表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
31/379

惚れた女


「私は、この下宿に残ります」


 その一言を聞いた俺は、内心ほっとしている。

自分でもなぜ、そのように思ったのか分からない。

でも、間違いなくほっとした自分がそこにはいた。


「お父さんの事は嫌いではありません。自宅に戻っても良いと思います。でも、自分を変えるきっかけが、新しい環境がここにはあります。きっと今までの自分より、成長できそうな気がするんです。わがままかもしれません、お父さんに寂しい思いをさせるかもしれませんが、私はここに残ります」


 少しだけ沈黙の時間が流れる。

姫川の眼に宿った決意はきっと揺るがないだろう。


「分かりました。では、杏里さんは近日中に住所変更など手続きを済ませておいてくださいね」


 今井さんは、手元にあった書類をバッグに入れ、新しく一枚の紙を姫川に渡した。


「これは?」


「住所変更とか、この後にした方がいいと思われる手続き関係をまとめました。引っ越しとか、一人ではした事がないと思いまして」


 渡された紙一枚を見つめる姫川。

横目でチラッと見たが住所変更や郵便物の転送届など引っ越しにかかわる手続きが箇条書きで書かれていた。

俺もここに引っ越してくるときに親と一緒に役所とか行って、色々とやった記憶は新しい。


「分かりました。早めに対応します」


 姫川は二つに折った紙を手元に残し、紅茶を一口飲む。


「では、私の方からは以上ですね。もし、また何かあれば名刺にある連絡先に。できるだけ力になりますよ」


 そう話した今井さんは席を立とうとしている。


「もう帰られるのですか?」


「ええ、この後も回らないといけないクライアントが。では……」


「玄関まで送りますね」


 席を立ち上がった今井さんの後に続き、姫川も席を立つ。

父さんも席を立ち、今井さんに向かって軽く頭を下げる。


「今井さん、色々とうちの息子がお世話になりました」


「いえいえ、そんな事無いですよ。何かあったら連絡を」


「今井さん。ありがとうございました。本当に助かりました」


 俺も席を立ち、今井さんに頭を下げる。


「司君もこれから大変かもしれないけど、頑張ってね」


 にこやかに笑みを浮かべながら、俺に声をかけてくれる。

その笑みには優しさも含まれているかもしれないが、目は笑っていなかった。


 今井さんを送るために、玄関まで姫川が送っていく。

俺は父さんと二人席に着く。


 しばし沈黙が続く。

互いに何か話そうと思考を巡らせていると思われるが、何から話せばいいのか……。


「司。正直驚いたぞ。クラスメイトと聞いていたが、まさか女の子だったとは……」


 確か、電話で伝えたような気がするが、言っていなかったような気もする。

まぁ、問題はないだろうと勝手に思い込んでいた俺が悪いな。


「あれ? 言っていなかったけ? 今さらだけどクラスメイトの女子だよ」


「本当に今さらだな。いいか、間違っても間違いを起こすなよ? 言っている意味は分かるな?」


 普段から怖い顔つき、そして鋭い眼光の父上は、仁王のような顔つき、さらに目線で人を委縮させるくらいの眼力で俺に向かってその言葉を放つ。

いやいや、やめて下さい。本気で怖いんですけど。


「だ、大丈夫です。問題なんかこれっぽちも起こしません! 父さんとの約束だって、きちんと果たしますから!」


「そうか、それならいいが……。ところで、この最中、もうないのか?」


「ほら、俺の最中まだ手を付けてないから、どうぞ」


「悪いな」


 最中を目の前に父さんはニタっと笑みを浮かべ、俺の最中に手を付ける。

どんだけ最中好きなんですか?

父さんは最中を口に運びながら、再び俺に問いかけてきた。


「ところで、姫川さんは随分かわいい子だな? 惚れているのか?」


「ぶほぅっ!」


 紅茶を飲みかけていた俺は思わず吹き出してしまった。

俺の聞き間違いでは無ければ、惚れているのか聞かれたと思われる。


「お、俺が姫川を?」


 無言でうなずく父さん。無言なのは、きっと口の中に最中が入っているからだ。

俺は姫川に惚れている? 好きなのか? 好きってどんな感情だ?


 俺がイライラしたり、ほっとしたりしているのは好きって事なのか?

いや、違う。イライラしたのは自分の力が足りなかった自分に対してだ。

ほっとしたのも、きっと自宅に戻った姫川が一人になるのをただ同情しただけだ。

きっと俺の中にある感情は『好き』ではない。ただのクラスメイトに対する『同情』だ。


「分からん。惚れるとか俺にはまだよくわからないな」


「そうか……。男は惚れた女を守る。そういう生き物だ。司、惚れた女を守れる男になれよ」


「わかった、わかった。そんな惚れた女がいたら守れるようになるよ」


 俺は父さんの言葉を適当に流しながら飲みかけの紅茶を再度口に運ぶ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載中】 微笑みの天使の恋心 ~コスプレイヤーの彼女は夢を追いかけるカメラマンに恋をした~

【短編集】主に恋愛、ラブコメ、青春系の短編 をまとめました。お気軽にお読みください。

【完結済み】可愛い後輩の選択 ~俺が最愛の人に出会うまで~

【第一章完結】武具に宿った魂を具現化したらいつの間にか最強パーティーに! ~具現化した武器っ娘とダンジョン攻略。武器にも乙女心があるんです~(仮)

よろしくお願いします!


ブックマーク未登録の方は、ご登録をお忘れなく♪
是非よろしくお願いいたします。


↓小説家になろう 勝手 にランキング参加中!是非清き一票を↓
清き一票をクリックで投票する

ツギクル様 →  ツギクルバナー

アルファポリス様 →  cont_access.php?citi_cont_id=329323098&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ