいものなのか?」


「え、いや、そうではないんですが……」


「あっ! もしかして気になる男の写真か!」


 すると姫川は少し怒ったような表情になった。

あれ? 違ったのか?


「違います! 写真は撮ってません!」


 お? 撮っていないと言う事は、姫川には意中の人がいると言う事か。

姫川の心を射止める男はきっとそれなりに男前で白馬の王子のようなやつなんだろうな!


 ……と、以前の俺だったら思うだろう。

だが、今の俺は違う。一体誰だ? 姫川の気になる奴はどこの誰だ?

俺の知っている奴か? まずいな、気になって気になってモヤモヤしてしまう……。

あれ? どうしてそんな事を思うんだ? このモヤモヤってなんだ?


「悪かった。そんなに怒らないでくれ、もう聞かないよ」


 俺が姫川に背を向けたとたん、姫川が俺の腕を掴んできた。

なんだ、まだ何かあるのか? もしかして、相当怒っているのか?

少し、ドキドキしながら振り返ると、顔を赤くした姫川がいる。

あ、相当ご立腹ですね。大変失礼しました。


「こ、この写真に見覚えないですか?」


 姫川はさっき隠した紙みたいなやつを俺の目の前に突き出し、見せてきた。

俺はそれを見た瞬間、この場から逃げ出したくなった。


 俺の、目の前に、姫川の写真が。

同時に遠くの方で声が聞こえる。


『つかさぁー! お風呂あがったのぉ! 制服のポケットに色々入っていたから出しておいたよ! 回収しておきなねっ!』


 目線を写真から洗濯機へ。

母さんの回した洗濯機の上にはペンや生徒手帳、ポケティなどが乗ったままだった……。



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