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あなたを守る

本日も三話ぶん。

16時台、17時台、18時台に更新予定です。

連続更新、第一話目です。

 アントニーの数々の嘘。

 それを暴けばきっと、ユーゴとリディアの無実も証明されるはずだ。


 貴方が私を深い闇から救い出して守ってくれたように、今度は私が貴方を守る番。



 感情的にならないように、荒れ狂う心を必死になだめながら静かに疑問を口にする。


「アントニー、あなたは本当に昨晩ユーゴと会って飲んでいたの?」


「ええ。そうですよ」

 にこりと微笑む彼にまた、不信感と怒りが募る。


「嘘はやめてください。ユーゴは数年前からお酒を飲んでいないのです。体質的に合わない、と話していたのに、そんなに飲めるはずはないでしょう?」


 いまにも溢れそうな怒りを抑えて、睨み付けながら言う。

 皆も不審に思ったのか、一斉にアントニーへと視線を注いでいる。


 この様子なら、立場をひっくり返せるかもしれない。

 ユーゴを陥れた者になど、負けてなるものか。


 こぶしを強く握りしめた私は「それに」と言葉を続けた。


「あなたが首から下げているその鍵。それは研究がしまってある場所の鍵ではありません。それは、ダミーの鍵だと彼が言っていました」


「レイラ、どういうことです?」

 不安げに司祭様が尋ねてくる。


「その鍵は、もういらない古いワインが入った棚の鍵なんです。あの人は、自分の研究が誰かに狙われるのをわかっていたから、ダミーの鍵を身に付けていたのです」


 思いもよらぬ真実だったのだろう。

 アントニーは「そんな、バカな……!」と、鍵がかかった紐を引きちぎり、悔しそうに床へと投げつけた。



「アントニー、誰よりもあなたがよく知っていたはずでしょう。あの人は私やリディアを一番に愛してはくれなかった。愛していると言われたことは一度もないの。あの人が最も大切にしていたのは、青い花なのだから」


 自分で放った言葉に自分で傷つくなど、私はなんて滑稽こっけいで馬鹿な女なのだろう。

 楽しくもないのに、笑えてくる。


 顔を上げると、全員から睨むような視線がアントニーに注がれていた。


 このままアントニーに罪を認めさせ、ユーゴとリディアを救うんだ。

 その思いが私の頭を支配する。


 あと少し、あと少しで、二人の無実が証明される。

 反論できずにうつむくアントニーを見て、良い流れになったことを確信できた。


 このまま押しきろうと、強い口調でさらに問い詰める。


「アントニー。あなたは時折ユーゴのことを悪く話し、以前も私の流産を企んでいましたよね? 今回の事件もあなたが仕組ん……」


「お言葉ですが、レイラ様」

 全てを言い終える前に、アントニーから口を挟まれる。


 彼は追い詰められているというのに堂々とした様子で、穏やかな微笑みすら浮かべていた。


「貴女様は心が清くていらっしゃる。貴女様は、夫や娘が悪だと思いたくないだけでしょう。青い花の研究、というのは一体何の役に立つんです? そんな研究、私は一度として聞いたことがありませんよ」

 

 どうだ、言い返してみろ。そう言わんばかりの瞳に、ぎりと歯噛みして睨み付ける。


 まずい。

 アントニーの一言で、流れが一気に悪くなってしまった。


 こうなったら、地下室で咲きそうになっているという青い花を見せる?

 いいえ、地下室にはアントニーが欲しがるデータも多数ある。ユーゴの大切な研究を、こんな男に渡すわけにはいかない。


 ねぇ、ユーゴ。私、どうしたらいい……?

 いつものように、答えてよ……


 小さく丸まって祈るように手を組むけれど、ユーゴの声が聞こえてこないどころか、妙案も何一つとして浮かばない。

 焦りと苛立ちが募り、下唇を噛み締めていると、隣からジェーンが深く息を吸い込む音が聞こえてきた。


 

「青い花は……間違いなくありますよ」


 驚きのあまり思わず身体が跳ねて、ジェーンを見つめる。

 彼女の目はまっすぐに司祭様を見据えていて、とても私を助けるためだけに嘘をついているようには見えなかった。


「ジェーン、どういうことですか?」

 司祭様は前のめりになって尋ね、ジェーンは過去を思い出すように、視線を上へと向けた。


「……半年ほど前からでしょうか。ユーゴがよく尋ねてきたんです。青い花が咲きそうだから、移動経路について考えている。良い町やルートを知らないか、と」


 アントニーに司祭様、神官将と私に視線を注がれ、ジェーンはリディアを抱き締めながら緊張した面持ちで再び口を開いて、言葉を紡ぐ。


「なんでもミディ町は環境が悪いのか、その花が咲かないらしくて。だけど、花のために嫁さんと子どもをあちこち振り回すなとユーゴに伝えたら、祈りの巫女たちはさすがに連れていけない。と言っていました。お客さんたちも聞いていましたよ。三丁目のトニー、医者のアンヌ、おつかいで来ていた隣の家のテリー。あとで、聞いてみてください」


 ユーゴは、私の知らないうちにそんな計画をたてていたのかと、愕然とする。


 私たちは確かに心を通わせた夫婦だったはずなのに。

 ずっと、彼から信頼されていると思っていたのに。

 彼はそんな大切なことを、何も教えてはくれなかった。


 胸が苦しい。

 私と彼の三年間は、一体なんだったのだろう。

 結局、私はユーゴにとっていい金づるで。

 愛とか恋とか、そういったものは全部、私の勘違いでしかなくて。

 これまでの幸せで温かい日常など、浮かれた女が見た儚い夢物語だった。

 そういうことなのかもしれない。

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