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第79話 邪龍魔法

 そして、煙は晴れる。

 流動する身体も、それを包み込む昏いオーラも全て健在だ。

 

 どうひいき目に見ても、ダメージは認められない。

 

「やっぱり駄目か……」

 

 俺のつぶやきに反応したわけではないだろうが、ブラックリキッドメタルドラゴンの口が裂け、にやりと嘲嗤(あざわら)ったかのように見えた。

 そして、【ダークオーラ】が身体に吸い込まれたかと思うと、地響きのように低いうなり声を上げ始めた。

 

「『るるるぅ…………』」

 

 うなり声とともに、口から昏いオーラが漏れる。

 なるほど、本当に【ダークオーラ】をその身体(からだ)に吸収したらしい。

 だがよく見ると、【ダークオーラ】も完全に消えたわけではなく、体表面がうっすらと【ダークオーラ】でコーティングされているのがわかる。

 

 吸収したのは、体内を守るためか、それとも、ブレス攻撃の予兆か……?

 

 身構え、いつでも防御なり回避なりの行動が取れるように準備していると、ブラックリキッドメタルドラゴンに先んじて、アナウンスが解答をくれた。

 

《固有スキル【邪龍魔法】の複製に失敗しました》

《最適化を試みます…………》

 

 むぅ……収集だけじゃなく、複製も駄目か……

 

 って、問題はそこじゃあない。

 どうやら、あのうなり声は、【闇魔法】よりよっぽどヤバそうな【邪龍魔法】の詠唱らしい。

 

 複製に失敗しているので、どんな効果かはわからない。

 

 ――が。

 

「つーか、これはチャンスだろっ!?」

 

 ピンチをチャンスにだ。

 オーラの密度も薄いし、攻撃に転じる時こそ隙ができるというものだ。

 

 霞の合口から純魔力の刃を出して、一気に伸ばす。

 

 そしてさらに――

 

「『ホーリーエイミング』! 『ブルーフレアバースト』!」

 

 『ブルーフレアバースト』は俺がアレンジした魔法だが、それの元となった『ホワイトフレアバースト』は、俺が知る限り最強の炎呪文だ。(さっき覚えた)

 

 本来の『ホワイトフレアバースト』は、通常の炎より更に高温域の白い炎を呼び出し敵を焼き尽くす魔術だ。

 熱量が拡散せず、魔術の効果が持続する限り、その高温の炎で焼き続ける凶悪な仕様となっている。

 

 そして、『ブルーフレアバースト』は更にその温度を高めた、超高温の炎で全てを焼き尽くす(という俺の思いがこもった)魔法だ。

 即席だが、良くできたと思う。

 

 熱量が拡散しないので、周りへの影響を考えなくて良いのがすばらしい。

 

「『るるるぉぉぉぉ……』」

 

 青い炎の中で、再びの白光(びゃっこう)のなかで、【邪龍魔法】の詠唱は続く。

 

 だが、それを気にすることなく、青と白の光の中心に霞の合口で斬りつける。

 

 ぬるんと柔らかいものに受け止められたような感触があっただけで、何の手応えもない。

 

「『るるるぉぉぉぉ……』」

 

 そして、詠唱は止まらない。

 

 そっちがその気なら、俺にも考えがある。

 

 ――そういえば、さっき【猿叫】を覚えたんだっけか。

 じいさんの流派にはそういう、スマートじゃない技はないけど、たまには良いだろう。

 

 いや、むしろおあつらえ向きともいえる。

 

 

 刃を炎属性に変えて――

 

「きぃえええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 

 ――振り下ろす。

 

 刃を土属性に変えて――

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ――振り下ろす。

 

 刃を水属性に変えて――

 

「きぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ――振り下ろす。

 

「『るぉおおお……おおおお……』」

 

 刃を風属性に変えて――

 

「きぃえええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 

 ――振り下ろす。

 

 刃を氷属性に変えて――

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ――振り下ろす。

 

「『るるぉ……』」

 

 刃を雷属性に変えて――

 

「きぃえええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 

 ――振り下ろす。

 

 刃を木属性に変えて――

 

「きぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ――振り下ろす。

 

 パキーン!!

 

 最後に闇属性で斬りつけた瞬間、ガラスが割れるような音とともに、何かを砕いたような手応えが伝わってきた。

 そして、そのままの勢いで霞の合口で斬りつけると、液体でもなく、ぬるっとしたオーラでもない()かを確かに斬り裂いた。

 

「『キィュワアアアアアア!!』」

 

 今度は俺の猿叫ではなく、ブラックリキッドメタルドラゴンの絶叫だ。

 

 斬りつけた場所からはどす黒いオーラが漏れ、灰色の煙へと変わっていく。

 それだけではなく、先ほどまで詠唱していた【邪龍魔法】が逆流したのか、別に上あごを爆散(ばくさん)させている。

 

 しかしながら、そこは液体の魔物。

 すぐに元通りになり、憤るように短く「『るろぉ……』」と唸ったと思うと、俺に向けて昏い鈍色(にびいろ)の刃を放ってきた。

 

 シュバッ!!

 

 空気を斬り裂き肉薄する鈍色(にびいろ)の刃だったが、最小限の動きで躱す。

 身体の軸をずらさない、基本の回避動作だ。

 

 そして、お返しとばかりに、霞の合口で袈裟に斬りつけた。

 出している刃は、先程ダメージを与えたと思われる闇属性のままだ。

 

 今度は、ガラスが割れるような音はしなかったが、確かな手応えは相変わらずだ。

 

「『ギィ゛ュワアアア゛アアア!!』」

 

 まさか、闇属性が弱点とはねぇ。

 

 よしこのまま……

 

「恭弥! アイツなんかおかしいわっ!!」

 

 シンシアに呼び止められた次の瞬間、ブラックリキッドメタルドラゴンの身体が脈でも打つかのように、どくんと震えた。

 そして次の瞬間、ブラックリキッドメタルドラゴンはその身体(からだ)を赤色に変えていた。

 

 むぅ、全く前触れとかなかったのに……

 ちょっと悔しい。

 

()っ!」

 

 悔しさをバネに気合い一発斬りつけるが、ぬるんとした何かに阻まれてしまった。

 

 そして、【ダークオーラ】……とは違う、赤いオーラが復活する。

 

 念のため、【真理の魔眼】で見てみると……

 

 ──────────

  魔物名

   レッドリキッドメタルドラゴン

 

  レベル

   289

 

  スキル

   邪龍魔法(レベル3)

   邪龍の威圧(レベル8)

   怨響(おんきょう)(レベル8)

   レッドオーラ(レベル8)

   レッドブレス(レベル11)

   炎魔法(レベル10)

 

  特殊・特性

   千変万化

   腐食ガス

   毒ガス

   マインドブラスト

   流動

 

 

  説明

   液体金属の魔物。

   コアすらも液体金属でできている特殊な個体。

 

 ──────────

 

 となっていた。

 

 なんか、名前まで変わってるんですが……

 うーん……“特殊・特性”の、【千変万化】か【流動】のおかげだろうか?

 

 まぁ、さっきは闇属性で、闇属性が弱点だったからな。

 今度は、炎属性で、炎が弱点だろう。

 

「レッドリキッドメタルドラゴン破れたりっ!!」

 

 霞の合口を炎属性に変え、気合い一発斬りつける!

 

 ――が、【レッドオーラ】に阻まれ、霞の合口から伸ばした刃も吸収され、消されてしまった。

 

 刃自体は俺自身の魔力で作っているため、吸収されても壊れることはないけど、余り良い気持ちにはならないな。

 

 そして、【レッドオーラ】がレッドリキッドメタルドラゴンの内に取り込まれ……

 

「『るろぉ……』」

 

 短いうなり声とともに、鈍色(にびいろ)の刃が4つ現れ、こちらへ向かって放たれる。

 

「んな見え見えの攻撃っ……当たるかよっ!!」

 

 今度は、じっくり観察する余裕すらある。

 

 なるほど。この刃。

 【闇魔法】じゃなく、【邪龍魔法】か。

 どおりで、入るはずの【闇魔法】の経験が入らないはずだ。

 

 闇魔法にしては、色がおかしいとは思ったんだよな。

 

 着弾した地面をよくよく見ると、斬り裂かれたというより、溶かされたといった方が正しそうな斬り口であるため、その推理が信憑性を持つ。

 

 なるほど。【邪龍魔法】にはこうして短い詠唱で発動できるものもあれば、長い詠唱を必要とするものもあるのだろう。

 

 こちらを舐めきっていた、ブラックリキッドメタルドラゴン(当時)は、長い詠唱をもってこちらを屠ろうとしていたが、作戦を変えてきたということだろう。

 

 ようやく、敵として認識された、ともいえるだろうが。

 

「よっ! ほっ!」

 

 小気味よくステップをふみながら、【邪龍魔法】を躱していく。

 

 そして、躱すごとに一撃ずつ属性を変えながら攻撃をあてていく。

 

 そして、木属性の刃が当たった瞬間――

 

「『ギュ゛ワ゛アアアア゛アア!!』」

 

 【レッドオーラ】ごと、レッドリキッドメタルドラゴンの身体を斬り裂いた。

 

 もう一撃入れてやろうかと思ったが、そうは問屋が卸さないようだ。

 

 また大きく脈打ったかと思うと、また色が変わっていく。

 

《スキル【真理の魔眼】のレベルが上がりました》

 

 俺は、脳内アナウンスを聞き流しつつ、【真理の魔眼】を敵へと向けた。

 

 

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