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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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ケッコン


――ピピピピピ


 毎朝お馴染みの音で目が覚める。

目を閉じたまま、鳴り響くアラームを止めるべく、手探り状態でスマホを探す。


 ふと、手に何か柔らかい何かに触れる。

その柔らかい何かを握ったまま、俺の脳は覚醒していき、目をうっすらと開ける。


 視界に入ってきたのは、少し寝癖の付いた姫川。

ベッドの横に座っており、微笑みながら俺の方を見ている気がした。


 そして、目線を自分の手に向けると、姫川の手を握っている。

どうやら手をベッドの上に置いていたようだ。


 一気に脳が覚醒した。

姫川の手を握っていた自分の手をスマホに移動させ、いまだ鳴り響くアラームを止める。


「お、おはよう」


 俺は少しドキドキしながら、布団に入ったままの状態で姫川に声をかける。


「おはようございます。痛みはありませんか?」


 薄暗い部屋の中、姫川の可愛い声が耳に入ってくる。

毎朝こんな声を耳元で囁かれたら……。


「痛みはほとんどない。何時からそこに?」


「ほんの数分前ですよ。きっといつもと同じ時間に起きると思ったので」


 立ち上がった姫川はカーテンを開け、部屋に光が入って来る。

昨日は少し遅かったせいか、少し体がだるい。


「今日はゆっくりしていて下さいね。朝の準備は私がしますので」


 布団をたたみ始める姫川。

朝の準備とはきっと朝食の事だろうか。


 それだけは阻止しなければ!


「いや、俺も一緒にするよ。朝食も簡単にできるし」


 俺も起き上がり、布団をたたみ終わった姫川と一緒に洗面所に向かう。

顔を洗い、うがいをする。鏡を見ると、俺と姫川の二人が並んで見える。鏡に写った自分を眺める、髪型に違和感を感じる。

そのまま目線を姫川に移す。

姫川は手グシで髪を整え、寝癖を直していた。


「着替えてきますね」


「ああ、わかった。俺は着替えたら朝食の準備しているな」


「分かりました。無理、しないでくださいね」


 階段を駆け上がっていく姫川。

恐らく戻るまで二十分はかかるだろう。


 俺は早歩きで自室に行き、若干痛みのある指をかばいながら服を着替える。

通学用のバッグを開き、今日のコマを確認する。

良し、問題ない! さて、朝ごはんの準備を!


 急いで台所に行くとすでに姫川がいる。

早くないですか? もしかして、俺が時間かかったのか?


「今朝は何にしますか?」


 姫川は制服の上からエプロンを身に着けている。

準備が早く、すでにスタンバイ状態。

しかし、エプロン姿が良く似合いますね。


「あー、今日はトーストとフルーツヨーグルトでいいかな?」


「随分簡単ですね。卵でも焼きます?」


「そうだな、卵くらい焼くか」


「では、私が焼くので、天童君はそれ以外をお願いしますね」


 姫川が冷蔵庫を開け、卵、ヨーグルトなどを準備する。

俺は茶箪笥からパンとフルーツ缶を準備する。


 姫川は焼くだけ。俺はパンを焼いて、ヨーグルトとフルーツ缶を混ぜるだけ。

パーフェクト。問題なく今日もミッションクリアできそうだ。


 トースターに食パンを入れタイマーセット。

そして、ボウルにヨーグルトを入れ、いざフルーツ缶を開けようとする。

右手に缶切り、左手にフルーツ缶。あれ? もしかして、この指だと難しい?


 少し困惑していると、姫川がそっと俺の右手を支えてくれた。


「これで開けられますか?」


「悪いな……」


 俺の腕に姫川の胸が少しだけ触れる。

俺は動揺しているそぶりを見せないように、無心にフルーツ缶を開ける。

恐らく姫川は気が付いていないのだろう。

ここで俺が何か言えば、姫川が傷つくかもしれない。


『女子の胸に触れるなんてサイテーですね!』

『全く、そんな事考えていたんですかっ!』


 とか。よし、何も言わずになかったことにしよう。


「後は混ぜるだけですね。卵もソロソロ焼けますよ」




――


 目の前にはこんがりといい匂いのするトースト。適度なフルーツがミックスされたヨーグルト。

そして、黄身が崩壊し血痕のような形で焼き上がった目玉焼き。


「おかしいですね。なぜこんな形に……」


「見た目はともかく、味は大丈夫だろ?」


 俺達は早速朝食をとる。

姫川の焼いた目玉焼きは、見た目こそ痛々しいが味に問題はない。

着々と成長していますね、先生嬉しいです!


「味は大丈夫ですが、今度目玉焼きの作り方見せてくださいね」


「そうだな、いつでも教えてやるよ」


 こうして朝食の時間も過ぎ、日課であるジョギングをしない分時間に余裕ができてしまった。


「少し早いけど、学校行くか?」


「そうですね、いつもより早いので今日は二人で登校しましょうか?」


「なぜそうなる? 別々でもいいだろ?」


 互いにメリットが無い状態。しかも、面倒事になるかもしれない。

だったら初めから別々に登校すればいいだけだ。

何故ここでリスクを負わなければならない?


「登校中に何かあったら大変じゃないですか。いつもより登校時間が早いので、大丈夫ですよ。天童君の思っている事にはならないと思いますよっ」


 俺の返事を聞かないまま、姫川は部屋を出ていき、通学用のバッグを持ってくる。

これは強制イベントってやつですね。まぁ、ずいぶん時間もずれているし、今日くらい大丈夫だろ。


「じゃ、さっさと行くか」


「はいっ。行きますかっ」


 俺達は二人並んで初めて一緒に登校する。

同じ家を出て、同じ学校、同じクラスに向かう。

少し照れ臭いが嬉しくもある。


 姫川はどう思っているのだろうか。

姫川は昨日『楽しんでいる』って言っていた。


 俺も結構楽しんでるよ。

初めは不安だったけど、今は楽しんでる。

これって、言葉で伝えた方がいいだろうか?


 玄関を開け、鍵を締める。


「「いってきます!」」


 俺達の今日は、今から始まる。

明日もきっと同じように始まる。

でも、姫川と過ごす日々を、俺は毎日大切に過ごしたい。

かけがえのない、一度しかない今日だから。


「よっしゃ、今日も一日がんばりますか!」

 

「頑張りましょう!」



 そして、俺達は駅に向かって歩き始めた。


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