竜な公爵令嬢と……3
長い廊下をテクテク歩いて目指した応接室。
途中、すれ違うメイドや執事とハグしたり頭を撫でて貰ったりして私の機嫌は最高潮。
が、やっぱり応接室に着くと幾分か降下。
更にドア越し、応接室内に感じる魔力の気配でティティが今日中にどうにかできる、と言った意味が分かってしまって尚、降下。
何しに来たのかしら? そんな暇ないでしょうに。
部屋に入れば、ソファーに座るこじゃれたおじ様って感じの男性が一人。
その後ろに佇む、年頃の令嬢が黄色い声で騒ぎそうなイケメン青年が一人。
計二人のお客様。
「遅くなって申し訳ございません」
と令嬢プレイを発揮して上品にお辞儀する。
すると、こじゃれたおじ様が席を立ち言葉を発する。
「いやいや。こちらこそ申し訳ない。先触れもなく押しかけてしまって」
しかも自分の非礼を認め謝るなんて……薄気味悪いわ。
とりあえず、言葉が続きそうになかったので、礼をやめ、おじ様の顔を見る。
にこやかな表情。なんというかちょっと警戒心が疼くわね。
どういった思惑があるのか知らないけどそっちがそういう気なら……面倒だからもういいわ。
「そうですか。そういった構え、ならこちらも合わせましょう。それでいいのでしょ? 王様」
そうお客様の正体はこの国の王様。
グランツ陛下。その人である。
でも、さっきのやり取りでわかった事はこの場に王としてきたわけじゃないって事かしら。
王族として来てるなら、詫びは勿論の事。席を立ってまで発言はしない。
王様故に『なめられない』ように『あなたより私の方が上なんですよ』という態度で接するそうな。
この辺はマナーのお勉強の時に少し触れたので知っている。
「そうしてもらえるとありがたいな。……流石、テレジアの娘だ」
暗に今日は個人としてきたよって伝えたいのかしら、と思って言ってみたけど――どうやら正解だったようね。
「そう。なら畏まらなくてもいいわね。お連れの方もどうぞお座りになって?」
「お気遣い感謝いたします。カメリア様」
イケメンにそう促せば、王様の横に移動し二人ともソファーに座る。
私も向かい合うよう対面に座り、お茶が配り終わるのを待つ。
王様が『個人』として来る理由って何かしらねぇ……。
お茶が配膳され終わると神妙な面持ちで王様が喋り出す。
「此度の件、すなまかった。王として頭を下げるわけにはいかんのでな。俺個人としての頭で許してくれ」
変に貴族流でこられるよりこっちの方がわかりやすくていいわね。
「それは、私の家族に言ってあげて。みんなにってのは流石にあれだから……ティティとリンティに代表してもらいましょう。二人とも前に」
と私の家族代表格を前に出す。
そして、私はチラッと二人の横顔見て思う……激おこじゃん。と。
表面上は取り繕ってるけど、漏れてる魔力というかもはや殺気のようなモノが垂れ流しじゃないの!
早まったかしら、と右から感じる凍てつく冷気と、左から感じる燃えそうな熱気を感じながら王様みれば、案の定盛大に顔を引き攣らせている。
ついでに隣にいるイケメンも、ね。
これをまともに受けて動じない人なんかいないと思うわ。
……仕方ないわね。
「二人とも、抑えなさいよ。私には毎回はしたないって怒るくせに。自分たちがやっちゃダメでしょ?」
とにこやかに宥めてみる。
だってこのままじゃ王様喋れないし、最悪漏らすんじゃないかって心配に……。
「失礼しました。巨悪の根源が目の前にいると思うと――つい」
いつものすまし顔のきりっとした表情ではなく、どこかぼんやりとした表情のティティ。
「いやぁ……両手抑えるのにちょっと力んじゃいましたねっ」
いつものニコニコと糸目にしてる微笑を消して、両目をしっかりと開け爛々と輝けているリンティ。
怖いから! 特にティティ! なんでぼんやりと、どこ見てるかわからない目をして、見上げる様にしてるの? そこに何かいるの!?
リンティはわかりやすくていいのだけど……。
「ティティ? 大丈夫? 急にぼんやりしちゃって?」
と聞くが応えはリンティから返ってきた。
「あー。カメリアちゃんは初めて見るんですかね? ティティ姉さん、これ」
と姉を指さす妹。
「人を指ささない。あと、これとはなんですか」
そして、それを窘める姉。
「口調もぼんやりしてるし……大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。姉さんの素ってこんな感じですから」
「素なの? これ?」
「カメリアまで、これ呼ばわりですか?」
「だって、どこ見てるかわかんないし……ねぇ? なんでわざとらしく頬膨らませて怒ってますアピールしてるのよ?」
「いやぁカメリアちゃん? これも素なんですよね……姉さんの。仕事外の姉さんはだいたいこんな感じで、今は物凄く機嫌が悪いですね!」
いやそんなにこやかに言われてもね?
キリっと無表情っぽい仕事できますお姉さんがティティでしょ? それがいきなりこれって。
と若干王様などどうでもよくなる事件勃発で話が完全に脱線した。




