第89話 さようなら魔眼
面倒な後片付けは、『クリーニング』使ってアイテムボックスに食器をしまうだけだ。
パパッと終わらせて、風呂に入る。
我ながら素晴らしい風呂だ。
岩風呂だ。
創造った魔術は土魔法がメインのため、檜風呂は不可能だけど。
温泉とまではいかないが、銭湯くらいのクオリティはあると思う。
魔術で出した水だし、水道代やガス代を気にしなくていいのも良いな。
極楽極楽。
風呂から上がると、他のメンバーたちがリビングで談笑していた。
「なんだ、お前たち……まだリビングにいたのか。明日も早いからな、さっさと風呂に入って寝ろよ」
風呂は男女別で作ってあるため、俺を待っていたということではなく、リビングに集まって何やら女子トークを繰り広げていたようだ。
「はい、お風呂上がりのジュース」
「ありがとう、咲良。気がきくな」
「どーいたしまして」
礼を言って、咲良が差し出してくれた果実水を受け取る。
冷蔵庫でほどよく冷やされて、風呂上がりの身体にほどよく染みこむ。
一気に飲みきると、『クリーニング』をかけて咲良にコップを返す。
仕舞ってしまうと、咲良が風呂上がりに何も飲めなくなってしまうからな。
「じゃあ、俺は先に寝室にいくよ。すぐには寝ないから、何かあったら呼んでくれ」
そう言って、二階にある寝室へと移動する。
ふぅ。ようやく一人の時間だな。
そんなわけで、【SP操作】の時間だ。
昼間の移動中にあれこれ考えていて、今晩【SP操作】を使うつもりだったが、経験がもったいない問題のため、【完全見取り】は見送るつもりだった。
だが、さっき都合よく【完全見取り】のレベルが上がったからな。まずは、【完全見取り】から上げようか。
そのまえに、今回のSP操作の方針だけ再確認しおく。
・必要になったときに必要なスキルのレベルを上げることができるように、SPはとっておく
・レアリティが5以下のスキルは今回は上げず、次にスキルレベルが上がったタイミングで上げる
・SP変換は使わない
ってことで、まずは先ほどレベルが上がった完全見取りの、現在の説明をみてみよう。
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■ヘルプ
・スキル名
【完全見取り】
・レアリティ
10
・詳細
一度見たスキルや、術技を収集、習得することができる。
レベル1
生物が持つレアリティ9までの、スキル及び術技を収集、習得できる。
レベル5以上のスキルも複製できるが、最初の複製では、レベル4での複製となる。
レベル2
スキルや術技の収集および習得の是非を、決めることができる。
現在の設定は、
【収集】手動
【習得】自動
設定は、コンフィグで変更可能。
レベル3
発動を確認した、レアリティ10のスキルを収集可能。
但し、スキルレベルは1で収集される。
レベル4
発動を確認したレアリティ3以下のスキルにおいて、レベル4制限が緩和され、レベル9までの経験を習得できるようになる。
ただし、レベル10以上のスキルを複製した場合は、レベル9での複製となる。
過去に複製をした相手からは、差分のみの習得となる。
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なるほど、便利になったな。
レアリティ3以下というと、なんか残念な感じがするかもしれないが、実のところそんなことはないことはもうわかっている。
いままでで手に入れたスキルを総合してみたところ、レアリティは次のような感じで設けられているようだ。
■レアリティ1
取得に資質やステータスが関係ないスキル
・ 【生活魔術】
・ 【木工】
・ 【縫製】
・ 【絵描き】
など。
■レアリティ2
取得に資質や一定以上のステータスが必要なスキル
・ 下位属性系の魔術スキル
・ 武術系スキル
など。
■レアリティ3
取得に資質や一定以上のステータスに加えて、中級以下のスキルが必要なスキル
・ 上位属性系の魔術スキル
・ 一部の武術系スキル
・ 【ミラーリング】
など。
つまるところ、人間が普通に努力して覚えられるスキルはすべてレアリティ3以下ということになる。
レアリティ4以上では特種な習得条件が必要だったり、才能が必要だったりするようだ。
人間を相手にしているだけならば、これで十分というわけだ。
しかし、魔法スキルがレアリティ5だったりするように、魔物が持つスキルには、レアリティ3を越えるスキルが多い。
といわけで、希望としては、更なるレベルキャップの解放だろうか。
次のレベルに上げるには、50ポイントのSPが必要だ。
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レベル5
発動を確認したレアリティ5以下のスキルにおいて、レベル4制限が緩和され、レベル9までの経験を習得できるようになる。
ただし、レベル10以上のスキルを複製した場合は、レベル9での複製となる。
過去に複製をした相手からは、差分のみの習得となる。
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よし。もう一声!
レアリティ5といば、下位属性系の魔法スキルがレベル5だな。
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レベル6
発動を確認したレアリティ6以下のスキルにおいて、レベル4制限が緩和され、レベル9までの経験を習得できるようになる。
ただし、レベル10以上のスキルを複製した場合は、レベル9での複製となる。
過去に複製をした相手からは、差分のみの習得となる。
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レアリティ6。闇や光、氷や雷系統の魔法がここにあてはまる。
光以外の魔法スキルは、タマに頼めばレベル9までは上げることができるからな。
ってことで、SP操作で上げるのは、光魔法だけで良いだろう。
必要SPはドドンと、322ポイント。
ちょっと痛いけど、仕方ないね。
じゃあ、次は……と。
やはり【メニュー】だな。
【完全見取り】と同じレベルにしたいところだ。
【メニュー】は現在スキルレベル3。
これをスキルレベル6に上げるには――150ポイントか。
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■ヘルプ
・スキル名
【メニュー】
・レアリティ
10
・詳細
レベル1
・アイテムボックス
アイテムボックス内のアイテム一覧を表示する。
アイテムボックスの使用方法については、こちらを参照。
・ステータス確認
現在のステータスを確認できる。
・ARウインドウ(地図)の常時表示
設定はコンフィグから行ことができる
レベル2
・アイテムボックス(レベル2)
アイテムボックスに検索機能追加
・ステータス確認(レベル2)
仲間のステータスを確認できる
レベル3
ログ機能の追加
レベル4
・アイテムボックス(レベル3)
アイテムボックスに格納したアイテムの保存方法を任意に変更可能。
デフォルトの保存方法は、コンフィグで変更して下さい。
現在の設定は、【状態固定】です
・マップ(レベル2)
マップに書き込みができるようになる
レベル5
・使用言語設定
メニューで使用される言語を変更できる。
現在の設定は【日本語】です。
※【自動翻訳】スキルを所持している場合は、マップに書き込まれた言葉も、【自動翻訳】によって変更されます。
・スクリーンショット
現在視界に入っているものを画像として記録し、保存することができる。
※保存した画像は、メニュー→スクリーンショットから閲覧することができます。
レベル6
・マップ(レベル3)
マップにピンを落として、地形を確認することができる。
但し、記録は前回そこを訪れた時の状況となる。
・メール
遠く離れた仲間にメールを送る事ができる。
メールを受け取った仲間は、一度だけ返信が可能。
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じゃあ、検証していきますか。
まずは、保存方法の変更についてだが、今まではアイテムボックスに収納するとそのままの状態で保存されていた。
現在の設定が「固定」となっている事からも推測できる。
で、アイテムボックス内のアイテムを一つ一つ選択して個別に保存方法を変更することができるようだ。
コレがまた細かい。
温度や湿度は勿論、直射日光の有無や、振動の有無、気圧、時間の進め方まである。
ワインを熟成させるとか、酒を仕込むとか、肉を食べる前に少し熟成させるとか、パンを発酵させるとかそんな用途しか今は思いつかないけどね。
マップの書き込み。
これはとてもありがたい。
というのも、現在のマップは一度見た場所を正確に測量された状態で勝手に記録されていく便利機能だが、街やら迷宮の場所までは記録してくれないのだ。
それが、この書き込み機能があれば、自分で書き込むことによってその不便さを解消できるといことだ。
これは、レベル6で覚えた機能と相性が良い。
この機能は、謂わばG○○gleアースのような機能だ。
地図上にピンを落とすと、360度その地点の景色を見ることができる。
今から地図に追記しようと思えば、どうしてもうろ覚えの場所に書き込むことになる。
それが、一度ピンを落として確認することができるのだから、むしろ必須機能だろう。
で、レベル5の機能はどちらも微妙だな。
スクリーンショットは、メニューと同じく【無詠唱】発動できないようで、「スクリーンショット」と発言する必要がある。
するつもりはないが、盗撮は不可能だ。
そしてなにより、撮った画像を共有する手段がないのだ。
まさに、心のアルバム状態。
使用言語設定に至っては、日本語以外の言語を選択できる意味がわからない。
ゲームにはよくある機能だけど、うーん。外れ機能だな。
そして最後に、メール。
これは一見便利そうだけど、コレを使うには俺の【メニュー】スキルについて更に情報開示する必要がある。
あと、俺からメールする以外には使えないんだよなぁ。
ああ、未返信状態にしておけば良いのか。
一度、俺からメールを送って、返信せずに置いておけば、それを利用して俺にメールを送る事ができるな。
問題は、未返信状態でも追加で同じ相手に送る事ができるのか? ということと、返信に時間制限などの制限があるのか? ということだけど。
秘密開示は状況を見てって感じだな。検証もその時になるだろう。
ついでに、【限界突破】のスキルレベルも6に上げておこう。
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■ヘルプ
・スキル名
【限界突破】
・レアリティ
9
・詳細
各種制限の限界を突破する
レベル1
パラメーターの種族上限突破
レベル2
レベル上限突破
同一経験での成長上限突破
レベル3
連続成長上限突破
レベル4
スキル、術技習得制限突破
スキル、術技習得数限突破
レベル5
種族制限突破
レベル6
所有称号数制限突破
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うん。これは効果がわかりやすいな。
そういえば、あれから称号の更新をしていないな。
せっかくマリナさんもいることだし、後で頼んでみるか。
【重力魔法】のレベルアップはとりあえず保留だ。
随分使ったしな。
【時空魔術】は……ちょっと経験値がもったいないけど、試したいこともあるしレベルを9まで上げることにする。
後は、先の戦闘でレベルが上がった【真理の魔眼】のレベルアップだな。
現在の【真理の魔眼】スキルレベルは4。
とりあえず、6に上げるか……
5にはあがったが、6に上げることができない。
挙げ句の果てに機能追加もされない。
なんだコレ……? バグったか?
と思ったら、ヘルプが出てきた。
『スキルレベル上限に達しました。SPを600ポイント使用して、【真理の魔眼】を【森羅万象】に昇華させますか?』
ろっぴゃく!? こりゃまた、随分高いな。
これで上げてしまったら、随分と足が出るな。
まぁ、レベル3以下のスキルなら有事の際にでも何とかなるか。
ぽちっとな。
Yesボタンに触れると、600ポイント消費されて、【真理の魔眼】が消滅し、【森羅万象】スキルへと変わっていた。
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■ヘルプ
・スキル名
【森羅万象】
・レアリティ
6
・詳細
森羅万象を見通し、感じることができる。
レベル1
・アイテムや他者情報をより詳細に知ることができる。
・魔物の情報及び弱点をより詳細に知ることができる。
・上位存在を知覚することができる。
ただし、知覚することができる上位存在は、スキル使用者の資質による。(常時発動)
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ふむ。心配していた劣化はなかったようだな。
ミリ秒と悩んでなかった気もするけど気のせいだな。
新月を取り出して確認してみるが、今までと何ら変わらない表示が出ている。
さて、恐らくだけど劣化どころか進化しているはずだ。
なんせ、魔眼じゃあなくなったからな。
魔眼殺し系のアイテムは効かないと見ていいだろう。
精霊使いはどうかわからないけどね。
予想外にポイントの消費もあったし、これくらいにしておくか。
本当は、【森羅万象】のレベルを上げておきたいところだけど……
まぁ、レベル3くらいまでなら簡単に上げることができそうだし。良いとしよう。
馬車の移動中にひたすら、鑑定し続けるのだ。
地味だが、御者席にいながらでも簡単にできるからな。
それもこれも、【限界突破】スキルの、同一経験での成長上限突破があるおかげだな。
――さて、明日も早いことだし、寝るとしますかね。
まだ、リビングにいるようなら寝るとだけ伝えようと、立ち上がる。
コンコン。コンコン。
ん? 扉の前に気配が幾つか……
ガチャ
扉を開けると、そこには風呂上がりらしき女性陣たちが勢揃いしていた。
寝間着とはいえキチンと服は身につけているのだが……。ちょっとくるものがあるな。
イリスはどこか申し訳なさそうに、耳としっぽをしょんぼりさせていて、王女とマリナさんは言い出しにくそうにもじもじしている。
ヤスナに目を向けると、引きつった笑いを浮かべるだけだ。
一体何だってんだ?
いらっしゃいませ、【森羅万象】。
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■改稿履歴
メールの未返信状態にてわかりにくいというご指摘を頂きましたので、追記しました。




