表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬師と従魔  作者: 春夏しゅん
本編
3/47

3.再会

 

 ガンガンガン!


 突然の音に驚いて顔を上げると、オリーブが窓を嘴で叩いていた。この前の3頭の魔獣が思い出されてどきりとしたが、オリーブののんびりした「カァ」の一鳴きに少し気が抜ける。

 窓に近付くと、オリーブの視線が下に向く。シュリアはそれを追って固まった。


(タンザナイトの瞳だ。)


 少し緊張しながら階段を降りる。あの時の魔獣だと、シュリアはなんとなく確信していた。魔梟と魔熊は見えなかったけれど近くにいるのだろうか。あのあと傷はちゃんと癒えたのだろうか。

 こういう時はいつも思う。


(ああ、話ができたらいいのに。)




 外に出るとすぐにオリーブが近くに寄ってきて案内してくれた。

 庭へ回ると、少し離れたところでじっとこちらを見ている魔犬が見えた。その奥へと視線をやると、白金色の魔梟が木の枝で羽を休めている。深緑色の魔熊の姿は見当たらなかった。


「ワウ!」


 なるべく優しく、まるでこちらを怖がらせないような一吠えだとシュリアは思った。凛々しい群青色の瞳は、じっとこちらを見据えたままだ。


「えっと…傷はもう大丈夫?」


 魔犬は一度だけ縦に首を振った。 

 前は気付かなかったけれど、どうやら毛並みは深い紺色のようだ。太くしっかりとした毛が、太陽の光に反射して艶々と輝きとても綺麗だ。

 あの時の酷い怪我は見当たらず、シュリアは少しほっとした。


「言葉、分かるのかな?」

「……」


 魔犬は少し考える様に動きを止めたが、すぐに遠慮がちに頷いた。

 飼われているのかもしれない、とシュリアは思った。オリーブの様に人懐っこい魔獣もいるからだ。


「身体、変なところはない? まだ痛かったり、染みたり…」


 魔犬は首を左右に振った。

 なんて賢い魔犬なんだろう。恐怖心はまだあるが、シュリアは安堵と共に少し感動まで覚えた。


「良かった! 人間用の回復薬だったし、薄めなかったから少し心配で…」


 魔犬は少し瞠目したように見えたが、それでもシュリアから視線を外さなかった。

 せっかくだから色々聞きたい。何を聞こう。動物は人より味が濃く感じると聞くが、魔獣はどうなんだろう。不味くなかったかとか、種族によって治療速度は違うのかとか…


「どっちの治りが早かったんだろう? でも自然治癒力も種族によって違うよね…ん? …治癒力……自然治癒力……そっか! うん、なるほど! ごめんちょっとメモしてくる!」


(忘れないうちにメモしないと! ああ、これからはメモを持ち歩こう! どうして今まで思い付かなかったんだろう! 早く! メモ!)


 一目散に家に入ると、適当なメモとペンを探す。

 ワクワクしながらメモし、連想される言葉をつらつらと書き足していく。


 すると、またしても窓を叩く音がした。


「あ」


 オリーブだけじゃなく、魔梟までもが覗き込んでいた。一気に気まずさと恥ずかしさが襲ってくる。夢中になってすっかり忘れるところだった。

 正直に言うと、ほぼ忘れていた。


「ご、ごめんなさい」


 先程いた場所まで走って戻ってくると、魔犬は動かずに待っていた。なんとなく少し呆れた目をしている気がしてシュリアは恥ずかしくなって俯いた。


「ワウ!」


 またしても優しい一吠えだった。その声につられる様にシュリアは顔を上げると、魔犬は鼻先でこちらに何かを転がした。

 白くて丸い…


「これ…え!? 岩角(フェルスホルン)!?」

「ワウ!」


 何も考えずに持ち上げて、シュリアは驚愕した。

 岩角は山奥深くに生息するAランクの魔獣、魔白蝙蝠(エルホワイトバット)の巣からしか採れないという非常に貴重で高価な素材だ。シュリアは生で見るのも触るのも初めてだった。こんなに雑に転がされていいものではない。

 魔犬と岩角を交互に見ると、魔犬は顎をしゃくるような仕草をした。


「まさかとは思うけど…くれる訳じゃないよね? まさかね、返すね」


 シュリアが一歩近付くと、魔犬はその場で首を横に振った。


「こんな高価な物受け取れないよ。この前のお礼のつもりなら気にしないで。大したことじゃないから。ね!これ凄く高いんだよ?飼い主さんに怒られるよ?」


 あまりに高価すぎてこのまま持っているのすら恐ろしい。シュリアは返そうと慌てて魔犬に近付くと、魔犬は一歩下がった。


「あ、ごめん! 怖がらせるつもりじゃなくて返そうと思っただけで…! ごめんね」

「ワウウ」


 気にするなとでも言いたげな魔犬。それから2回返そうとしたがその度に首を横に振られ、シュリアは諦めた。しかし、これでは余りに高価すぎて申し訳なさすぎる。2頭を交互に見ながらシュリアは言った。


「本当に貰って大丈夫なのかな…もし怒られたらいつでも取りにおいでね。あと、また怪我したらいつでもおいで。あれでよければいつでも作るから。ね、約束」

「ワウ」

「ホー」

「ふふ、ありがとう」


 どうやら魔梟も言葉を理解できるらしい。息の合った返事に、シュリアはつい笑みが溢れた。

 満足したのか、2頭は揃って森の方へと歩き出した。それを見ながら、シュリアはぽつりと呟いた。


「賢い魔犬と魔梟だなぁ」



 その瞬間、魔犬が木にぶつかった。



誤字報告、評価ありがとうございます。とても助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ