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第31話 デルリオ邸にて(前編)

 色々ご指摘を頂いたエピソードでしたので、全面改稿いたしました。

 マリナさんの、

「詳しい話は、私の家……といっても別宅ですが、そちらでお話しましょう。ここでは話(にく)い内容もありますから」

 と言う申し出を受けて、俺とイリスは招かれるままに都市セーレの貴族街へ足を踏み入れていた。

 

 貴族街は壁に囲まれており、衛兵が詰めている門を通って入る必要がある。

 通常であれば通行許可がない一般市民がその門を通ることはできないが、貴族街に住む貴族に連れられて通る分には問題ないようだ。

 

 建物における貴族街と平民区の大きな違いは、貴族街に建物は住居しか存在しないことと、住居ごとにそれぞれ壁や門があり、面積に差はあるものの庭が存在することだ。

 平民区の住居には、庭は疎か壁やら門やらは存在しない。

 あるとしても、貴族街へつながる門の近くにある、貴族御用達の商店くらいだろう。

 この商店に平民が入っても特に罰せられることはないが、貴族の紹介がないと何も売ってもらえない。

 

 ちなみに、わざわざこの商店で買い物をするのは、下級から中級の貴族だ。

 地位が高い貴族ともなれば、貴族街への通行許可証を持った商人が家まで売りに来る。

 

 食材を買い求めに、使用人が利用する程度だ。

 

 で、俺たちが足を踏み入れているのは、上級貴族の別宅が集まっている区域らしい。

 

「まさか、公爵令嬢が教会でシスターをしているとは……」

「本来は出家した時点で家名は捨てるのですが、私の場合は事情がありまして……」

 

 公爵といえば、貴族の中でもトップクラス。国王の次に偉い貴族だ。

 

 マリナさんの父親が現在の国王の弟にあたるため、マリナさんは国王の姪ということになるようだ。

 

「マリナさんでは失礼だったというわけか……マリナ様と呼ぶべきですか?」

「いえ、我ながら中途半端だと思いますが、今は教会に籍を置いている身。貴族としての扱いは不要です」

「それじゃあ、お言葉に甘えて今まで通りということで」

「はい。それでお願いします。

 ――着きました。こちらです」

 

 デルリオ公爵邸は、その広大な敷地と反比例するかのように華美さのない屋敷だった。

 しかし、華美さではなくその作りの良さで「公爵邸」だとわかる素晴らしい屋敷だ。

 ただ派手なだけより、何倍も素晴らしいと、俺は思う。

 

 屋敷の中も、華美さより調和を意識した、品のいい調度品が並んでおり、ただ高い物を買って飾り付けるより余程レベルが高い。

 

 案内された客間で待つこと十数分。

 そろそろじれ始めた頃に、俺たちが助けたくノ一と見知らぬ男を連れてマリナさんが戻ってくる。

 

 心なしか、マリナさんの表情が暗い気がするな。

 先ほどまでは依頼の話をすると意気込んでいたような気がするのだが……?

 

 この見知らぬ男は、マリナさんの親族か何かだろうか?

 それにしては、なんというかこう、悪人面というか……

 いや、人を見た目で判断するのは良くないな。うん。

 

「名乗るまでもないだろうが、ミレハイム王国宰相のハフマン・ボーアンだ」

 

 横柄な態度で名乗るハフマン。どうやら親族ではなかったらしい。

 ついでに言うと、見た目通りのおっさんだな。妙に偉そうでいけ好かない。

 貴族とはそんな物だと言ってしまえばそうだが、貴族兼シスターであることが判明したマリナさんの後なので落差がひどい。

 

「Cランク冒険者の藤堂恭弥だ。こっちが、イリス。

 ――この場に別な人間が同席するとは聞いていなかったんだけど?」

「ふん、礼もわきまえぬか……所詮は子供の冒険者か。

 なあに、ここに居るマリナ嬢が国家にかかわる問題を、個人的に解決しようとしていると()()に挟んだものでな?

 王の傍らで国を預かる身としてはそんな真似はさせられんので、こうして参ったわけだ」

 

 いくら年が上だろうとこのおっさんに礼を尽くす気になれないだけだ。

 という言葉をぐっとこらえ、代わりの言葉を紡ぐ。

 

「今回の話はなかったこと……ということですか?」

 

 とりあえず、ハフマンを無視してマリナさんに訊ねる。

 ――が、答えたのはハフマンだった。

 

「いや、なにもマリナ嬢の資産から依頼することはない。今回は、国が依頼料を負担しようと思ってな。

 ミレハイム王国からの依頼ということにさせて貰おう」

 

 それにしても、「国家にかかわる問題」ねぇ。

 元より、単なる護衛依頼ではなかったということか?

 それとも、わざわざ護衛を付けてまでゲルベルン王国に行ってやりたいことがあったということか?

 

 ハフマンが着席を促し、全員が椅子に腰掛ける。

 

「依頼内容は、そこにいる第三王女の護衛と共に、ゲルベルン王国で軟禁状態にあるアンナロッテ第三王女殿下を救出することだ」

 

 ダメだ、一気につっこみどころが増えた。

 

「そんなもの、冒険者に依頼するまでもなく、兵を動かす案件じゃあないか? っていうか、護衛依頼じゃあなかったのか?」

「この情報は、まだ一部の人間しか知らぬ機密情報だ。魔物の大量発生に対する準備もある。兵は割けん。

 それに、条約によってBランク以上の冒険者は都市セーレから出ることがかなわぬからな。そこで、Cランクの貴様たちというわけだ」

 

 俺がマリナさんに出した条件のひとつ。

 依頼の内容で答えられることは嘘偽りなく答えること。

 隠したいことがあれば、「言えない」と正直に言ってくれればつっこんで聞くことはしないが、それも加味して依頼を受けるか受けないかを決めるということだ。

 

 だが、ハフマンがそれを知っているのか知らないのか……それはわからないが、マリナさんは暗い表情を更に(くら)くして、俯いている。

 

 まぁ最初と色々内容も条件も変わってきているからな。

 

「軟禁状態というのはどんな状況だ?」

「そのままの意味だ。

 投獄まではされていないが、自力の脱出は不可能な状態でゲルベルン王国に捕らわれているようだな。

 これは、そこの護衛によって伝えられた情報が元になっている。この国で知っているのは、ここにいる面々とデルリオ公くらいの物だ。

 いや、たまたま情報を入手できて良かった」

「仮に軟禁状態というのが事実だとして、情報を止めている理由は?」

「情報を止めているのではなく、先も言ったとおり機密の度合いが高い情報だ。それ故に、情報の伝達に時間がかかっている。明日には王にもこのことが伝わることだろう。

 ああ、言い忘れていたが、命が惜しければお前たちもこのことは内密にすることだな?」

 

 全部話してから、そういうことを言うのってどうなんだよ?

 

「まとめると、俺たちへの依頼は、『二人をゲルベルンへ連れて行くこと』ではなくなって、『そこの子を連れてゲルベルン王国まで行き、第三王女を助けて、ミレハイム王国へ連れ戻ること』になったってことだな?」

「ああ、どのみちそこの二人だけでは、王女の救出は無理だろうからな」

「念のため、聞いておくけど……依頼料は?」

「ふむ、そうだな……マリナ嬢、かの者にいくらの護衛料を支払う予定だったのだ?」

「護衛料として、一日白金貨2枚。アンナロッテ王女救出の話はこの場でさせていただいて、報酬の相談をさせていただく予定でした。もちろん王女救出に参加いただかず、往路の護衛だけという形でも規定の金額はお支払いする予定でした」

 

 白金貨2枚? 意外と多いな……

 いや、迷宮に潜っていればそれ位簡単に稼げそうだしな。

 妥当と言えば妥当なのか?

 

「ふむ、なるほど……では、成否にかかわらず王金貨100枚を支払おう。

 成功の場合は、ゲルベルン王国から受け取る賠償金の半分を王金貨で支払う。概算だが、王金貨500枚の支払いになるだろう。

 どうした? 金額が大きすぎて付いて来れぬか?」

 

 俺が知っている貨幣は、大白金貨までだ。

 王金貨などというものは、メニューには載っていなかった。

 

「王金貨?」

「ああ、アシハラではこういった場合、テガタを使うんだったか?

 王金貨とは、大白金貨100枚。つまり、100億リコだ。

 ただし、ミレハイム王国の王金貨をミレハイム王国の外で使用するには、共通通貨に替える必要がある。

 といっても、そんな額のおつりをおいている店などないからな。どのみち使用するには両替をする必要があるな」

 

 幾ら王族の命だからといって、報酬が高すぎる気がするんだが……

 日本円にして、成功かどうかにかかわらず、1兆円。成功すると更に5兆円。日本の国家予算の10分の1に匹敵する金額だ。

 

「そんなに貰っても使い切れないという以前に、多すぎる。王女の命だということを加味してもだ」

「いやいや、既に国家間の問題となっている内容だ。

 それに、他国……それもかのゲルベルン王国に潜入して王女を救出するという時点で、Bランクの依頼ではないからな。妥当な金額だ」

 

 ふむ。妥当だというのならそうなのだろう。

 ――少しマリナさんと王女の護衛の表情が硬いのが気になるところだけど……

 まぁ、多くて文句を言うのもおかしな話だしな。

 

 すでに、“マリナさんの個人的な依頼”ではなくなっているってところが、引っかかるな。

 マリナさんと話す機会がそれほどあったわけではないが、悪人という感じはしない。

 だが、このハフマンという男はどうだ?

 

 ――信用できない。

 もう少し情報を引き出してみるべきだろう。

 

「幾つか質問があるんだけど構わないか?」

「依頼にかかわることなら構わんぞ? 儂は、公明正大な男だからな」

 

 公明正大の意味を辞書で引いて見せてやりたいな。

 

「そこまで、王女が重要視される理由は?」

 

 この質問にも、マリナさんの表情が変わった。

 が、相変わらずだんまりで、答えるのはハフマンだ。

 

「既に噂などで知っていると思うが、勇者召喚。

 これには、彼女の特殊()()が大きくかかわっている。故に、ゲルベルン王国に奪われるわけにはいかない」

「……勇者召喚の噂は事実だと?」

「噂にはいろんな種類があるからな、一概にすべてが事実だとは言えんよ。

 ゲルベルン王国から勇者召喚の儀式への協力依頼が届き、王女が快く了承しゲルベルン王国へと向かい、見事勇者召喚の儀式を()()()()()のは事実だ」

 

 そこが真実なら、正直他は割とどうでもいいんだよな。

 動機はどうあれ、「勇者召喚という名目の元、異世界の人間を拉致して、隷属させる魔法を使った」のなら、それ相応の報いを受けるべきだろう。

 まぁ、今のところ、俺を呼び出した異世界召喚の魔法が勇者召喚の魔法と同じかどうかってのはわかってないから、あくまで推測の域は出ていないけど……

 十中八九無関係というわけでもないだろう。

 

「で……? 勇者とやらを呼び出した理由は?」

 

「近々起こる予定の魔物の大量発生への対処だ」

「仮想敵国であるゲルベルンからの依頼を受けたのは何故だ?」

「それは、王女しかあずかり知らぬことだ。自ら希望して向かっていったのでな」

 

 王女とて、ゲルベルン王国に裏切られる可能性に気がつかないほど馬鹿ではないだろう。それでも決行した何かがあるはずだ。

 まぁ、頭お花畑王女である可能性も否定できないけど。

 

 じゃあ、まぁ本題だな。

 

「報酬の王金貨。どこの()の王金貨だ?」

 

 

 

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