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第39話 獣人国での戦闘

 フーリーンを出発した俺たち一行は、一路ハインツエルン王国へと向かう。

 ハインツエルン王国は、農林業及び漁業が盛んな牧歌的な国だ。

 海には面していないが巨大な湖が存在し、そこで捕れる魚介類は「水揚げ後2週間は生きる」といわれているほど生命力が高い。

 通常、魔法の鞄には魔力を持つ生物を収納することはできないが、魚やら貝は魔力を持たないため、生きたまま魔法の鞄に収納し各国に輸出することが可能だ。

 

 農耕物や、それを加工した加工品も品質が高く、高級品として取引されている他、木材も建築材というよりは、楽器製作や高級家具製作用の高級木材として売買されている。

 

 ミレハイム王国も、農業は盛んであり林業も(おこな)っているが、小さな土地で高級品を作るハインツエルン王国に対して、広大な土地で大規模農作、大規模林業を行うミレハイム王国とでは方向性が違う。ミレハイム王国内でも高級品を作ってはいるが、市場規模としてはそこまで大きなものではないのが現状だ。

 加えて、ミレハイム王国には鉱山資源があるが、ハインツエルン王国には存在しない。

 逆にミレハイム王国内は、多くの川が流れ水量こそ豊富だが、それを農業に使用することはあっても、ほとんど魚は捕っていない。

 冒険者を優遇し迷宮探索を奨励しているミレハイム王国では、魔物食材が豊富であるため、わざわざ川で捕まえる必要がないというのが現状で、趣味人が釣りをする程度だ。

 しかしながら、そんなミレハイム王国でさえ、ハインツエルン王国産の食材は輸入されており、高級品ながら人気商品となっているのだからハインツエルン王国における一次産業及び二次産業の質の高さが窺えるといえる。

 

 逆にミレハイム王国からは、鉱山資源やそれを加工した加工品などが輸出されており、加えて、ハインツエルン王国には迷宮や魔物の領域が少ないため、魔石などの魔物素材やその加工品も数多く輸出されている。

 

 と、ミレハイム王国とハインツエルン王国は、間に獣人国を挟んでいるのにも係わらず良好な関係を保っているといえる。

 

 そんなハインツエルン王国だが、軍隊が弱いのも有名だ。

 いることはいるのだが、日々迷宮で戦闘訓練を(おこな)っているような他国の軍隊と比べてしまうと見劣りしてしまうのも、仕方のないことだろう。

 新しい迷宮が生まれても育てず、すぐに潰してしまう上に、年に一個生まれれば良い方だという。

 

 その分、自国の土地を余すことなく利用でき、ミレハイム王国の四分の一程も国土がないのにも係わらず、国内総生産(GDP)の一次産業二次産業の金額はむしろミレハイムより多い状態だ。

 三次産業で外貨を稼ぐ方法がほとんど存在しないハインツエルン王国と、交通の要所にあり三次産業も盛んなミレハイム王国という違いがあり、単純に国内総生産(GDP)の比較をしてしまうと、両者には大きな差があるのだが。

 

 ハインツエルン王国内は魔物も少なく安全な旅が可能だが、獣人国の魔物は強力な魔物ばかりで、魔物の領域を通らずに移動することが不可能だ。

 というよりも、村や町から一歩出れば魔物の領域となる、古き良きRPG状態だ。

 

 ハインツエルン王国とミレハイム王国で貿易をするときですら、獣人国は迂回するのが普通だ。

 また、ゲルベルン王国は関税が高いため、移動のコストを考えても迂回する方が安く上がる。

 

 そのため、近隣諸国がハインツエルン王国を貿易の拠点どころか経路としても使用することはなく、街道が整備されそこそこ安全な旅が保証されており、ドワーフ国やエルフの森、商業国家レントナムにも近いミレハイム王国は逆に貿易の拠点として重要視されている。

 

 貧弱な軍隊しか持たないハインツエルン王国が独立を保っていられるのは、周辺諸国に「共同防衛費」として少なくないお金を支払い、軍を駐留してもらっているおかげだ。

 周辺諸国からすれば、他国のお金で軍備を整えることができて、更にそのお金も多く余っており余剰金がかなりある状態。つまり、(てい)の良い収入源というわけだ。

 

 逆に、複数諸国に対してそんな状態であるため、ハインツエルン王国を攻めたのなら、他の周辺諸国から全力で妨害されることだろう。

 共謀して割譲されないように、奪っても飛び地となるような国にも常駐を頼んでいるおかげか、共同防衛費を支払うようになってからは一切戦争を仕掛けられたことはないそうだ。

 つまるところ、お金で安全を買っている国ともいえるだろう。

 

 

 

 悪路をものともせず、アスドラは駆ける。

 魔物の領域に入っても移動しやすい草原が続いていたミレハイム王国とは違い、獣人国内では木々が生い茂り、足下も大小の石が転がっている状態だ。

 

 地竜に馬車を引かせれば弱い魔物は寄ってこないとのことだったが、獣人国には弱い魔物がいないのか、減ってこれなのかはわからないが、かなりの頻度で襲撃を受けている。

 

 中でも面倒なのが――

 

「恭弥。あれ、トレントよ」

 

 省エネモードで肩に乗ったままのシンシアが警告してくる。それを馬車内の面々に伝えると、各々戦闘準備を整える。

 マリナさんも最初の内はもたついていたが、何度も繰り返したおかげか、大分様になってきた。

 

「よし、アスドラ。ゆっくり行くぞ?」

「ぐるるぅ」

 

 俺の指示に従ってアスドラが減速する。

 そのままゆっくりと近づき、【真理の魔眼】で確認する。

 

  ──────────

  魔物名

   トレント

 

  レベル

   5

 

  スキル

   擬態(レベル3)

   木魔法(レベル2)

   風魔法(レベル1)

 

  説明

   普段は樹木に擬態をしている、木の魔物。

   擬態をしているときは、一切の見分けが付かない。

 

  ──────────

 

 「一切の見分けが付かない」と表示されてはいるが、遠くからでも見抜いて知らせることができるシンシアがいて、近づけば見破ることのできる【真理の魔眼】があるおかげで、何とかなってはいる。しかしながら、【索敵】【気配察知】【魔力探知】を完全に無効化してくるため、通常であればいきなり不意打ちを食らってしまうような相手だ。

 

 ――が、わかってしまえば、こちらのものといえる。

 

 どうやら一匹だけのようなので、「俺が一人で出る」と言い残して、御者席から飛び出し、霞の合口を抜く。

 顕現させるのは、炎の刃。超高温の青白い炎の刃だ。

 植物系の魔物であるトレントは、火に弱い。【炎魔法】で一気に焼き払っても良いが、そうすると周りの関係のない木まで焼いてしまう。

 無駄な自然破壊をしたくないという理由もあるが、森を焼いてしまうと、他の魔物まで呼び寄せてしまって面倒なのだ。

 

 

「せいやっ!」

 

 奇襲するはずの相手から奇襲を受けたトレントが、状況を認識する前にすべてのかたがつく。

 気合と共に自力発動した刀術技『裂光一閃』が、熱したナイフでバターを()り裂くかのように然程(さほど)の抵抗もなくトレントを唐竹割りに両断する。

 

 刀術技『裂光一閃』は、同じく刀術技『唐竹割り』から派生した技で、ヤスナから複製した【韋駄天】を組み合わせ、まさに光のような速さで(もっ)て敵を斬り裂く技だ。

 

 討伐したトレントを魔法の鞄にしまう振りをして、アイテムボックスに放り込む。

 倒した魔物は基本的には回収しない予定ではあるのだが、トレントは杖や矢の優秀な材料であるため、移動に支障のない範囲、つまり俺が一人で倒した場合に限って回収することにした。

 

 マリナさんとヤスナには、アイテムボックスのことは秘密にしたままだが魔力によって容量が増える魔法の鞄を持っていることは話しているので、単純に魔力量が多く沢山入るだけだと思っているようだ。

 

 それでも、随分と驚いていたけどね。

 

 

 

「よし、アスドラ。先に進んでくれ」

 

 トレントの回収を終えて御者席に戻った俺は、早速とばかりにアスドラに先を急がせる。

 

「主様。地図によるとこの先に魔力の薄い地帯があるようです。そこで、昼食にいたしませんか?」

 

 窓を開けてイリスが声をかけてくる。

 

「そうだな。ずっと馬車の中で食事ってのも味気ないしな。アスドラと、シンシアの眷属に睨みをきかせてもらえばしばらくは安全だろう。

 よし、アスドラ、そっちに向かってくれ」

「ぐるるぅ」

 

 と、了承のために喉を鳴らすと、アスドラはまたガタゴトと馬車を引き始めた。

 

 

 

 

 

 少し短いので、本日もう一話投稿します。

 次話投稿は 21:00頃予定です。

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