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第44話 情報収集@フルーツパーラー

 冒険者ギルドをあとにした俺たちは、ギルド職員に教えてもらった宿へと向かう。

 

 条件は、「風呂付きで、ある程度セキュリティがしっかりした宿」と指定して紹介してもらった。

 旅の途中、生活魔法のクリーニングで最低限の汚れは落としはしているが、やはり風呂は良いものだ。

 

 部屋割りだが、運良く寝室を男女で分けることができる部屋が空いていたため、そこにすることにした。

 共有スペースとして、リビングが付いているのも評価が高い。

 

 問題があるとすれば、普通に男女で分けて部屋を取った方が、実のところ割安であるということくらいだろうか?

 

 部屋を取ったら、客室には入らず少し遅い昼食を摂りに街に繰り出す。

 その後は、冒険者ギルドの酒場に行って情報を集める予定だ。

 

 酒場で食事を摂ってもいいのだが、酒場では可能な限り情報収集に専念したい。

 

「あれ? さっきの子たちじゃないか」

 

 昼食処を求めて適当に歩いていると、先ほど乗合馬車の前で声をかけてきた女冒険者たちが話しかけてきた。

 あのときは気にしなかったが、何となくメロに似ているな……

 

「ああ、先ほどはどうも」

「いいってことさ。ところで、キョロキョロしていたけど、どうかしたのかい?」

「いえ、昼食を摂ろうと思ったのですが、少し時間を外してしまったらしく……」

 

 時間的には、14時頃だ。どの店も夜の仕込みに入るため、一度閉店している。

 選択肢としては、屋台で食べるか、夜営業のなさそうな喫茶店で食べるかだ。

 冒険者ギルドの酒場へ赴く前に少し話をしておきたいので、よさげな喫茶店を探していた、というわけだ。

 

「この時間だと、夕食に差し支えないよう軽食かな? いい店がある。紹介しよう」

「ええと、いいんですか? 他の方は……?」

「ああ、このあと酒場で情報収集しようと思っていたんだけど……その前に他所(よそ)から来た冒険者と、世間話がてら情報交換するのも悪くないだろう?」

 

 それは、俺たちにとっても、有り難いことだけど……

 

「キョーヤさん、いいと思いますよ? この方たちは、ヘルムント近郊の状況に詳しいようですし」

「ヘルムント近郊というか、私たちはハインツエルン王国を中心に活動してるから、ハインツエルン王国内の状勢と言い換えた方が正しいかもしれないね」

 

 逆説的には、他国の事情には疎いと。

 それなら、一方的に情報を吸い上げることも吸い上げられることもないな。

 

「じゃあ、是非お願いします」

 

 

 

 †

 

 

 

 俺たち4人(+シンシア)と、女冒険者パーティ4人の合計8名という大所帯で向かったのは、ハインツエルン産の果物を多く取り扱うフルーツパーラーだ。

 

「ここは、ハインツエルン産のフルーツをたっぷり使ったデザートが売りなんだ」

 

 この女性率であれば、甘味処へ向かうという選択は当然の帰結だった。

 

「いらっしゃいませ、8名様ですね。テーブルをくっつける形でもよろしいですか?」

「うん、それで頼むよ」

 

 客入りは上々といった具合の店内だが、それ以上に席数が多く、俺たちも問題なく同じ席で座ることができそうだ。

 ウエイトレスは、白地のシャツと黒のタイトパンツ、その上にサロンエプロンを着用している。そして、頭には各々色違いの帽子をかぶっている。

 店内の雰囲気も、素朴さというより、都会的な洗練されたイメージを受ける。

 

 店の入り口には、注文できる料理がガラスケースの中にサンプルとして3種類置かれており、それぞれ、フルーツの盛り合わせ、ワッフルにジャムをかけたもの(ジャムは好きなものを選ぶことができる)、カステラのようなもの(サンプルにはのっていないが、果実水のシャーベットがつくらしい)といった感じだ。

 

 あのカステラに似た菓子は、都市セーレでも食べたことがある。

 蜂蜜を練り込んである以外は、パン酵母を使って作られている所謂甘いパンを薄く切ったものだ。都市セーレでは“自家製パン石臼屋”の人気メニューの一つとなっている。

 

 席に案内されて、全員が注文を終えると、

「じゃあ、まず自己紹介から始めようか。誘った側として、私たちからでいいかな?」

 と、恐らくリーダーだろう女性が切り出した。

 特に誰からも反対意見はなく、彼女はそのまま続ける。

 

「私は、ディアンダ。このパーティーのリーダーをやっている。ディアと呼んでくれ」

 

 ディアさんは、女性ながら鍛えられた筋肉をしており、イリスとは違う意味で、女戦士のイメージ通りの人だ。

 

「じゃあ、次は私かしら? 私はヴェリーネ。魔術師よ」

 

 ヴェリーネさんは、黒のローブに、ウイッチハットという出で立ちで、まさに魔女というイメージ通りだ。

 (ほうき)を持って、黒猫でも飼っていれば完璧だったけど。

 

「カーラ。斥候をつとめている」

 

 カーラさんは、やや尖った耳にちりちりパーマの、小柄な体格の女性だ。

 身長は130センチメートルほどだろう。一人だけ、マイ座布団を使って高さを誤魔化している。

 恐らく、人間族ではなくドワーフだろう。都市セーレで見かけたドワーフ族に特徴が似ているしね。

 

「最後が私、フェディア。弓兵をやってるわ」

 

 フェディアさんは、兎人(とじん)族だ。

 フードを被ってはいるが、その上部から特徴的な耳が飛び出している。

 といっても、ホーランドロップのような垂れ耳だが。

 

 そして特徴的なのは、その胸部だろう。

 恐らくだが、あのセレンさんを上回るだろう。なにせ、机の上に乗っている。

 それに、セレンさんがバイーンという感じなら、フェディアさんはぽよーんって感じだ。

 

 

「じゃあ、今度はこっちですね。俺は、藤堂 恭弥。よろしくお願いしますね」

 

 と、自己紹介したあと、マリナさん、ヤスナ、イリスの順で自己紹介していく。

 ディアさんたちとは違って、使用武器やらパーティーでの役割の説明はない。

 

 そもそも、いびつではあるけど、依頼を受けた冒険者と依頼主のパーティーなので、申し訳ないけど正直に話せるものでもない。

 

 見た目からして、駆け出し冒険者という感じだからか、相手も深く突っ込んでこなかったので、それに甘えることにする。

 

「おまたせしましたー」

 

 丁度自己紹介が終わったところで、注文していた料理が届いた。

 

 俺たちパーティーは「いただきます」をして、ディアさんのパーティーは特に何もないまま食事が始まる。

 

 ちなみに、俺はフルーツ盛り合わせにした。

 

 フルーツに関しては、地球と殆ど同じ物もあれば、違う物もあり、いろんな意味で楽しい。

 

 それでも、イチゴとか桃とか地球にある物に似た味の果物を食べるとほっとする。

 

 

 甘い食べ物が潤滑油になったのか話は弾んだ。なおかつ、ヤスナの話の誘導がうまいのか、獣人国でも少し話題になった、魔寄せの香についての話に話題は流れていく。

 

 確か、効果が高い魔寄せの香にはゲルベルン王国が絡んでいる可能性があるんだったか……

 それは、できる限り調べておきたいよな。

 

 しかしながら、

 

「うーん、この国では殆ど魔物は出ないからねぇ。魔寄せの香については特に聞いたことないなぁ……」

 

 と、ディアさんの反応は芳しくないものだった。

 

「あら? そういえば、魔除けの香なら変わった噂があったんじゃなかったかしら?」

「ええと、この間攻略された迷宮の話よね?」

「ヴェリーネさん、フェディアさん、詳しい話を聞かせて頂けますか?」

 

「といっても、余り細かいことは知らないのよね……」

 

 と、前置きして教えてくれた話は、ある意味で衝撃的な内容だった。

 

 3ヶ月ほど前、ハインツエルン王国内で新しい迷宮が発生した。

 慣習に従い、早期迷宮攻略を目指したが、若い迷宮は、低階層に高レベルの魔物が現れたり、いきなりモンスターハウス等の強力な罠が発動するといった事故が起こりやすい。そして、今回の迷宮攻略でそれは起こった。

 

 各国合同騎士団と、Bランク以上の冒険者たちで攻略に乗り出したはいいものの、5階層でモンスターハウスの罠を踏んでしまった。

 

 メロのときとは違って、閉じ込めの罠付きだ。

 

 冒険者の一人が所持していた、魔除けの香を使用すると、香から半径5メートルの範囲に魔物が入ってくることはなく、閉じ込めの罠が解消されるまでそれで凌ぎきり、魔物から逃げるときも、魔除けの香を使って魔物を誘導し、全員が殆ど無傷で脱出できたということだ。

 

 これに関しては、多数の証言者がいるため、ただの噂ではなく事実のようだ。

 

 魔除けの香にそこまでの力はない。

 せいぜいが、力の弱い魔物が嫌がる香りを発するだけで、一切の侵入を許さないなどといった現象はありえない。

 

「へぇ、その魔除けの香があればより安全な旅ができるようになりますね! どこで買うことができるんでしょうか?」

「それが……その魔除けの香を使用した冒険者は、脱出後すぐにどこかへと行ってしまったそうなのよ。だから、その強力な魔除けの香の出所(でどころ)は、今のところ一切不明というわけなのよ」

 

 そのあたりは、魔寄せの香と同じだな。

 魔寄せの香の場合は、ゲルベルン王国との関連を臭わせる情報があったが……

 こちらは無関係だろうか?

 

 何にせよ情報が少なすぎるな。

 その場にいた他の冒険者に情報を聞ければいいんだけど……

 

「あら? 詳しい話を聞きたいかしら?」

 

 考えが、顔に出ていたのだろうか? ヴェリーネが訊ねてくる。

 

「ええ、何となく気になりますからね」

「さっき、乗合馬車で私たちの前にいた5人組のパーティーを覚えているかしら?」

 

 そのおかげで、乗合馬車を諦めようと思ったのだから、当然、覚えている。

 頷くと、ヴェリーネさんはにっこり笑って、

 

「彼等のリーダーが確か……現場にいたはずだったかしら?」

「ふむ。たしか……あとで、ギルドの酒場で情報収集するといっていたな……?

 一時期は大声で触れ回っていたし、話を聞きにいけば喜んで話してくれるだろう」

 

 なるほど、どのみちギルドの酒場には行くつもりだし丁度いいな。

 

「ありがとうございます。あとで行ってみます」

「ああ、私たちもこのあとで、酒場には行くつもりだから、顔つなぎくらいはしてやろう。

 で、今度は都市セーレの状況について聞きたいのだが……」

 

 こうして、しばらく情報交換という名のお茶会は続いた。

 

 

 

 

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