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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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シンデレラ


――コチコチコチ


 静かな部屋に響き渡る時計の音。


――カリカリカリ


 そして、姫川がノートにペンを走らせる音。


――ボリボリボリ


 集中力が切れ、駄菓子に手を出している俺。

いかん、この状況は非常にまずい。


 さっきから思うように集中できない。

決して俺が集中できない男だからではない。

女子と同じ部屋で二人きりの環境に馴れていないせいだ。


 そして、この距離にも問題がある。

ノートに集中すると、石鹸の柔らかい香りが俺を襲ってくるからだ。


 時計を見るとそろそろ八時になろうとしている。

思ったより時間が経過している事に気が付く。


「姫川、そろそろ八時になるし、ご飯にしないか?」


 姫川はペンを置き、グッと背伸びをする。


「んー。もうそんな時間なんですね。気が付きませんでした」


 ノートを閉じ、参考書などを机の端にまとめ、筆記具をペンケースに戻す。

早い。秒殺です。目の前にいるできる女子は一味違う。


「俺もちょうど終わったところだし、今日はここまでにしないか?」


「そうですね。まだ試験まで時間もありますし、食後にでも再開しましょう」


 ん? 姫川さん。ちょっと矛盾していませんか?

俺は『今日はここまで』と言った、そして『そうですね』と返事をもらった直後に『食後に再開』。

俺の理解力が足りないのか? それとも本気で徹勉ですか……。




――


「今日はどうしましょうか?」


 冷蔵庫を漁る俺達は、食材と相談しながらメニューを決める。

今日のノルマはキャベツの消化だ。なんせ野菜室の大半がキャベツで埋まっている。


「キャベツをたくさん使うメニューにしようか。何か思いつくものあるか?」


 しばし沈黙の時間が流れる。

姫川は目を閉じ、手で顎をさすりながら真剣に考えている。

その仕草はまるで探偵のようだ。


 そして、目をゆっくり開け、俺にむかって語りかける。


「千切りキャベツしかありませんね」


 まるで姫川の背中から『どやぁー』って効果音が聞こえてきそうな感じがした。


「まぁ、切るだけで直ぐに出来上がるけど、さすがに一個分のキャベツは飽きないか?」


 少なくとも俺はキャベツ一個分の千切りを食べるのは難しい。

と言うか、出来れば食べたくない。


「天童君は何か案がありますか?」


 俺はキャベツを一個手に取り、まな板の上に持っていく。

結構でかいキャベツだ。


「そうだな……。お好み焼きとかどうだ?」


 キャベツは大量に消費できるし、他の具材を適当に入れるだけ。

後はホットプレートで焼くのみで、簡単にできる。


「いいですね! お好み焼き、好きです!」


 即答でした。


 俺達は早速お好み焼きのネタ作りの準備を始め、テーブルにホットプレートを持ってくる。

冷凍庫にはエビ、イカが確かあったはず。

山芋はないけど、卵やキノコ類はあるし、どこかに天かすもあったはず。


「俺が具材の準備するから、姫川はお好み焼き粉と天かすをそこの茶箪笥から発掘してくれ」


「えっと、この茶箪笥でいいですか?」


「多分そこに入っていると思う。無かったらその隣の引き出しかな? 多分そこの茶箪笥のどこかにあるはずだ」


 恐らくあるだろう。一度一人お好み焼きをして、そのまま残りをどこかに入れていた記憶はある。

粉を大袋で買ったもんだから結構余っていたはず。


 俺はキャベツと格闘しながら、具材を準備。ボウルに大量のキャベツを入れていく。

他の具材はそれぞれ個別に分けて置き、焼くときに好きなものを各々適当に入れればいいだろう。



――


 そろそろキャベツも切り終わる。

だが、粉がまだ来ない。


「きゃっ!」


 ふと、茶箪笥の方に目をやると不思議な光景が目の前に現れた。

顔や髪、服が若干白くなっており、粉をかぶっている姫川。

粉が床に少しだけ落ちているが、それよりも姫川が白くなっている。


 灰を被ったシンデレラですか!


「ど、どうした? 一体何がおきたんだ?」


「この粉で合っているか確認しようとして、少しだけ力を入れたら、袋が開いてしまって……」


 しまりが甘かったのか。床にはそこまで被害は出ていないが、姫川にはそれなりの被害が出ている。


「姫川。あまり動かないでくれ。ゆっくりと玄関に移動しよう」


 俺は姫川の手を取り、床に粉が落ちないようゆっくりと台所の戸を開け、誘導する。

万が一ここで頭を振ったら、大変なことになってしまう。


 玄関に着いた俺は姫川にサンダルを履かせ、外に出る。

そして姫川の頭に着いた粉を手で払ってやる。

姫川も服に着いた粉を自分で払っている。


 思ったよりも頭の粉が払えない。

俺は頭をなでるように優しく粉を払う。

段々と粉っぽさが無くなってきた。


 服に着いた粉もなくなり、やっとシンデレラから姫川嬢に戻った。


「ごめんなさい……」


 肩を落とし、しょぼくれる姫川。そんなに落ち込む必要はない。

たまたま粉を被っただけだ。


「気にするなって。あ、ここにもまだ粉ついている」


 俺は姫川の頬をそっとなでる。

うん、取れた。


 姫川は両手でスカートをしわになるくらい握りしめ、なぜか俺の目を見てくる。

ん? なんだ? 俺にも粉が付いているのか?


 ふと気になり、自分の服を全体的に見渡す。

特にそんな粉はついていない。


「と、取れましたか?」


「おぅ。もう粉っぽくない。大丈夫だ」


「ありがとう。少し粉が減っちゃったね」


「大丈夫だろ。早く戻ろう」


「……待って!」


 部屋に戻ろうとした俺の腕を姫川が掴んできた。

やけに切羽詰ったような声を出した姫川。

呼ばれた俺は、一瞬ドキッとしてしまったが、振り返ると姫川が俺の目を見てくる。


「て、天童君にも粉が……」


 姫川の白い華奢な手が、俺の頬をなでる。


「取れました! さ、早く戻りましょう。お腹がすきました!」


 おかしいな。俺の顔に粉はついていないと思うぞ。

さっき移動していた時か、姫川の粉を払ったときに顔にでも着いたのかな?


 先に玄関へ戻っていく姫川を見ながら、自分の頬をなでてみる。

粉、ついていないよな?




――ジュワー


 ソースとマヨネーズの完全なる調和。

鰹節が舞い踊るこの舞台。そして観客は俺と姫川。

その素晴らしい最高の演劇を俺達は目の前にしている。


 素晴らしいぞ!


「「いただきます」」


 ハフハフしながら口にお好み焼きを運ぶ姫川。

俺も負けじとがっつく。俺もお好み焼きは大好きだ。

 

「結構いけるね」


「おいしいですね! キャベツも沢山あって、好きなだけ食べられます」


 サクサク食が進む中、どんどん消えていくお好み焼き。

二人で普通サイズをすでに三枚消化し、四枚目に突入している。

姫川さん。思ったより食べますね。

本当にお好み焼き好きなんですね!


「あ、そうだ。引っ越し関係の手続きって終わったのか?」


 ちょっと気になって聞いてみた。

まだ、口にお好み焼きが入っているのか、モグモグしている。

あ、ソースが口の周りに少しついていますよ。


「あ、はい。終わりました。遅刻していった日の午前中に、市役所とか郵便局とか銀行に行ってきました。今井さんに頂いた紙に書いてあったことはもう終わってますね」


「そうか。じゃぁ、住所もここになったし、郵便もここに届くのか?」


「そうです。住民票見ます?」


「いや、特に必要ないし見なくていいよ」


「もし、何かで必要なら言ってくださいね。何部か持っているので」


「あぁ、必要になったら言うよ」



――


 こうして第一回お好み焼きパーティーは幕を閉じ、その演劇を終わらせた。

残ったお好み焼きのネタも全て焼いてしまって、冷蔵庫に入れておこう。


『これで明日もお好み焼きが食べられますね!』と笑顔で俺に話しかけてきた姫川は、本気でお好み焼きが好きなようだ。

今度は焼きそばも入れて、広島風にしてみるか。


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