81「こりゃ使ってるね転送術式」
『転送術式で送られるというのは変な感じですね』
『ほんとだよねー。僕も久しぶりでなんか変な感じ』
『なあコレ儂らどうなってるんじゃ?』
三人はそれぞれ光の粒となり、真っ暗な空間を飛んでいるような感覚を感じている。
『どうもこうも、その通りに光の粒々になってるよ』
『…………うろ覚えなんじゃが儂、前世で見た映画での、ハエと人間が混ざるヤツあったんじゃが……』
タロウの頭の中では、転送術式を出た直後、爺いと子供とチョンマゲの混ざった謎の生き物が蠢いていた。
『へぇ、良い勘してるね。確かに転送中に魔術陣を弄られるとそうなるんだよ』
『え……それ、ちょっと先に――」
『だからウナバラさんに見張りを頼んだのさ』
シャカウィブまで四半刻ほど掛かるため、余裕を見て半刻の見張りを頼んである。
天狗にぬかりはないのだ。
『天狗山に近いシャカウィブは僕の縄張りのウチだからどこにだって着地できる。一気に突っ込むから即座に会敵するかも知れないよ。心の準備お願いね』
● ● ●
天狗が言った『どこにだって』は、カシロウたちが思う以上の場所だった。
カシロウは自らを包む光が消え去った直後、辺りを伺い、恐らくはシャカウィブの砦内、地下牢だろうと当たりをつけた。
タロウも同じく目を開けて、自分の顔や体を撫で回していつもと同じ姿であることを確認し、ホッと一息ついてみせた。
「大丈夫だったねタロさん」
「……だ、誰かいるのか……」
薄暗い地下牢の中、聞き慣れない小さな声が牢の一つから伝わってくる。その声に駆け寄ったカシロウは二つの人影を見つけて声を掛けた。
「リオ! 無事か⁉︎」
牢の中には倒れたリオと、その傍らで治癒術を使う八軍の者らしき男。
「ヤ……ヤマオ様……、リオ様を、頼み……ます――」
「ま、待て! 逝くな!」
抜く手も見せずに兼定を抜き打って、鉄格子を斬り裂いて駆け寄ったが、男は血を吐いてそのまま息を引き取った。
「くっ! 天狗殿! リオを!」
「あいよ! 任せて!」
カシロウは死んだ男を抱えて傍に寝かせ、入れ替わりに天狗がリオの胸へと治癒術を使う。
「……どうなんじゃ? 助かりそうか?」
「なんとかね。どうやら治癒術は得意じゃなかったみたいだけど、文字通り命がけで使い続けてくれてたお陰で間に合うよ」
意識のないリオの胸には、肩から脇腹に掛けて深く抉られた刀傷。
「リオほどの者が、正面からこうまで手酷く……」
その刀傷を見てカシロウが呻く。
仮にカシロウがリオと戦ったとしても、一刀の下に斬り伏せるのは至難である。
「敵も手練れだね。リオさんは暫く動かせないからさ、二人で行ってちゃちゃっとやっつけて来てよ」
額に汗を浮かべて治癒術を使う天狗が事もなげにそう言って、タロウがそれに、同じように何でもない事のように返事する。
「おう分かった! って誰を斬れば良いのじゃ?」
「誰ってそりゃ――、ってもう向こうから来たよ」
天狗が牢の外を視線で示し、その視線を追ったカシロウは目を疑った。
「――お、お主は……ダナン殿か⁉︎」
視線の先には黒い覆面に黒装束、あの夜のダナンと瓜二つの装いだった。
「ってバカだなぁ。ダナンさんはヤマオさんが斬り殺したじゃないの。違う違う、クィントラさんだよ」
「――は? クィントラ? いや、クィントラは今、八軍と九軍を率いてこちらへ向かって……」
頭の中の整理が全く追いつかないカシロウを余所に、黒装束の男が口を開いた。
「やはり貴方がネックになりましたか」
黒装束の声を聞き、驚いた顔のカシロウが天狗の顔を見て、再び黒装束を見、さらに天狗の顔見た時、黒装束が続けて口を開いた。
「エスードの転送術式を使って来られたようですね。いつからエスードが怪しいと?」
「エスードが怪しいかどうかは別にして、ダナンさんが斬られた頃からエスード商会に転送術式があるとは思ってたよ」
カシロウとタロウが一歩も二歩も下がって牢の内部で壁に寄った。
二人は全く話について行けていない故、自ずから進んで空気と化した。
「へぇ。そんな頃からダナンは尻尾を出してたんだ」
「んー、ダナンさんがって言うか消去法だよ。ディエスさんも調べたらしいけど、僕もちょっと調べたんだよ。この僕がだよ? なのにダナンさんの塒は分かんなかった」
「だから?」
「この僕が知ろうとして知れない事なんて異常だよ。『こりゃ使ってるね転送術式』そう思うのは自明だよ」
「だからってエスードにあるとは――」
言い掛けた黒装束を遮って、ちっちっちと舌を鳴らした天狗が指を一本立てて振る。
「僕を舐めて貰っちゃ困る。結界のせいで覗けなかったエスード商会以外には無かったんだよ。王城にもビショップ倶楽部にも、トザシブのどこにもね」
「……なるほどね。完璧に隠しすぎましたかね」
黒装束はそう言って、頭と顔の覆面を剥ぎ取り素顔を晒した。
薄暗い地下牢の中、淡い光に映し出されたのは、その美しい顔立ち、明るめの髪色、天狗が言った通りにクィントラ・エスードその人だった。
「おいカシロウ、あれが敵か? あれをやっつければ良いんじゃな?」
「……本当にクィントラ……、いや、ちょっと待ってくれ、私には何がなんだか……」
腕を振り回してやる気を示すタロウと、混乱を隠しきれないカシロウを置き去りに、天狗とクィントラの問答は続く。
「天狗山の天狗……。貴方はやはり危険すぎるが、なぜカシロウの側に着くのです? 貴方にメリットはありますか?」
――おい、何を言うんだ。
カシロウもそう思いはするが、余計な口を挟まずに黙る。
「メリットかぁ。ヤマオさんの味方して得られるメリットで言えば――、ないかも知れないね」
天狗はいたって正直に、自然にそう答えた。
「でもほら、僕って『天狗』でしょ? ヤマオさんとタロさんなら分かると思うけど、天狗ってどう書く?」
顔を見合わせたカシロウとタロウ。
「「……どう書く? 『天』に……『狗』……?」
次回、ついに天狗のことを書こう――
――かと思ってるんですが、まだ一文字も書いてないんでどうなるか分かりません。




