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竜な公爵令嬢と……2

さて、『お客様』がくるようなので私は早々にお風呂へ連行された。


しかしながら……ティティの言い方が気になるわね。


『お客様がお見えになるので、お支度を』


寝間着を脱がされ、すっぽんぽんにされつつ思考の海へと潜水する。

決して、羞恥心に耐えられないからではない。……ほんとよ?


それはさておき、私の現状について整理してみよう。


竜の転生体てのは報告したし、あの場にいた貴族にも知れ渡った。

私が『今のところはなにもする気がない』って事もちゃんと伝えた。

『私の縄張りに入ってこなければ、こちらからは何もしない』ってね。

まぁその時にちょっと騒ぎだした連中がいたけど、尻尾で軽く床を叩いたら黙ったわ。


で、それから王様が、私に対して『無遠慮な行動は慎むように』みたいな事をその場にいた人たちに言ってたわね。

これが先日の主な内容。



で、そんな状況下で我が家に『お客様』が来る。


ちなみに家にはお父様とお母様は留守で、今は私と妹のカナリアしかいない。

お母様は領地に行ってて暫く帰ってこれないと言ってた。

お父様も城から戻れないって聞いた。

なので、一応長女ってことで当主代理としてお話を聞く様に、とお母様に言われてるけど、六歳児に要件を伝えに来る阿呆は先ずいないでしょ? いくら竜の転生体でも、だ。


変よねぇ。

というか我が家に用があるんじゃなくて私に用があるわよね? これ?


ここで気になるのがティティの言い方になるんだけど。

普通なら『何某様がお見えになりたいとの事です。どういたしますか?』ってな感じだと思うのよね。

先触れってやつ? 前もって行くよ、って伝えるのが礼儀らしいし。

これは同等立場かそれ以下の立場の人達の礼儀らしいけど。

だからいきなり来るってのが許されるのは立場が上の人か、()()()()()()()()()人のどっちかって事になるんじゃないの?


……後者だと凄くめんどくさいわね。前者でも場合によってはめんどくさい。


「凄く…面倒だわ」


私の体を洗ってるリンティを見ながら、思わずポツリと零れてしまう。

そして、それをリンティは手を休めずに拾う。


「もしかして。お客様の事ですか?」

「そう。なんだかねぇ。阿呆じゃなければ、て願いたいわね」

「そうですね。でも陛下が釘を刺してるのにも関わらず、来ちゃってますからね。脳みその出来が特徴過ぎる方かもしれませんねぇ」

「……アレな時は来なかった事にしましょう」

「あはっ! そういうのはアタシ得意ですよ? その時はばっちりお仕事しちゃいますからねっ」


機嫌良さそうに鼻歌交じりで、しかもニコニコしながらこの子は……。

よほどあの時の事が気に入らないのね。と思っていると、


「――それじゃお股洗いますんで、開いてくださーい」

「いや、そこは毎回、自分で――」

「知ってます。ですがダメです。今日はアタシが洗ってるんで。ここもちゃんとア・タ・シが洗います」


とやけにキリっとした決め顔でそう言い切るリンティ。

この顔の時って引かないのよね、この子……。


「――……わかったわ」


この後私は、丁寧に且つ念入りにお股を綺麗にされた。






お股も体もきれいさっぱりとした私は来客用の服に着替えさせられ、当主代理として完全武装しているさなかである。

ここまで気合入れなくても、と思うが家の顔として対面する以上必要なことらしいわ。

面倒ね……貴族社会。


誰が来たのかしらねぇ、とつらつら考えていたのだけど、これもどうでもよくなってきたわ。

だって、よくよく考えたら誰が来ようが気にする必要がないって考えに行きついたから。

理由は簡単。私は竜だから。

一応は人間社会にお世話になりますねって体でいるけど……使用人を含めた私の家族さえ無事なら正直、他がどうなろうが知った事ではないのよね。


天上天下唯我独尊――これが私を含めた竜の在り方の一つだし。


それができて、許され、世界から肯定される存在。

……改めて考えるとでたらめな存在よね、私達って。


「――お嬢様。お支度が整いましたので、参りましょうか」

「……煩わしいわねぇ」


ティティを含めた使用人たちは誰が来てるのか、もちろん知っている。

が、何故か私には正体を告げづに連れて来いって話になってるみたい。

ますます変よねぇ。


そもそも、なんだかみんなお客様が来てからピリピリしてるよね。

薄っすらとした怒気と殺意が家全体に漂ってるし。

私の前じゃそれらは一切感じなんだけど。


「ねぇ、ティティ? これの原因ってもしかして?」


と家に漂う不穏な空気感の原因を聞けば、


「ええ、例の『お客様』の所為ですね。先日のアレを皆知っておりますので」

「アレ、ね。私に『首輪をつけて飼いならす』だったかしら? 長い事竜をやってるけど、面と向かってそう言われたのは初めてだったわ」


と言いながら、それを言われた時を思い出してクスクスと笑えば、ティティがまた溜息を零した。


「お嬢様は何故そう言われて平気なのですか? 竜は貶されるのを酷く嫌うと聞いた事があるのですが」

「ええ、大っ嫌いよ。でもね。それは私が怒らなくてもみんなが怒ってくれるからよ。みんながそうやって怒ってくれる事が嬉しくて仕方がないのよ。家中を殺気と怒気で満たすぐらい私の為にって。昔、転生する前にもいたの。私の為に怒ったり泣いたりする家族が――」


と言ったあたりで背中にむぎゅっと柔らかい感触が伝わってくる。

ついでにギュッと抱きしめられる感覚も。

目の前にティティはいる。ちょっと目をウルっとさせてるけど。


「リンティ?」


と背後に声をかければ、更にぎゅっと。


「がめりあぢゃん……あだじはいつまでもいっじょでずがらね」


ずびずび鼻をすすりながらリンティの涙声が返ってくる。


「勘違いしないでね? まだみんな生きてるわよ?」

「――え? ぞーなんでずが?」

「ええ。だから今、その子たちを呼びつける理由を考えてるの。一緒に暮らしたいのよ。あなた達とその子たち。お母様に、カナリア。みんなとね!」

「ううっ……かめりあちゃぁぁん!」


オイオイ泣くリンティの頭を撫でていると、それまで黙っていたティティが思案気な表情でじっとこちらを見ていた。


「――わかりました。私の方でもいい方法がないか、考えておきます」

「よろしくね! ティティ。それじゃ行きましょうか」

「もしかすると、今日中にどうにかできるかもしれませんね」

「ほんと!? それはいい事聞いたわっ!」


ティティの言葉を聞いて私は少し憂鬱だった気分が上方向に軌道修正され、とっとと終わらせる為にお客様が待つ応接室に向かった。





年末年始で時間が……もうしばらくすれば落ち着くはず!

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