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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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いつもと同じ朝


――ピピピピピ


 毎朝同じ時間に鳴るアラームの音だ。

俺は布団の中でもぞもぞしながら、スマホを手探りで探し、アラームを止める。


 朝か……。

いつものように起き、着替え、台所で顔を洗い、玄関に向かう。

シューズを履き、一人でジョギングに向かう。


 そして、いつものように朝食を摂り、玄関の鍵をかけ学校に向かう。

何てことはない、いつもと同じ朝が来て、いつもと同じ様に学校へ行く為、電車に揺られる。


 教室に入るといつもと同じ光景。

いつもと同じ様に自分の席に座り、音楽を聞きながら参考書を手に取りページをめくっていく。

何てことはない、いつもと同じだ。


 ホームルームも終わり、授業が始まる。

たった一つ、いつもと違う事がある。


 後ろの席にいる高山が今日も休んでいる事だ。

こじらせたのか、どうなのかは分からないが、今日も一日平和な時間が過ぎていくことだろう。


 ふと、姫川の席を眺める。

そこにいるはずの姫川は今日はいない。



 三時間目が始まろうとした時、教室の戸が開く。

先生が来るには少し早い時間だ。


 教室に入ってきたのはいつもと同じ制服を身にまとった姫川がいた。

いつもと同じバッグを手に持ち、こちらに目線を送ってくることもなく、自分の席に着いた。



――ガララララ


「おーし、授業始めるぞー。全員いるなー」


 こうして、いつもと同じように授業が終わり、放課後になる。

姫川の席はすでにからっぽだ。



 放課後にアーケードで本屋による。特に何も買わず、普段は行かないゲームセンターに一人立ち寄った。

カードの束を片手に、椅子に座りながらデッキを考えている複数の高校生。

周りを見ると制服を着た学生や私服の若い男女があっちこっちにいる。


 俺は一人、ガンアクションのゲーム機にコインを入れ、打ちまくった。

少しずつ自分のライフが無くなり、気が付いたら画面には『ゲームオーバー』の文字が。

中々面白かったが、気分は晴れない。


 電車に揺られ、音楽を聞きながら自宅に帰る。

途中、商店街でおっちゃんやおばちゃんに声をかけられたが、返事もそこそこ、適当な返事をして真っ直ぐに帰る。

何となく帰りたくない衝動に駆られる。

しかし、帰るしかない。自分の帰る場所は、そこしかないのだから。


 重い足を左右に出しながら、公園を横目に自宅に向かう。

俺の家は駅からこんなに距離があったのか? 遠くに感じてしまった。


 玄関を開け、シューズを脱ぐ。洗面所で手洗いとうがいを済ませ、バッグを自室に放り込む。

着替えることもなく、リビングのソファーに横になる。今日は一日暑かったな。

風呂の準備と夕食の準備しなきゃ……。


 ソファーの上で一人、ウトウトしながらこの後の事を考える。




――冷たっ!


 突然頬に冷たい何かを感じた。


「お帰りなさい。少し遅かったですね」


 目を開けると姫川が立っている。

差し出した手には冷えたペットボトルが一本。


「ただいま。ちょっとアーケードによってから帰ってきた」


 ソファーで寝ている俺の隣に座る姫川は、すでに私服に着替えリラックスした格好になっている。


「制服脱がないと、しわになりますよ?」


 寝ていた俺は、起き上がりソファーに座る。


「そうだな、さっさと着替えるか」


 もらったペットボトルをテーブルに置き、自室に戻る。

着替えてリビングに戻ると、姫川がソファーに転がって雑誌を読んでいる。


「実家だったら絶対にできないですよね。ソファーで寝ながら雑誌を読むとか」


「さぁ、どうだろうな。俺は実家でも床に寝ながら菓子片手にマンガ読んでいたけどな」


 微笑みを俺に向けながら姫川はソファーから身を起こし、雑誌をテーブルに置く。

俺は姫川の隣に座って、もらったペットボトルのふたを開けグイッと飲む。

あー、うまいなー。


「えっと。改めて、これからよろしくお願いします」


 頭を下げる姫川。別に俺が何かしたって訳じゃない。

自分で決めた事を、自分で実行したのは姫川本人だ。


「別に頭を下げる必要はないだろ? ま、俺の方も改めて、よろしくお願いします」


 簡単に俺も頭を下げる。

そして、頭を上げると姫川と目が合った。

互いに、少し笑っていたのだろうか。きっと俺は顔に笑みを浮かべていたと思う。


「では、今日は私の一人立ち記念と言う事で、夕ご飯を作ります!」


 ソファーから立ち上がった姫川は腕をまくり上げ、その眼には炎が見える。

燃えていますね。ヤル気になっている姫川は今まで俺が勝手に作っていたお嬢様のイメージとは違い、一人の女の子って感じがする。


「記念ではあるが、俺も手伝うよ」


 俺もここは譲る事が出来ない。何としても、一緒に作らなければ。

ソファーから立ち上がり、姫川と同じように腕をまくり、二人で台所に向かう。

姫川は何を作ろうとしていたのだろうか? 気になったので冷蔵庫を開けながら姫川に聞いてみる。


「なぁ、記念って言っていたけど、何作る予定だったんだ?」


 姫川はシンクにまな板と包丁を、コンロに鍋とフライパンを準備しながら答える。


「もちろん肉じゃがです!」


「なんで、『もちろん肉じゃが!』なんだ?」


 記念って言ったら ステーキとかビーフシチューとか、骨付きチキンとか、色々とあるような気もするけど……。


「私の得意料理ですから!」


「そうだな。姫川の得意料理は肉じゃがだからな」


 深く考えることをやめよう。

俺は冷蔵庫から材料を取り出し、姫川に手渡しする。

ニンジンを手渡しした時、互いの手が触れた。

今までの俺だったらドキッとして、すぐに手を離したかもしれない。

しかし、今の俺は昔の俺ではない。


 触れた手の事など、まるで気にしないようなそぶりで、自分の作業に戻る。

イモの皮むきだ。姫川の方を見ると、少し頬が赤くなっている気がする。

きっと真剣に調理に取り組んでいるからだろう。ほほえましい光景である。


「て、天童君は何ともないのですか?」


 何が? 俺がイモの皮をむくことに対してか?


「ん? 特に気にしないぞ」


「そ、そうですか……」


 姫川の手つきが若干怪しいが、先日よりも上手く包丁を使っている。

うん、成長したな。先生は嬉しいぞ。


 そして、数十分後、テーブルには旨そうな食事が並んでいる。

今日はほとんどサポートに回ったので、ほぼ姫川が作った食事内容になっている。

いざ、実食!


「「いただきます!」」


 本来は、かんぱーい! とかしたらいいのかな? と思ったが、普通に食事をすることになった。

一つ、イモを取り口に運ぶ。うん、ほくほくでおいしいね。


「ど、どうですかね?」


「ん? 普通にうまいよ。ほら」


 俺は自分の箸で、小さめのイモを取り、姫川の目の前に運んだ。

姫川も俺の取ったイモをそのままパクッと一口で食べる。


「うん、大丈夫そうですね」


「だろ? こっちの煮物も初めて作ったにしてはうまいじゃないか」


「安心して食べられる食事は安心しますね!」


「安心と言うか、二人だと楽しい食事ができるな」


 言ってしまったらあとには戻れない。

俺は何気に、すごい事をサラッと言ってしまった気がした。


 互いに沈黙のまま食事が進む。あ、これって気まずいってやつか。

俺の一言が、姫川に対して予想外だったのか? 何か話題をふらなければ……。


「そ、そうだ! 昨日はいろいろあって、大変だったな!」


「そ、そうですね! あの後も結局パタパタしてましたし」


 こうして俺達の話題は昨日の件に移り、互いに昨日の事について話し始めた。





――


「私は――」


 俺の隣で話し始める姫川。


 真剣な顔つきで、静かに聞く体勢をとっている今井さん。

いつでも睨んでいるような目つきで、俺を威圧してくるお父様。

俺もドキドキしながら、姫川の答えを聞き始める。



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