第91話 到着!迷いの森
翌日。
俺たちは、夜が明ける前に朝食をとり出発の準備を整えた。
そして、夜が明けると同時に自爆ボタンをぽちっとして、野営の後片付けを手早く済ませると、俺たちはまた馬車上の人となった。
ちなみに出発前にはしっかりとタマにお願いして、使える属性魔術をすべて使ってもらい、光魔術以外の属性魔術のレベルを上げた。
タマの各属性魔法のレベルは10だが、【完全見取り】の制限があるため、俺の各魔法のスキルレベルは9。
昨日上げた光魔法と合わせてスキルレベル9で揃う……筈だった。
【炎魔法】のスキルレベルが10に上がらなければ。
いや、スキルレベルが上がることは嬉しいんですけどね。
数字の並びの美しさとかあるよね? って話で。
まぁ、【炎魔法】は先の魔物の大量発生で連発したし仕方ないかな。
延焼を避けるため森の中では【炎魔法】の使用機会は減るだろうし、すぐに他の魔法も追いついてくれるだろう。
馬車での移動中は皆おもいおもいに過ごしているようだ。
王女、マリナさん、ヤスナの三人は研究資料と睨めっこ。
咲良とイリスは今日も文字のお勉強。
と、昨日と何ら変わらない風景が馬車の中にはあった。
そして俺はというと、昨日決めた予定通り過ごすことにする。
つまり――――
【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】……
【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】……
【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】……
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「キョーヤ様、そろそろお昼になりますが、今日はどうされますか?」
王女に呼ばれて、ぷつりと糸が切れたかのように集中力が切れた。
けど、丁度いいな。いつの間にか昼になっていたようだ。
ちなみに、【森羅万象】のスキルレベルはまだ上がらないし、迷いの森もまだ視界に入らない。
「急ぐ旅でもなし、迷いの森もまだ見えてこないし、降りてのんびり食事でもするか?」
「あら? そんなこともないみたいよ? いまは坂を登って降りてって繰り返しているから見えないけど、このままあと2時間も走れば視界を塞いでいるあの丘のてっぺんに着くわ。
そうしたら、迷いの森は見えてくるはずよ?」
そう言ってシンシアは、2つ先の丘の頂上を指さした。
たしかにあの丘の先は何も見えていない。
「もしかして、妖精を見にいかせてくれたのか?」
「そうよ。余計なことだったかしら?」
「いや、全く。よくやってくれた。距離的にはどうだ? 今日中につきそうか?」
「それは問題ないはずよ?」
ふむ。予想より早く着きすぎたな。
先程シンシアも言っていたとおり、迷いの森への道のりは、勾配の繰り返しだ。
普通の馬車であったなら、平地より多めの休憩を強いられるだろう。
しかし、アスドラにはそんなの関係ないからな。その分だけ、到着時間が早まったのだろう。
迷いの森近辺には陣を張れるような場所はない。
聖属性を放つコテージとて、一晩中魔物の領域で過ごすには少々不安が残るため、あえて迷いの森の中で陣を張る予定だ。
そして、そこでアスドラとは一旦お別れだ。
劣飛竜の治療でも世話になった都市セーレの馬車屋で、馬車ごと預かってもらうことになる。
王女が今俺たちと行動を共にしていることはバレているからな。
こうして、王女を隠れ蓑にして気軽に転移ゲートを使えるのはありがたいな。
馬車屋に予め伝えておいた予定より一日二日早い到着予定となってしまった。
問題ないとは思うが、念のため連絡をしておいた方がいいだろう。
受け入れの準備とかもあるだろうしな。
とすると、どちらにせよ一旦馬車を止めて誰かにお使いをしてもらう必要があるな。
俺は方針を決めると、馬車内にいるパーティメンバーに指示を出す。
指示といっても、「昼食は馬車を止めて外で食べるから、準備をするように」と言うだけだけど。
お使いにいったマリナさんと、ヤスナの帰りを待って全員で昼食を取った後、再び馬車上の人になる。
そして――
《スキル【森羅万象】のレベルが上がりました》
「恭弥、見えてきたわよ」
【森羅万象】のレベルが上がると同時に、迷いの森が姿を現したのだった。
†
「こうして改めて見ますと、なんとも不気味な森ですね」
王女が、迷いの森を眺めながら感嘆する。
森はすべてを拒むかのように閉ざされており、数メートル先はすでに闇だ。
当然ながら、入り口のようなものも見当たらない。
パッと見える範囲だけだが、木と木の間はどこも1メートルもない。
重装備なら通ることも難しいだろう。
いや、重装備でなくとも、ちょっと体格の良い者であるならば、木々の間を抜けるのにも難儀しそうだ。
幸いといっていいのかわからないが、俺も体格はよい方ではないし装備も軽装だ。
問題なく通ることができるだろう。
これだけ密集して木が生えていると日光が足りず元気のない木が多そうなものだが、なんの問題もないようだ。
大小様々な葉をこれでもかというほど付けているし、落ち葉の間からは、草がぼうぼうに生えている。
ファンタジー感溢れる、不思議の森。
そういった印象をうけるが、間違ってはいないだろう。
ちなみに生えている草は、薬草の類いではなく単なる雑草だ。【森羅万象】で確認するまでもない。
魔物の領域で夜を明かすのは不可能にしても、迷いの森の中で夜を明かすのも不可能のように思える。
自然破壊はあまりよろしくないが、寝床を確保するために多少木を切る必要があるかもしれないな。
念のため【気配察知】と、【危機察知】、そしてマップで気配を探るが、小動物の気配すら感じることができなかった。
ちなみに、現在この場には俺と王女しかいない。
ここで一時の別れということで、念入りにアスドラの世話をした後、他のメンバーには都市セーレの馬車屋にアスドラを預けにいってもらっている。
この場に残っているのは、転移ゲートをくぐれない俺と、同じく転移ゲートをくぐれないことになっている王女だけというわけだ。
よくよく考えたら、王女とこうして二人きりになるのは初めてかもしれない。
前線基地での状況が少し近かった気がするが、あのときは周りに人が沢山いたからな。
「なんなら農商都市ヘルムントででも待ってるか? あの国なら安全だろう?」
「いえ、お供させて下さい」
後で知ったところによると、王子派だった貴族たちの係累が先だってハインツエルン王国に亡命しているそうで(亡命の理由は、改易やら減封ではなく魔物の大量発生だそうだが)、逆恨みなどによって危害が加えられる可能性があったそうだが、王女の口から告げられた言葉は別な言葉だった。
「キョーヤ様ほどではありませんが、こう見えても戦闘は得意なんですよ? それに、体力にも自信があります! お連れいただければ、きっとお役にたってみせます。ですから――」
「まぁ、王女がある程度戦えるのは知っているし、【時空魔術】の使い手が俺以外にいるってのもポイント高いからな。邪険にするつもりはない」
ちなみに、王女のステータスはこんな感じだ。
──────────
名前
アンナロッテ・フォン・ミレハイム
種族
人間族
職業
はぐれ王女
年齢
17歳
レベル
28
生命力
2500
魔力
68000
力
130
体力
660
敏捷力
60
知力
120
精神力
650
スキル
毒耐性(LV4)
麻痺耐性(LV4)
石化耐性(LV2)
睡眠耐性(LV5)
魔封じ耐性(LV3)
恐慌耐性(LV3)
虚弱耐性(LV3)
気絶耐性(LV3)
炎耐性(LV1)
氷耐性(LV1)
水耐性(LV1)
雷耐性(LV1)
風耐性(LV1
純魔力耐性(LV3)
物理耐性(LV3)
剣術(LV1)
槍術(LV1)
盾術(LV2)
時空魔術(LV4)
氷魔術(LV2)
生活魔術(LV2)
採取(LV2)
警戒(LV2)
観察眼(LV2)
耐性強化(LV2)
防御強化(LV2)
魔力転換(LV2)
称号
王女、人誑し、薄幸、ど根性、堪え忍ぶ者
──────────
なんつーか、ステータスだけなら初めて会ったときのイリスより強いよな。
今はイリスもステータスが上がっているし、当時でも殺し合いになったらイリスが勝っていただろうが。
イリスはステータスに現れない部分が特に優秀だからな。
魔力はこのパーティの中で1番少ないけど、魔力変換は魔力を変換しているだけなので、魔力消費はゼロで使えるお得なスキルだからな。
おっと、話がそれたな。今は、王女のステータスだ。
なんつーか腹筋とか割れてそうなステータスだな。(※割れてません)
タンク王女だ。
「ありがとうございます。今回旅に出るにあたって、宝物庫の防具を失け……お借りしてきましたので、お役にたって見せます!」
いま、失敬って言いそうになってなかったか?
まぁ、別に構わないけど。
「国の武器庫や宝物庫には、実用的な装備はないんじゃあなかったのか?」
「ええ。ですが、使いようによっては有効なものもありますので……私が持ってきた物も、人によっては単なるガラクタに過ぎませんから」
まぁ、何とかとはさみみたいなものか?
こうご期待ってことにしておこう。




