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閑話その2

 すみません、予約投稿に失敗しました。

 深夜の更新でごめんなさい。

 

 ゲルベルン王国が、意図的に魔物の大量発生を引き起こす技術を確立させたのは、いつのことだったか。

 

 研究は全て秘密裏に行われており、今となっては当人のゲルベルン王国すら把握できていないだろう。

 

 迷宮は攻略を怠ると、その外へと魔物を排出する。

 迷宮を封印し排出を禁止することで、迷宮の暴走を意図的に引き起こし、封印を破壊するほどの勢いで魔物を生み出させる。

 そして、暴走した迷宮が生み出した魔物は、餌を求めて人口の多い方へ多い方へと進軍を開始する。

 まるでモンスターハウスのように。

 

 これを利用して、肥沃で強大な隣国を手に入れることができないだろうか?

 

 ゲルベルン王国はそう考え、そして秘密裏に研究を続けていた。

 それこそ何代も何代も気の遠くなるほどの年月をかけて。

 

 実現にあたって問題点は大きく二つあった。

 

 一つは、人口の多い方へと移動する魔物たちの性質だ。

 ミレハイム王国にも移動するが、ゲルベルン王国側にも魔物が来てしまう。

 大量の魔物の行動を制御する方法を確立する必要があった。

 操る必要はない。ただ、ゲルベルン王国側に来ないようにすれば良い。

 その方向性で研究が進められ、新型の『魔除けの香』が完成した。

 

 一つは、現れる魔物の弱さだ。

 暴走に使用する迷宮は、その誕生からの長い時間を経て巨大化しているものの、長年の封印によって()を与えられることなく暴走を強いられてきた結果、Cランク以下の魔物しか生み出すことができない。

 しかも近年はその規模を減らす一方だった。

 それが、ミレハイム王国を油断させることになっていたのだから、皮肉なものではあるのだが。

 

 この問題に対するゲルベルン王国の対処だが、まずは()を迷宮に与えることだった。

 とはいえ、ゲルベルン王国に冒険者はほとんど寄りつかない。

 やって来るのは、なんらかの理由で冒険者を廃業した、ワケありの者たちばかり。そんな者たちが真面目に迷宮に潜るわけもない。

 特に、ヘルムエル迷宮を除くゲルベルン王国内の全ての迷宮は、実入りが少ない、倒すのが面倒、下手をするとただの怪我では済まないと、三拍子揃った――いや、三重苦のアンデッド系の魔物しか現れないのだから。

 そして何より、ヘルムエル迷宮は封印の秘密を守るため、一切の立ち入りを禁じている。

 

 ところで、迷宮の()は、究極的にいえばなんでも良い。だがそれでも、効率の良い()というものは存在する。

 ある程度の戦闘力を備えた者。

 つまり、高レベルな冒険者なり、兵士だ。

 

 そこで、ゲルベルン王国は食い詰めたはぐれ冒険者とつながり、彼等を動かすことにより冒険者を拐かして迷宮の餌にすることにしたのだ。

 イリスが出会った賞金稼ぎたちも、卸し先こそ盗賊たちだったようだが、最終的な納品先はゲルベルン王国となる予定だった。

 

 そして次に、強力な個体を生み出す必要がある。

 いくら数が多くとも、一匹一匹が弱ければ、対処されてしまうだろう。

 

 それを実現したのは、『魔除けの香』の研究途中で作り出された新型の『魔寄せの香』だった。

 

 そして、歴史書にも一切記されていないゲルベルン王国の野望がついに日の目を見ることになったのは、大陸暦4015年のことだった。

 

 当初考えられていた、作戦を実現するにあたっての障害は大きく3つ。

 

 まず、第一にハインツエルン王国の存在。

 

 かの国は弱小な軍しか持たない、農業国家。

 あまりに弱小(ゆえ)、金で他国の軍事力を買っている、綱渡り国家。

 

 ――とされているが、ゲルベルン王国は素直にそのままその情報を鵜呑みするほどお花畑ではない。

 

 この場合、金で買っているというところ、そして複数国の軍が駐屯し、その中にミレハイム王国の軍が存在していることが問題だ。

 ミレハイム王国と戦争に突入した場合、ハインツエルン王国内に駐屯しているミレハイム王国軍と、ミレハイム王国本国からの軍両方を同時に相手取る必要がある。

 

 そして、ハインツエルン王国も友好国の有事という()()()()があれば喜んで軍を出すだろう。

 それは、ハインツエルン王国に駐屯している他国の軍も同じ。

 大国ミレハイム王国にハインツエルン王国の金で恩を売ることができ、更にここで活躍すれば、今後ハインツエルン王国から金を引っ張りやすくなる。

 

 まさに一石二鳥というわけだ。

 

 ゲルベルン王国からしてみれば、下手をすると“ゲルベルン王国 対 近隣諸国連合軍”という負け戦に発展しかねないということだ。

 

 それでも、ミレハイム王国の負けが濃厚であれば、あくまで()()()に留まるだろう。

 

 次に、ゲルベルン王国南方、迷いの森を越え、さらに険しい山脈地帯――『厳戒の山脈』を超えた先に存在するドワーフ国の存在だ。

 

 この国は、永世中立国を謳っている、その名の通りドワーフたちの国だ。

 

 永世中立国であるので、他国の戦争には一切の関与をしない。

 しかしながら、優秀な“魔法金属”や“魔宝石”を産出する鉱山と、その加工技術を持つ技術国家であり、その優秀な武器や装飾品を所持する武装国家だ。

 

 ここで加工された武器や装飾品はすべて高値で取引され、鍛冶の王とも呼ばれるドワーフ王の作品は、金を積んでも手に入らないとさえ言われている。

 

 真偽の程を確かめる手段をゲルベルン王国は持ち合わせていないが、ドワーフ国が持つ()()()()()を使用すれば、戦力の差など簡単に埋まるとされている。

 永世中立国であるドワーフ国だが、ドワーフ国への安全な交易ルートをミレハイム王国が整備したということもあって、ドワーフ国とミレハイム王国は良好な関係を保っている。

 

 現在、ドワーフ国から輸出される武器、防具、アクセサリーのほぼ全てが一度ミレハイム王国を経由すると言われており、そしてそれは概ね事実だ。

 ミレハイム王国経由のルート以外でドワーフ国に行くには、劣飛竜(ワイバーン)を初めとする強力な魔物が()む厳戒の山脈を超える必要があるのだ。生半可ではない。

 それに、ミレハイム王国の関税は少量の輸出入であれば低額に設定されており、コレを利用しない理由がないというわけだ。

 

 ドワーフ国は人々の進入を拒む『厳戒の山脈』に周囲を囲まれており、ある意味でゲルベルン王国以上に厳しい環境におかれているが、ミレハイム王国経由のルートが整備されて以来、輸出で潤っており代わりに食料を輸入し食糧危機とは無縁の状況だ。

 もともとドワーフ国の武器技術、戦闘技術がここまで発達したのは、この強力な魔物たちに囲まれた厳しい環境のおかげだったが、現在では強力な武器を求めてやってきた冒険者たちや大商人たちおかげで、国の周辺はある程度の安全が確保されている。

 

 少し話が逸れたが、一度ミレハイム王国に集まるのが常であるならば、戦時にドワーフ国が武器を大量に卸したとしても、何ら問題がないこととなる。

 

 ドワーフ国からの出兵はないにせよ、武器の供出は免れないだろう。

 

 

 そして最後に、アンナロッテ・フォン・ミレハイム第三王女の存在。

 兄弟姉妹、及びその取り巻き貴族からは冷遇(度々暗殺されかかるものを冷遇と一言で称して良いのならばだが)されているが、慣習に従えば正統な王位継承者であり、現王を差し置いて王に相応しいと評価の高い、デルリオ公からの覚えもめでたい。

 

 今は、王位を継ぐ気はないと公称している彼女だが、未曾有の大災害を憂慮し現体制に反旗を翻したなら、恐らくこれにデルリオ公も同調し王位簒奪(さんだつ)は容易に()るだろう。

 そうなれば、魔物の大量発生でミレハイム王国に大ダメージを与えたところで、すぐに持ち直すだろう。

 

 理由として、補佐としてつくであろうデルリオ公の手腕というのも勿論あるが、大きな理由はアンナロッテ自身のカリスマ性にある。

 

 まず、強力な力を持つ冒険者は条約によって戦争にかり出すことはできないが、それはあくまで“冒険者として”だ。

 一市民として――志願兵として個人的に戦争に参加することまで止めることはできない。

 

 次にドワーフ国。

 現在のドワーフ国の状況は先に説明したとおりだが、実のところミレハイム王国とドワーフ国の街道整備が()()()完了したのは、ほんの1年前のことだ。

 正式ではない経路の整備は、約6年前にアンナロッテの手によってなされていた。

 

 7年前、ようやく発動できるようになった【時空魔術】を用いて。

 

 【時空魔術】のゲートを開くには、一度その場所に赴く必要がある。

 また、【時空魔術】の制限によって自分自身は移動することができない。

 

 【時空魔術】を発現させたばかりの僅か10歳の少女は、デルリオ公爵の息のかかった冒険者や商人の協力があったにせよ、約一年をかけて見事『厳戒の山脈』を往復し、ミレハイム王国とドワーフ国の架け橋を作ったのだった。

 

 そしてその“架け橋”を利用し、さらに約5年の歳月をかけて正式な街道の整備も完了し、アンナロッテ没後も安心して交易を続けられることとなった。

 

 アンナロッテが女王となり戦争を始めた場合、彼女に多大な借りのあるドワーフ国がどのような手段をとってくるのか、ゲルベルン王国は読めなかった。

 

 ちなみに、アンナロッテ本人は、その後一度もドワーフ国へは訪れていない。

 偉業を成し遂げたアンナロッテ()のネガティヴ・キャンペーンに大失敗した兄弟姉妹やその取り巻き貴族たちが、それ以上アンナロッテとドワーフ国が親密になることを許さなかったからだ。

 しかし、そのおかげでドワーフ国の国民にとって、アンナロッテは未だ“小さな女の子”であり、子供好きな種族であるドワーフ族がアンナロッテの敵に対して何をしでかすか――

 ――期間限定で永世中立国の撤廃くらいはあっさりやってのけそうではある。

 

 そして、勝ち戦であるならば。ハインツエルン王国およびその連合軍も全力で勝ち札を拾いに来るだろう。

 つまり、アンナロッテ第三王女の旗印の(もと)であるならば、ゲルベルン王国にとって、ゲルベルン王国(最悪) 対 ()近隣諸国連合軍(シナリオ)もあり得るということだ。

 

 

 それら懸案事項に対する打開案として決議されたのが、アンナロッテ第三王女のゲルベルン王国招致だった。

 女神の巫女の予言の力を逆に利用し、勇者召喚を行うのだ。

 

 稀代の闇術士であるゲルベルン王国宰相、ザリス・マールコア。彼が主導して勇者召喚の儀式に細工を施すことにより勇者を手中に収め、その勇者をハインツエルン王国への牽制に使用する。

 そして、アンナロッテをゲルベルン王国内に留め置くことで、ドワーフ国が無茶な兵器を持ち出さないように牽制し、ミレハイム王国サイドとして戦争や魔物の大量発生に参加させないようにする。

 

 また、副産物としてミレハイム王国にアンナロッテがいなければ、移動手段が限られ今まで通りの対処ではどうしようもない事態に陥ったときに簡単に詰んでしまう。それも、作戦の成功の一端を担うことになるだろう。

 

 うまくいけば、一石二鳥どころか、三鳥にも四鳥にもなる作戦。

 

 ――だった。

 

 本来異世界の人間を1人だけを召喚するこの術式に2人の人間が巻き込まれたことによって、マールコアの……いや、ゲルベルン王国の野望にケチがついた。

 後付けされた勇者さえ隷属させる強力な隷属の術式は、高位の次元から無効化され、予備にと付けられた術式は、その主導権をアンナロッテへと渡すこととなった。

 

 それでも、絶望にくれる王女のままであればそれを御すことは容易だったが、第一の誤算たる咲良が王女の心身を救った。

 

 そして、最大の誤算はミレハイム王国内で現在、謎の卵相手に攻撃を続け、その孵化を目の当たりにしていた。

 

 ()しくも、現在ゲルベルン王国はミレハイム王国と同様の事態へと陥っていた。

 

 その真偽はともかくとして、その被害の凄まじさから、

『ミレハイム王国に現れたブラックリキッドメタルドラゴンは、その餌となるべき魔物がとある冒険者の活躍によってその大半を減じていたおかげで、本来の力の半分も出せていなかった』

 

 と、後世の歴史学者は語る。

 

 ミレハイム王国に――というより咲良(勇者)に『魔除けの香』の罠を破られ、強化された魔物に襲われるゲルベルン王国は、既にミレハイム王国への出兵どころか、ハインツエルン王国との戦闘すらも継続不可能な状態に陥っていた。

 

 だが、大量の魔物に囲まれながらも、劣飛竜(ワイバーン)部隊の活躍により、奇跡的に城郭都市ヴァルバッハは魔物の大量発生を凌いでいた。

 ミレハイム王国とは違い、規模を見誤っていなかったことや、最悪の事態は想定されていたこと。それに、誰かが設置した重力壁のおかげでハインツエルン王国側からの進軍が一切なかったことが大要因だが、もう一つ特筆するべき点があった。

 ほとんどのAランク相当の魔物が美味しい()でも見つけたかのように、ミレハイム王国へと向かっていたのだ。

 

 そうしてなんとか均衡を保っていたゲルベルン王国だったが、たった一匹の魔物によって瞬く間に城郭都市ヴァルバッハを壊滅され、今まさにその魔物がゲルベルン王国の首都である王都ゲンベルクへと迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 通算80話突破! ということで、一度主人公たち視点からはうかがい知ることのできないゲルベルン王国側の舞台裏を。

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