両親への報告
意地っ張りな告白も済み、晴れて恋仲となった私たち。次なる縁談を持ち込まれてはたまらないので、さっさと両親に事と次第を報告するとした。
私とアルトが結婚したいと申し込んだときはお父様もお母様も生ぬるーい目で見てきた。
「やっとアルトも恋の自覚を持ったのか。どこからどう見てもロレッタちゃんに骨の髄からべた惚れなくせになにかとツンケンして、俺は冷や冷やだったよ。」
お父様が笑った。べた惚れ…全然気づかなかったよ。寧ろ嫌われてると思ってた。「大嫌い」って言われたし。
「私もロレッタちゃんはアルト君が大好きで大好きで仕方ないのに、上手に態度に出せなくて誤解されて冷や冷やしたわあ…」
お母様もコロコロと笑った。
私たちの恋愛事情は両親の知るところであったらしい。あの私を愛してくれているお父様が私を養子縁組しなかったのもそのへんの理由だろう。一度親子として養子縁組してしまうと姉弟は結婚できないから。
「おまけにアルトが運命の女性探しなんて始めちゃって。候補が茶色の髪にサファイアブルーの瞳。美しい口元。もう誰を重ねて見ていたのかまるわかりだったよ。」
お父様が生ぬるく笑った。
「えと…その仮面の女性は姉上でした。」
アルトが恥ずかしそうに述べた。自分の姉と性行為済みだもんね。しかも運命を感じるような濃厚えっち。両親に報告するのはちょっと恥ずかしいよね。
「まあ。そうなの?」
「はい。でも僕は童貞を捧げたから姉上を妻にしたいのではなく、姉上を好きだから妻にしたいのです。」
おおう…ストレートな告白に頬が染まる。アルトはなんて言うか私に対して随分丸くなったように思う。等身大の少年アルトも可愛くはあるけど、優しい男性は勿論好きです。特に嫌われてるとばかり思ってたから嬉しさひとしお。
「ロレッタちゃんはどう思っているの?」
「どうしても、と乞われるなら妻になっても良いですわ。(訳:激しく求められて嬉しいのでお嫁さんになりたいです。)」
「そう。たまにはちゃんと好きって言ってあげなきゃダメよ?」
「嫌いじゃないですわ。(訳:大好きです。)」
お母様は困ったような顔をした。どうして私の口からは素直じゃない言葉ばかり出てくるんだろうなあ。溜息が出ちゃうよ。私だってもっと素直に「アルトが大好きだよ」って言いたいのに。
「ロレッタちゃんはちょっと独特の態度をとるけど、アルト君大丈夫?」
「はい。僕も姉上が何を仰っているのかなんとなくわかるようになってきましたので。」
アルトはいつの間にやらロレッタ語の翻訳が出来るようになっていたらしい。やはりコミュニケーションは偉大だね。私は口語言葉に悪癖がついてるから他人には誤解されがち。言いたいことを汲んでくれる相手とはすごく仲良くなれるんだけど。
「なら良かったわ。悪癖ではあるけれど『ロレッタちゃんに欠かせないスパイス』ですものね。」
「はい。酔っぱらって可愛く甘える姿もキュンときますが、意地の悪い態度のくせして本心は可愛い乙女というギャップは最高に可愛らしいです。こんな可愛いギャップに気づかなかっただなんて人生損してました。」
アルトの惚気も絶好調だ。うっとりと父母に私の可愛らしさを述べている。
「アルト。耳が曲がりそうな臭いことばかり言ってるとお口が腐るわよ。(訳:恥ずかしいから惚気ないで。)」
「今まで姉上には酷いことばかりを言っていたので、これからは甘いことを沢山囁きたいです。耳にお砂糖を詰める覚悟をしてください。」
「……ばか。」
とりあえず婚約の報告だけして結婚の予定を立てることとなった。今から計画を立て、告知して、来年の秋頃挙式してはどうかという話になった。異論はない。結婚準備は忙しいものとなるだろう。
「そうそう。アルト君たちはもう初夜は前倒ししたみたいだけど、結婚式が終わるまでは禁欲生活してね。花嫁は赤ちゃんを身籠ると婚礼衣装のサイズやデザインが選択できなくなるから。」
「そんな!」
アルトがショックを受けた顔をした。若いもんねえ。えっちなことは好きだよね。おねーちゃんもえっちなことは嫌いではないけど…ウェディングドレスはマーメイドラインが良いです。ひらひら~ってたっぷりトレーンがあって。長いマリアヴェールをつけて。一生思い出になる式だから理想のドレスが着たいなあ。アルトが思わず惚れ直してくれるような。
「1年の我慢だよ。一生の思い出に残る式になるのだから獣欲くらい我慢なさい。」
お父様に宥められてアルトはしょんぼりしてしまった。お初にえっちした感触からするとアルトって結構絶倫気味な感じだしね。
「アルトはわたくしの身体だけが目当てですの?」
「そんなことあるわけないよ!姉上の全てを愛しています。」
「なら、我慢なさい。」
アルトは恋が成就して少し浮かれているようだ。私も嬉しいけれど。
***
居間でまったりとお茶。例のやたら酸っぱいハーブティーに蜂蜜を足していただく。アルトも向かいのソファて同じものを口にして顔を顰めている。あまり好きな味ではないようだ。
「姉上。このお茶、色は綺麗だけど、すごく酸っぱい。」
「おこちゃま舌のアルトにはまだ早い味だったかもしれないですわね。おほほ。でも美容には良いらしいですわ。(訳:好き嫌い別れる味だよね。でもおねーちゃんは綺麗になれるように頑張ってます。)」
私はもう一口ハーブティーを飲んだ。何とも言えない酸味と蜂蜜のほのかな甘みを感じる。香りは素敵だ。いい香り。
「そう言えば、わたくしはこの通りの悪癖を所持しているので、てっきりアルトには大嫌いだと思われていると思ってましたのですけれど、アルトはいつから私のことを想っていたのですか?」
「うーん…そうだなあ。」
アルトは回想を語り始めた。




