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クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました  作者: 紅狐
第一章 月が照らす公園の中で
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姫川の手料理


 扉を開け、台所を見てみると姫川が立っている。

そして、シンクに向かい何かしている。

音はそこからしているようで、コンロには鍋やフライパンが火にかかっている。


「台所で何してるんだ?」


 俺は台所に立っている姫川に声をかける。

振り返る姫川は着替え終わったのか、普段着に着替え、俺が使っていた前掛けを装備している。

頭には白の布巾を巻き、お母さんのようだ。


「あ、ごめんなさい。前掛け勝手に借りてます」


「あ、あぁ。それは別にいいが、そこで何してるんだ?」


「折角なので朝食の準備を。冷蔵庫の中身適当に使っちゃいました」


 ニコッとこっちを見てくる姫川の仕草が可愛く見え、食材の事などどうでもよくなってしまった。

それよりも、姫川の負担になるんじゃないかと、そっちが気になる。


「いや、俺が準備してもいいんだ。大変じゃないか?」


「昨夜の条件です。昨夜は私がご馳走していただいたので、今日は私の番ですね」


 再びシンクに向かい、調理を進める姫川。

後姿も様になっており、俺は冷蔵庫から牛乳を取り、ラッパ飲みしようとする。


「はい。これからきちんとコップ使ってください」


 目の前に出されたコップにびっくりしながらも、いままでずっとラッパ飲みだったのになぜ?

と、頭に疑問符が数個出てしまう。


「牛乳、私も飲みますから……」


 少し、頬を赤くしながらそう答えた姫川はこっちを見ず、調理を続けている。

あぁ、間接ほにゃららか。まぁ、年頃の女の子であれば気にしますよね。

はい、気が付かない俺、ごめんなさい。デリカシーのかけらもありません。


 調理が終わったのち、配膳される朝食は大変立派になっている。

俺が出そうと予定していた食事では、月とすっぽん位の差が出ていそうだ。


 お互いに対面に座り、食事を始める。


「うまそうだな。普段から料理とかするのか?」


「自宅で少ししていたので、多少なら」


 きっと、自宅では色々とやっていたに違いない。

ここまで完璧に色々できるなんて、すごい奴なんだな。

改めて尊敬するわ。


「「いただきます」」


 俺は一口、サラダっぽいものを口に入れる。

ん? あれ? 思っていた味とちょっと違うような。


 次にスープを一口飲む。

うひゃ? へ? そ、そんなバカな……。なぜこの見た目でこの味に?


 そして、黄色の物体を口に入れる。

おっふ。どうして、予想の味とここまで変わってできるんだ?


 食べられなくはないが、決しておいしいと言えない。ど、どうしよう。

ここは正直に感想を言った方がいいのか?

それとも、満面の笑顔で『うまーい!』と言えばいいのか……。


 前略 姫川様。わたくし、まったくの予想外でした。

きっと見た目と同じように、お味もすばらしいと思っていたんですよ。

勝手に決めつけてしまって、ごめんなさい。


 食べられなくはない。殺人的な味でもない。だが、だがしかし!

もしかしたら俺の方がいい味出しているのかもしれないレベルなんです!


 発する言葉もなく、ひたすらモグモグ食べる俺。

姫川も無言でご飯を食べている。か、会話が……。


「正直に言ってくれていいんですよ?」


 俺の心を読んだのか、姫川が切り出してきた。

しょ、正直でいいんだな。言うぞ、後戻りできないが、いいよな?


「見た目と、予想の味が違ってびっくりした。でも、決してまずくないぞ、ちゃんと食べられるからな?」


 無表情でこっちを見ながら黙々と食べている姫川。

なぜか、楽しく朝食を。と言うより、機械的に食べ、押し込んでいるような動きになっている。


「努力したんです。でも、なかなか上達しなくて。ごめんなさい……」


「誰だって初めはしょうがないさ。ほら、これだって、こんなに――」


 フォークで刺したイモっぽい何かを俺は口に入れ、笑顔でかみしめる。

が、これは何の味だ? 何で煮込んだ? そもそも煮込んだのか?

俺はコメントに困り、無言で口に入れたイモを噛み砕き胃の中に収める。


「ほら、コメントに困るでしょ。ごめんなさい……」


「そんなに気を落とさないでくれ。大丈夫だって、練習すればおいしいご飯作れるって」


 なぜ、俺は慰めないといけない? 勝手に準備して、勝手に出して、勝手に食べて、落ち込んで。

俺が何をした? 大人しく、俺が作った朝食を食べていればこんな事には……。


 いや、考え方の違いだな。

姫川は心を込めて作った。ただの作業で作った俺の食事とは違うはず。

そこには目に見えない、何かがあるはずなんだ。


 姫川は自分の皿に分けた食事も半分位残し、手を止めてしまった。

しばらく下を見つめ、落ち込んでいるように見える。


「なぁ、それ残すのか? 食べないんだったら、俺にくれよ」


 俺の方を見る姫川は不思議そうな表情をしている。

俺だって自分の発言に違和感を覚える位だ。

だが、男には勝てない負け戦に出なければならない時がある、今がその時だ。

胃腸薬は確か薬箱に常備していたはず、安心して戦にいける。


「で、でもこの味じゃ……」


「問題ない。俺は、腹が減っているんだ。もらっていいか?」


 無言でコクンと頷く彼女はさっきと比べ少し笑顔になっている。

やっぱり女の子は料理ができた方がいいんだな。


 そんな事を考え、食べられる名もなき料理と、姫川の真心を胃の中に入れていく。


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