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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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理解し合う事


――ピィィィィィィ


 ちょうどヤカンから、お湯が沸けた音が鳴り響く。

ヤカンが動きの止まった俺を解除してくれた。

ナイスタイミング、ヤカン。姫川が慌てて、コンロの火を止める。


 俺は気を取り直し包丁を再度握り直おす。そしてゆっくりと横目で姫川の方を覗いてみる。

姫川は真剣にケーキを見つめていた。

その目線の先にはイチゴ。恐らくでっかいイチゴが映っているだろう。


「イチゴ好きだったら、全部姫川の方に乗せるか?」


 そんなに好きだったら、全部やってもいい。

俺はそこまでイチゴ好きではない。が、栗はもらいたい。


「いいんですか?」


「ああ、イチゴ好きなんだろ? そのかわりに栗をくれ」


 交渉成立だ。互いに好きなものをゲットする。ウィンウィンの関係じゃないか。

俺達はうまくやっていける、ベストパートナーだ。

やったぜ栗、甘くてうまいんだよな。


 ショートケーキを切る時に少しだけ姫川の分を大目に切り取り、でっかいイチゴをそのまま乗せる。

モンブランは半分にカットしたが、栗は俺の方に全部乗せ、チーズは半分にカット。

それぞれの皿に盛りつけてみる。

うん、ちょっとしたデザートプレートのように見える。


 姫川の入れてくれた紅茶と俺のカットしたケーキ皿。

ちょっとしたお祝いですね。いい感じに仕上がりました。


「んじゃ、姫川の初バイトを祝して、いただきますか」


「えっと、何か恥ずかしいですね……」


 しかし、その言葉とは裏腹。

手にはすでにフォークを握っており、臨戦態勢。

いつでも出撃できそうな体制を取っている。

顔からは笑みがこぼれているが、目線はイチゴを狙った狼だ。


「「いただきます!」」


 俺は先に紅茶へ手を伸ばし、一口飲む。

相変わらずいい香りがする紅茶だ。一人の時はほぼコーヒーだったので、姫川の入れてくれる紅茶がおいしく感じる。


 ん、このカップ確か姫川がマンションから引き上げた時のカップだよね?

俺が使っていいのか?


「なぁ、このカップ、大切なカップじゃなかったけ?」


 姫川のショートケーキはすでに半分消えており、少しだけ唇の端に白いクリームが付いている。

気が付いているのか? 多分気が付いていないよね?


「そうですよ。大切なカップです」


「俺が使っていいのか?」


「いいんですよ。今日は記念日です。それに使った方がきっと母も喜ぶと思うし」


 そんな事を言われながら、互いにケーキを頬張る。

が、姫川はショートに乗っているイチゴをまだ食べていない。

きっと好物は最後に食べる派だなきっと。

ちなみに俺も最後に食べる派です。モンブランに乗った栗は最後に食べる。


 ショートケーキ本体が無くなった姫川は、手に持ったフォークをついにイチゴに差し向ける。

そして、イチゴをサクッと半分に縦割り。

やや大きめのイチゴを一口で食べるのはもったいないと判断したのか、半分になったイチゴをフォークで刺す。


「このイチゴ、結構大きいですね」


「そうだな。それに赤くて、甘そうだな」


 あまりショートケーキを買わないが、確かに大きなイチゴは甘そうに見える。

フォークに刺さったイチゴを見つめながら、姫川は無言になり、何かを考え始めた。

そして、手に持ったフォークをそのまま俺の口元に差し出してくる。


 目の前に半分になったイチゴが現れた。

どうする?


「何だこれは?」


「半分です。イチゴも半分天童君に」


「いらないのか?」


「イチゴは好きです。でも、おいしい事も、楽しい事も一緒に同じものを共有したいじゃないですか」


 大好きなイチゴを俺にくれるのか。

ここで断る事は簡単だが、姫川の意思も尊重したい。


 楽しい事も、おいしい事も一緒に共有したい。

その気持ち、わからなくもない。


「そっか。じゃ、ありがたくもらうな」


 姫川の差し出したフォークから一口でイチゴを食べる。

甘い。そして、少しだけ鼓動が早くなる。俺も、あげた方がいいんだよな?

もしかして、姫川は栗も食べたかったのか? その意思表示だったのか?


 俺は大好きなモンブランの栗を半分にし同じように姫川の口元に差し出す。


「ほら、お返し。遠慮なくパクッといってくれ」


 きっとケーキの中でも、特に大きな栗の乗ったモンブランが大好きだ。

子供の頃から、ケーキと言えばモンブラン。モンブランと言えばケーキ。当たり前か。

それくらい、モンブランとケーキの上に鎮座している栗が大好きだった。

俺は甘い栗が「好きだ」。


 姫川にも半分あげて、おいしいを共有する。

これでいいのか?


 フォークの先端を口に入れている姫川。

そのまま口を動かし、フォークから離れていく。


 栗を頬張る姫川は少しだけリスにも見える。

頬を膨らませ、その姿が可愛い。次第に姫川の頬が少しだけ赤くなっていく。


「好き……、ですか?」


 ん? 栗が好きかって事か?

そりゃもちろん!


「あぁ、好きだ。毎日見たい位だな」


 モンブランを毎日食べたら太るかな?

でも、小さいモンブランなら平気だよな?

本当に毎日でも食べていたいし。


「わ、私も、毎日、でもいいです……。この栗、甘いですね」


 姫川も毎日イチゴを食べたいか。その気持ち分かるぞ。

俺も同じ気持ちだ。近いうち商店街に行ってイチゴをゲットしてくるかな。


「こっちのイチゴも甘いぞ」


 互いに互いの好きなものを交換する。

決して自分の好きを押し付けるわけではない。

互いの『好き』を理解し合う事が大切なんだ。


 俺はこの先、色々な人と関わっていくだろう。

その時に自分の考えを押し通すではなく、互いに理解し合う事が大切なんだなと思った。




――


 ケーキ皿も紅茶も空になり、ちょっとしたお祝いは終わりを告げた。

風呂の準備をし、今日も先に姫川が入る事となる。


 俺の精神力は日に日に最大値を更新しており、心にゆとりができてくる。

そろそろある程度の事では動揺しない自信がある。


「では、先にお風呂いただきますね」


「はいよー」


 姫川がいない間に、冷蔵庫の食材と買い置きの調味料類の在庫を確認する。

いまだに野菜室の半分を埋めているキャベツ様。どうしようか……。


 そんな事を考えていると、風呂場から姫川の声が聞こえてきた。


『キャァァァァァ!』


 ど、どうした! 何があった!

事件か、事故か、もしくは見てはいけない何かが出たのか!


 俺は冷蔵庫の扉を勢いよく閉め、風呂場に向かって走り出した。


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【連載中】 微笑みの天使の恋心 ~コスプレイヤーの彼女は夢を追いかけるカメラマンに恋をした~

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