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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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涙の味噌汁


 真面目な話をこれからすると思うと、自然と真面目な顔つきになる。

姫川もさっきから、俺の事を直視しながら、どう切り出すか考えているのだろう。

部屋には時計の秒針がコチコチ音を鳴らすだけで、他の音は聞こえなかった。

静寂の中、ついに意を決し姫川は語り始める。


「実は……」



『ぐぅぅぅ~~~』



 これは、姫川の作戦か? 俺は思わず頬を吊り上げ、にやけてしまった。


「ひ、姫川。今の音は?」


 姫川は頬を赤くしながら下を向いてしまい、返事はない。

少し肩が震えているので、恐らく恥ずかしさを我慢しているのだろう。


「い、今の音は何でもありません。き、気にしないでください」


「ちなみに、姫川が最後に食べたのはいつだ?」


 今だに頬を赤くしている姫川は、いつもより若干幼く見える。

同い年だし、普段は俺よりもよっぽど大人っぽい仕草を見せられているが、今は後輩のように見える。


「昨夜食べたっきりで、今日はまだ何も……」


「そっか。話は後だ、ちょっと待ってろ」


 俺は、姫川をリビングに放置し台所に向かう。

台所から手に持ったタウン誌を姫川に放り投げる。反射的に受け取った姫川はタウン誌片手に俺の方を見る。


「これは?」


「今月のタウン誌。少し時間かかるからそれでも読んで暇つぶしててくれ。あ、そこの陰にコンセントあるから充電とか適当にしてていいぞ」


 そして俺は台所に行き、いつもつけている前掛けを装備する。

そこまで料理は得意ではないが、それなりにできるはず。社長令嬢が食べていた食事と比べればお粗末なものができるだろう。

だが、何も食べないよりはましだ。


 昨日作っておいた調理済みの料理を冷蔵庫から出し、皿に盛りつける。

あとはご飯と、汁物。汁物は作り置きが無いので適当に作る。

火の通りやすい野菜にワカメでいいか。

そして、最後に魔法をかける。おそらく誰しもが使った事のある魔法。そう、レンチンだ。


 盛ったおかずに、ご飯をレンジに入れチンする。

汁物だけは今作ったので温かさそのまま。


――チン!


 魔法がかけ終わった。

レンジから取り出した料理をトレイにおき、箸をそえ台所を後にする。


「またせたな」


 俺は雑誌を読んでる姫川の目の前に、適当に準備したご飯を置いていく。

まぁ、女の子ならこの位か? と適当によそったので、姫川からみたら多いのかもしれない。


「多かったり、まずかったら残してもいい。何も食べないよりましだろ?」


「なんで? どうして私なんかに?」


 答えに困る。俺はどうして姫川にご飯を提供した?

俺に何の得がある? 見返りを期待しているのか? いや、違うな。


「はら減ってないのか? 減ってたら食えよ。何も食べていなかったんだろ?」


「いいの? 好き嫌い無いから全部食べてしまうわよ?」


「あぁ、俺もその方がいい。残されても困るからな」


「ありがとう。いただきます……」


 姫川は箸を取り、ご飯を食べ始める。

流石令嬢。見てて美しく食べる。ただの適当飯なのに、令嬢が食べるとものすごい料理なのかと見間違ってしまう位だ。

まぁ、中身は俺が適当に作った料理なんだけどな。


 しばらく沈黙の時間が流れる。その間、姫川は一言も話さず食事を続けている。

そして、箸を持ったまま動かなくなった。


「ん? どうした? まずかったか?」


 姫川の頬を涙が流れ落ちるのが見えた。

そして、その涙が味噌汁に入った。少しだけ波紋が広がる。


「ち、違うの。誰かと一緒にご飯を食べる事、もう何年もなかったから……」


 令嬢は令嬢で大変なんだなと思いつつ、正直俺の知らない世界の事を言われても困る。


「普段は一人で食べるのか?」


「お手伝いさんが作ってくれたものを温めて、一人で食べたり、自分で作ったり……」


「親とは食べないのか?」


「母は私が小さい時に……。父も仕事が忙しくて……」


 うーん、聞かない方が良かったのか、まぁ聞いてしまったものはしょうがない。

これ以上は深く聞かないようにしよう。


「そっか。まぁ、メシ位はしっかり食べないとな。お代わりいるか?」


「大丈夫。ありがとう。これおいしいね」


 瞼に涙を浮かべながらも、懸命に笑顔を作ろうとしている姫川が痛い。

俺まで心をチクチクされているようだ。俺はこういった精神攻撃にあまり強くない。

これ以上は危険だ。俺の方がもらい涙してしまう。


「そいつは、ありがとさん」


 その後、食事も終え改めて姫川の話を聞こうと仕切りなおす。


「で、『実は……』の続きは?」


「はい。父と最後に交わした言葉は『俺ははめられた。杏里は騙されるな。誰も信用するな!』そこで父との電話は切れました。私は報道で流れている事を信じていないの」


 それから、土曜の朝には会社の人事部を名乗るものがマンションにやってきて、もう住めなくなるからと追い出された。

日曜までにマンションを出るように言われ、手荷物もそこそこ駅前にやって来たらしい。


「親族とかいないのか?」


「父以外の親族はいません。頼りになる人も……」


 社長とか令嬢とか言っても普段は見えていない部分が多いんだな。

何でもできて、見た目も良くて、周りにチヤホヤされて、全てがそろっていると思い込んでいた。

それなりに苦労もしているようだ。


「とりあえず、今日は空き部屋に泊まっていけ。鍵もあるから、戸締りしっかりしろよ」


 話もそこそこ、これ以上深追いしても俺が苦労しそうな気がしてきたので切り上げてしまった。

最後まで聞けばよかったのか? 途中で切り上げて良かったのか……。


 部屋に姫川を案内し、カゴを渡す。


「これは?」


「とりあえずタオル一式。石鹸とかシャンプーとかは風呂場にあるけど、自分のを持っているならそれ使ってくれ。少なくとも女性用ではないと思うから」


 姫川はキョトンとした感じで、俺の渡したカゴを受け取る。


 続いて俺は部屋について簡単に説明をする。

ロフト式のベッドはすぐに使う事ができ、ベッドの下にはクローゼット兼押入れがある事を伝える。

そして、押入れには布団が圧縮袋に入っているので寝る時に使ってほしい事と、クローゼットにはハンガーが数本ある事を伝える。


「多分探せばクッションとか枕とかあると思うから、適当に使ってくれ。他に必要なものがあったら声かけてくれ」


「ありがとう……」


「じゃぁ、俺は風呂の準備でもしてくるから、適当な時間に風呂にでも入ってくれ」


 姫川は部屋の中を見渡し、手に持っていた手荷物を床に置く。

そして、そのまま部屋の奥の方へに入っていったので、俺は扉を閉める。

このまま何事も無ければいいんだがな。



 俺は風呂の準備をし、自分の部屋に戻る。

急いでカメラをセットし、パソコンを起動する。これで準備は終わった。

あとは姫川が風呂に入っている間に……。


 しばらくすると階段を下りてくる音が聞こえる。


『お風呂、入るわね』


 扉越しに姫川の声が聞こえる。


「あぁ、俺以外誰もいないけど鍵かけろよ」


『今日はありがとう。私に声をかけてくれて……』


 こうして姫川の足音が遠ざかって行く中、俺は自室のパソコンに再び向かった。


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