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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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肉じゃが


 暗くなりつつある道を、姫川と二人で商店街に向かって歩く。

通り過ぎていく住宅のいたるところから夕飯を準備しているいい匂いが漂ってくる。

お、ここはカレー、こっちは焼き魚か……。


「さて、今日は何にしようか?」


 隣を歩いている姫川に俺は問いかけた。

好き嫌いが無いとは言っていたが、好きな料理はあると思う。


「んー、ちなみに天童君は何が得意料理なんですか?」


「得意……。んー、肉じゃがかな」


 手を後ろで組みながら歩いている姫川が不意に俺の顔を覗き込む。


「な、何だよ」


「家庭的ですね……」


 姫川に家庭的だと言われると、なぜか恥ずかしと思ってしまう。


「肉じゃが位誰だって……」


 と、俺はすぐに話すのをやめた。

もしかしたら姫川は肉じゃがを作れないかもしれないと、俺の第六感が告げている。


「あー、今日は肉じゃがにしようか?」


「いいですね! 肉じゃがにしましょう!」


 二人で商店街に入り、八百屋や肉屋、果物屋など食材を中心に買い物を済ませた。

昼間の事もあり、若干ドキドキしていたが、今回は何も起きなかった。

おかしい、絶対に何かあると思ったんだが……。


 買い物が終わり、二人下宿に戻ってきた。

手洗いうがいはもちろん終わり、二人で台所に立つ。


「んじゃ、先にご飯炊くから、姫川先に三合炊いてくれ」


「はい!」


 元気よく答えた姫川はなぜかとても嬉しそうだ。

それに、白いフリルの付いたエプロンが似合いすぎている。


 姫川が米の準備をしている間に、俺は買ってきた食材を冷蔵庫に放り込む。

大根、人参、キノコ類に薄々コンドー君。


 ……へ? な、何だこれは。なぜこんな物が買い物袋に入っているんだぁ!

その箱にはマジックでこう書かれていた。


『ファイトー イッパーァァツ!』


 な、なにが『ファイトー イッパーァァツ!』だ! こんなことするのは八百屋のオッチャンか!

俺は恐る恐る姫川の方をそーっと目線だけを向ける。

姫川は真剣にコメを洗っている。泡だて器で。


 ちょっ! いや、確かにできなくはないが、どっから出したそのアイテム。

俺は手に持っていた紫色の箱を袋に戻し、姫川の隣に走り寄った。


「どっから出てきた、そのアイテムは?」


「さっき買ってきたんですよ。絶対に必要な道具でしょ?」


 満面の笑顔で俺を見てくる姫川に、返答する気力が若干失われていくのを感じた。

そのまま米を洗い終わり、すすぎ、水を入れ炊飯器にセットイン。

これでおいしいご飯が食べられる(はず。


「よし、次は汁物を作りながらメインの肉じゃがを作ろうか」


「に、二品同時に作業ですね!」


「コンロ二つあるから問題ないだろ?」


「確かに二つありますね。やってみましょう!」


 少しだけ話がかみ合わない気がした。同時に作るって普通だよな?

俺は野菜の皮をむき、まな板の上に乗せる。

水を入れた鍋に出汁となる昆布を少し入れる。


「んじゃ、この野菜を味噌汁用に切ってくれ。その間に俺はイモの皮むきするから」


 トントントンと、包丁のいい音を出しながら、姫川は真剣な眼差してまな板の上に乗った野菜を切っていく。

軽快な音と共に、野菜がどんどん切られ、そしてつながっていく。


 うん、最後まで切りきってないな。全部つながっているよ。

そして、姫川はブラーンとなった野菜を片手でつまみ、鍋の上に移動させる。

ん? いったい何をするんだ?


 すると姫川はもう片方の手で、一個一個切れた野菜を鍋に落していく。

うん、これもちょっと変かな。全て鍋に入れ終わった姫川の顔はやりきった顔をしている。

確かに結果から言うと、小さく切った野菜が鍋に入った。そこは問題が無い。

でも、違うよね?


「どれ、ちょっと俺が切ってみようか?」


 トントントン。俺が包丁を使いまな板の上にある野菜を切っていく。

全て綺麗に切り終わり、まな板ごと鍋の上にもっていき、そして包丁を使って野菜を鍋に入れていく。

うん、やっぱこんな感じだよね?


 姫川は背後からドヨーンと言うような効果音が聞こえてきそうな表情をしている。


「もう一度」


 俺から包丁を受け取り、再度挑戦する。


「切るのは遅くていいから確実に切る。なれたら速度を上げればいい」


「ゆっくりと、確実に……、ですね」


 さっきよりも軽快な音は聞こえないが、今度はしっかりと切れているようだ。

笑顔で鍋に野菜を入れる姫川。これから上手くなっていくことだろう。

俺はそう願う。



 二人で台所に立つこと数十分。

使用する調味料や量、入れる順番などを姫川と一緒に確認しながら進めた。




 そして……。


「「いただきます」」


 俺達は無事に夕ご飯の時間を迎えることができた。


「姫川の作った肉じゃがだ。お味はどんなもんだ?」


 出来上がったばかりの肉じゃがを姫川は上品に口に運ぶ。

しばらくモグモグし、しっかりと飲み込んだ。


「お、おいしいです! 自分で作ったものが、普通においしく食べられます!」


「そ、それは良かったな。これで得意料理が肉じゃがになったんじゃないか?」


「そうですね。天童君と同じですねっ」


 初めて一緒に作った料理は、姫川の得意料理となるのか?

これから先、姫川の料理は上達していくのか気になりつつ、二人で初めての夕食の時間を過ごしていった。



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