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80「エスード商会から」


「エスード商会に? 天狗殿よ、分かるように説明してくんねえか?」


「多分なんだけどね、あると思うんだよアレが――」



 そこまで口にした時、天狗がビクンと体を跳ねさせた。



「――あちゃー」


「どうなさいました?」


「それがねえ。僕の魔術の瞳、もうちょっとでシャカウィブだったんだけど、撃ち落とされちゃった」


「な――? では既にシャカウィブは敵の手に⁉︎」


「いやいや、慌てちゃダメ。遠くから見た感じだとシャカウィブ自体には敵の――神王国の軍はまだ来てなかったみたい」



 撃ち落とされる前に確認できた情報を天狗が開示し、一同はさらに首を捻った。



「という事は……、リオは斬られていない……?」


「いや、それを疑っちゃうと里長夫人の立つ瀬がないから。そこは間違いないとして考えて、やっぱりエスード商会だね」


「今回の件、パガッツィオとエスード商会に繋がりがあると、そう見てるってえ訳ですな?」


「うん、多分そう」



 いまいち納得がいかないながらも、ウナバラも立ち合いエスード商会の訪問および立ち入り調査に掛かると決定した。




● ● ●


 ウナバラ、カシロウ、天狗、それにタロウの四名は速やかに、トザシブの城下北町東端、エスード商会へと急行した。




「あらー、思ってたより大きい建物なんだね。すぐに見つけられると良いんだけどねぇ」


 朝一つの鐘が鳴って少し、城下の外郭北東角、一際大きな一画に有るエスード商会を見上げて天狗がそう溢した。



「一体何を見つけるおつもりですか?」


「転送術式だよ。多分だけど、魔王城にあるものより大きな、人が送れるサイズのやつがあると思うんだ」


「バカ言っちゃいけねえや。たとえエスード商会といえどもそんなのある訳がねぇよ」



 魔王城のものも、他国にあるものも、転送術式とは『片手に乗る程度のものを送る魔術』というのが一般的な認識である。



「普通に考えればそうなんだけど、仕組みから言えば不可能な術式じゃないんだよ。だからここにはある筈なんだ」


「なぜそんな結論になるのか分かんねえが、よっぽど自信がおありらしい。ならいっちょ当たるだけ当たってみるかねぇ」



 諦めたウナバラが、エスード商会の中へと踏み込んで(おとな)いを告げ、主人(あるじ)であるタントラ・エスード、つまりクィントラの父親へ取り次ぎを願い奥へと通された。


 王母キリコの父親でもあるが、本人も隠している為、ウナバラはいつも通りにざっくばらんに話し掛ける。



「よぉタントラ、久しぶりだな。どうだ儲かってるか?」


「これはウナバラ様にヤマオ様、このような所へお越し頂かなくても、御用でしたら呼びつけて頂ければすぐに馳せ参じますのに」


「良いんだ良いんだ。お前に用と言うよりな、ここに用があったのよ。この爺さんがな」


 ウナバラが顎をしゃくって天狗を指し示し、無遠慮にそう投げかけてさらに続ける。


「今から屋敷内を調べるが、問答も詮索も無用だ。良いな?」


「それは構いませんが……、一体どうされたのですか?」


「あいやウナバラさん、時間が惜しいし問答しよう」



 ヨウジロウとカシロウのちょうど真ん中ほどの背に筋肉など知らないかのような体格の天狗、対してタントラは筋骨隆々、ケーブに迫ろうかというほどの巨軀。


 それを見上げる天狗が言う。


「……クィントラさんはお母さんに似たんだね」


「ええ、仰る通りで皆に言われます」


「雑談はそれくらいにして本題ね。転送術式がここにあるでしょ?」



 直球で天狗が問うて、間髪入れずにタントラが――


「ええ、ございますが、それが何か?」


 ――あっさり認めた。



 それなりに緊張していたカシロウもウナバラも、これには肩透かしを喰らって逆に驚いた。

 少なくとも隠すか動揺するか、そのどちらかだと思っていたから。



「あそう? 案内してくれる?」


「勿論結構ですが、転送術式など王城にもございますでしょうに」




 タントラの案内でエスード商会内部を行き、受付に応接に事務所を抜けて、従業員たちに奇異の目を向けられながらもタントラの執務室へと通された一同。



「こちらです。特別に珍しいものではないでしょう?」


「……これは魔王城にあるのと同じ、小物用の転送術式だよ」



 執務室の奥、一段上がった床に、先日王城で見たものと同じらしき、半間《1m弱》ほどの魔術陣が設えられていた。



「術式は出たままにしてるんだね」


「ええ、ウチは主に他国との商売ですから、商売用の手紙や注文をいつでも受け取れるように彫って刻んであります」


「なるほどね。でもこれじゃない。違うのもあるでしょ?」


「……いや、これしか御座いませんが……?」

 


 当ての外れた天狗が首を捻って言う。


「うーん、ある筈なんだけどなぁ……」


 それを見たウナバラが声を荒げる。


「タントラ、隠し立てすると為にならんぞ!」


 何を言うべきかさえよく分からないカシロウは黙っている。

 以前クィントラに言われた様に、剣術と土木工事の事しか得意でないのだなと、こんな時なのにカシロウはそんな事を考えていた。


 タロウにおいては、タントラ(デカいおっさん)も友達になってくれはしないか、そんな事を考えていた。



「この転送術式、誰が刻んだの?」


「それは…………」


「言っちゃマズい?」


「確かに、皆が欲しがると大変だからと口止めされてはおりますが……、ウナバラ様方なら良いでしょう。我が子クィントラが刻みましてございます」



「だろうねぇー」



 当然というか、やはりクィントラが刻んだものだろうとタロウを除く一同全てが思っていた。

 そこまで難しい術式ではないが、魔力の調整など、簡単という訳でもない。

 勿論、十天の秀才クィントラであれば、王城で見ることも出来る転送術式など、模写することなど容易(たやす)いに決まっている。



「ならさ、タントラさん、そのクィントラさんの部屋、お願い」


「ははぁ確かに、三十七にもなった息子の部屋なぞ長らく見ておりませんな。今頃は軍と共にシャカウィブへの道中、今の内にどうぞどうぞ」





● ● ●


「どう? 見直した?」


「いやいや、見直すというか、『流石は天狗殿』という感じですよ」



 クィントラ・エスードが起居する離れ、一同はそこの一室で確かに確認した。


 先ほどの転送術式と同じらしい魔術陣が、およそ六倍の三間(約5.4m)ほどのサイズで作られているのを。


 その細部をふむふむと頷きながら天狗が確認し、さらに魔術陣に魔力を流し、どうやら人さえも送る事が可能だと分かった。



「なぜあると踏んだのです?」


「え? あ、ほら、僕って長生きだからね。僕が知ろうと思って知れない事なんてないんだよ」



 とりあえず誤魔化した天狗だが、パガッツィオの勇者ダナン・イチロワによる辻斬り事件の際、トビサの腕が斬られたあとに一人で色々と調べ回った。


 その時からエスード商会にコレがあるだろうと睨んではいたのだ。


 


「さぁ、魔力も満ちたよ。行こうか」


「ええ」


「腕がなるのじゃ!」





 三人は魔術陣へと踏み込んで、足元から立ち昇る光に包まれ――


「いざ! ……あ、ウナバラさん、半刻くらいはここで魔術陣を見張っておいてね」


「おう、分かった」



「じゃ今度こそ、いざシャカウィブ!」



 ――音もなく消え去った。







今週も読んで頂きありがとうございます。

次回は週明けの予定、またのお越しをお待ちしております。

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