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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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空っぽ?


 荷物を片手に、下宿のある駅に戻って来る。

姫川は終始無言で、マンションを出てから一言も話していない。


 俺が言った事を気にしているのだろうか? それとも、怒っているのか。

心情を考えると、俺は話しかける言葉に詰まり、話しかけることができなかった。


 さっきの男の件も、どうするか決めていない。

警察に言えばいいのか? 先生か? いや、でも学校は関係ないよな。

土日は市役所やっていないし……。そもそも、本当に敵か?

さっきは姫川に敵かもって話したけど、俺の勘違いって事もある。


 結論の出ない問題に、俺は一人考えながら、商店街に向かって歩いて行く。

姫川は俺の後をずっと無言でついてくる。


「お、司! 今日は彼女と一緒か! どうだ、この大根! 安くしておくよ!」


 こっちの事も考えず、俺に話しかけてきたのは八百屋のオッチャン。

いつも野菜を買っている店なんだが、ここのオッチャンの声は商店街一でかい。


 おかげさまで、隣の店の人たちも奥から出てきて、あっという間に囲まれてしまった。


「ち、違う! 彼女じゃない! 俺達はまだ付き合ってもない!」


「何だー、司ちゃん。『まだ』って事はいずれ付き合うって事じゃない!」


 そう茶化してきたのは肉屋のおばちゃん。

ここのメンチがこれまた絶品で、とか今はそれどころではない。


「いや違う! そうじゃない! ただのクラスメイトで、付き合う予定もない!」


 そんな俺の叫び声は誰にも届かず、俺は若干放置され気味で商店街の皆様は俺の後ろにいた姫川に群がる。

あ、姫川が見えない。と言うか、この人の数、いったいどこからわいて出てきたんだ?


「司ちゃんはちょっとぶっきらぼうだけど、いい子なのよ! おばちゃんが太鼓判押すから!」


「そうそう、いっつも値切ってこっちは商売あがったりだけど、いい奴だよ!」


「で、いつからお付き合いするの?」


 そんなマシンガントークが繰り広げられる中、誰も俺の話も声も聴かず、姫川に集中砲火。

いい加減に俺の話を聞いてくれよ!


「姫川! 逃げるぞ!」


 俺は姫川の手を握り、群衆の中から連れ出す。

後ろの方から、『若いっていいわねー』とか、色々とヤジが飛んでくる。

とんだ災難だ。今日はメンチカツ無しだ!


 急いで逃げてきたので、すっかり商店街から遠ざかり、辺りは静かな住宅地になってきた。

歩いていると公園が目に入る。


「姫川、ちょっと休もう」


 公園に入り、ベンチに腰を掛けようとした時、姫川が久々に声を発した。


「手、いつまで握っているんですか?」


 はっと気が付き、俺は自分の手を確認する。

そこには華奢な女の子の手が。しっかりと握った姫川の手が俺の目に入る。


 数秒頭の中を整理し、このままじゃだめなんじゃ? と回答に行きつく。

俺は急いで姫川の手を離す。やってしまった……。でも、女の子の手って小さくて柔らかいんですね。


「急に走ったりして悪かったな」


 ベンチにバッグを置き、腰掛ける。

無言で姫川はその場を去っていく。

流石に怒ったかな……。


 俺は一人空を見上げ、雲を見つめる。

付き合うとか、恋人とか、所詮男と女の惚れた惚れられたとかのゲームだろ?

そんな恋に本気で人生をかけるやつの気がしれない。しょせん恋愛はゲームだ。


 不意に姫川が目の前に現れる。

そして、ほっぺに冷たい何かを押し付けてきた。


「冷たっ!」


 俺はびっくりし、正面を見る。

そこには缶ジュースを二本持った姫川が立っていた。


「急に全力で走って、声も出ませんよ。はい、これでも飲んで少し休みましょうか」


 俺に差し出したスポーツドリンクは公園の自販機で売っているものだ。

これを買いに行ったのか?


「ありがと」


 俺は一言姫川に感謝を伝える。


「大したことじゃない。私が飲みたかっただけだ」


 変な口調で姫川が話す。何だその口調。


「ふふっ。天童君の真似」


 ちょっとだけ笑顔で俺に話しかけてくる姫川はさっきまでの表情とずいぶん違う。


「何だそれ?」


 俺はジュースの蓋を開け飲み始める。

走った後のスポドリはうまい。


「お礼を言うのは私の方。ありがとう」


 姫川もジュースを飲む。

その飲み方が妙に色っぽく、見ているこっちがドキッとしてしまう。


 公園にある滑り台で遊んでいる子供たちが見える。

その隣には父と母がいる。子供は無邪気に何度も何度も滑り台を滑る。

微笑んでいるその子の親はきっと幸せなんだろう。


 俺はともかく、姫川は幸せになる事ができるのか?

高校三年間、きっと人生を左右する三年であることには間違いがない。


 俺には戻れる実家も、話ができる親もいる。

姫川にも戻る場所や幸せな家族を持ってもらいたいなと願いながら、俺のジュースは空っぽになった。

姫川の心は今、空っぽなのだろうか? いつか、その心は埋まる事があるのだろうか……。


 俺は荷物を持ち、姫川に手を差し出す。


「どれ、そろそろ行こうか」


 答えの出ない問題にぶち当たった。

でも、その壁の前で止まるわけにはいかない。

進みながら、模索し、答えを出していかなければ。


 進もう。少しでも先に。


「そうですね。天童君のおかげで生活用品が足りません。買い物に行かないと」


「それは悪かったな」


「悪いですね。なので、一緒に買い物付き合ってください」


 俺の手を取り、立ち上がる姫川はさっきまでの暗い表情が無くなっている。

きっと自分の道を見つけたのか、目指す何かのきっかけでもつかんだのか。


 俺はちょっと安心しながら、その手を取り姫川を立ち上がらせ公園を後にした。

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【連載中】 微笑みの天使の恋心 ~コスプレイヤーの彼女は夢を追いかけるカメラマンに恋をした~

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