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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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ミッション


 本日の授業も二時限まで問題なく進んでいる。

後ろの席の高山が今日から出席している以外、いたって普通の日常だ。

三時限目が始まる少し前、自分の席に座っていた俺は肩を叩かれる。


「てんどー。なぁ、てんどーくーん」


 肩に手を置かれ、いつもと違う声色で俺を呼ぶ高山。

風邪を引いたせいなのか、やけにテンションが高い。熱のせいか?


 振り向くと俺の頬に指が突き刺さる。

そのままの勢いで後ろに振り返ると、高山がニヤニヤしながら俺に話しかけてくる。


「ひっかかったー」


 うざい。土日含め、四日も会っていなかった高山のテンションはちょっといつもと違う。


「何だ? 熱でもあるのか?」


「いや、熱はない。すっかり下がった。それよりもだ」


 何やら懐から取り出す高山。

白い封筒を手に持ち、中身を開け始める。


「これ、何だと思う?」


 見た感じ長細い紙が四枚。

何かのチケットか?


「何だそれは? チケットか?」


「あったりー! さすが天童。今度公開される映画の先行試写会チケットがここに四枚ある」


 俺に見せてきたチケットは今度放映される恋愛系の映画だ。

前評判も良く、若い世代に特に人気があると何かの雑誌で見た記憶がある。

あまり恋愛系の映画は見ないが、なぜここで取り出した?


「くれるのか?」


 慌てて俺の目の前からチケットを遠ざける高山。なんだ、違うのか。


「違う。俺はこの休みにずっと考えていた」


 風邪ひいて休んでいると聞いていたが、いったい何を考えていたんだ?


「俺は映画にナデシコを誘ってみようと思っている。人気のある映画だ。気分転換にいいと思わないか? 先生も言っていたじゃないか『誘ってやれと』」


 俺の記憶が確かなら、担任の先生は『誘え』とは言っていない気がする。

まぁ、玉砕覚悟で誘うなら別にいいんじゃないか?


「そうか。頑張って誘ってくれ」


 一言高山に伝え、元の体勢に戻ろうとしたが、高山は俺の肩を鷲掴みにし元に戻るのをやめさせた。

何だ、まだ何かあるのか?


「まぁまぁ、最後まで聞いてくれ。俺と天童で二枚。もう二枚をナデシコに渡して、四人で見に行かないか? ナデシコに誰か女子を一人誘ってもらって、男女各二名で行った方がナデシコも俺と二人っきりで見に行くより、行きやすいと思うし、成功率も上がると思うんだ」


「まぁ、男女二人で行くよりはグループで見に行った方がいいような気もするが……」


「そこでだ! ナデシコを誘うミッションを天童に与えよう」


 なぜそうなる? 俺ではなく、高山が普通に誘えばいいじゃないか。

どうして俺の名前をここで出してくる?


「自分で誘え。俺は断る」


「俺が誘ったら周りが騒ぐだろ? 天童だったらクラスでも目立たないし、断られても誰も気にしないって!」


 それは、あれですか? 俺はクラスで空気のような存在だから、姫川を誘って、断られても誰も気にしないと。

いや、俺だって断られたら少しは傷つくよ。そのあたりの事、考えてくれていますか?


「ミッションに失敗してもこのチケットを天童に二枚プレゼントしよう。さらに学食のスペシャルランチもつける。いい話じゃないか?」


 姫川を誘って玉砕しても、人気のチケット二枚に一食分の食事。

大体三千円位の価値か……。決して悪くはない話だ。


「なぜ俺にその話を振った?」


「ん? 天童は良くも悪くも目立っていない。目立つ奴はこのミッションに向いていないだけだ」


 そうですか。姫川には学校ではなく、自宅で聞けば誰にも情報は洩れないよな?

お、良く考えたらいい話じゃないですか。よし、受けよう。


「分かった。返事は何時までだ?」


「出来れば早めに。玉砕する可能性も高いので、だめだったら他の子に……」


 何だかな。まぁ、気になる女の子を誘う時って、こんな感じなのか。


「明日には返事ができるようにするさ。チケット、二枚借りてもいいか?」


「どうぞうどうぞ。では、天童。成功を祈る」


「祈らなくていい」


 俺は高山からチケットを二枚受け取り、懐のポケットに入れる。

今日自宅に帰ったら、早速姫川に聞いてみるか。




――


「ただいまー」


 学校も終わり、自宅に戻って来る。

鍵が開いているとう事は、先に姫川が帰っているという事だ。

玄関でシューズを脱ぎ、下駄箱に入れていると、階段を下りてくる足音が聞こえてくる。


「お帰りなさい」


 まだ、制服を着ている姫川が降りてきた。

どうやらほとんど同じ位の時間に帰ってきたようだ。


「姫川、ちょっといいか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 自室にバッグを投げ込み、姫川と向かい合って座る。

懐からチケットを二枚取り出し、姫川に渡す。


「この映画知ってるか?」


 姫川は微笑みながら手に取ったチケットを眺めている。

この反応を見ると映画自体は知っているようだな。


「誘ってくれるのですか?」


 姫川の頬が少し赤くなっている気がする。

この映画の内容でも妄想しているのだろうか。

やっぱり女子は恋愛系の映画は好きなようだ。


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