第27話 盗聴と迷宮生活3日目
――――ザザザザ……
一昔前の無線のような雑音の後、俺の盗聴魔術が声を拾う。
『確かに、彼女はアンナ……いえ、アンナロッテ第三王女お付きのお庭番です。御存じの通り、私は家の関係上王女とは懇意にさせて頂いておりますから、本来影である彼女のことも知らされておりました』
『御協力ありがとうございます』
『いえ、彼女がここに一人でいるということ自体、緊急事態ですから。それに……』
『それに……?』
『いえ、何でもありません。とにかく、彼女は私どもの方で保護しましょう』
上司の男は、
『しかし……』
と、反論しようとしたものの、慌てて、
『いっ……いえ、すべてお任せします』
と手のひらを返した。
音声だけでは、何が起こったがわからんな……
あのマリナさんも、ただのシスターってワケじゃあなさそうだし。
それ以降は、ヤスナを運び出す音だけが続き、その音が落ち着いた後、
「やはり、あの噂は本当だったか……ゲルベルンを信用するなど、何を考えているんだ……?」
という台詞が聞こえたと同時に、盗聴魔術の効果が切れた。
ふむ。
第三王女に、それに仕える隠密。影とはいっていたが、「闇に生き影から影へ」といったザ・忍者というよりも、情報収集や近衛兵が出入りできないような場所での護衛といった仕事なのだろう。
風車の弥○的な。
そうでないと、いくら仲がよかろうが……いや、たとえ家族だろうが姿を知っているはずがないからな。
で、最後の意味深な台詞から考えて、今回の件はゲルベルン王国が絡んでいる可能性が高いと。
国やら政治やらが絡んでくると途端に面倒になるものだからな。
これ以上深入りするのはやめておいた方が無難だろう。
――このときに、面倒くさがらずきっちり調べておけば、これからの結末が変わっていただろうが、このときの俺にはそんなことは知る由もないのだった。
†
迷宮は、その内部構造によって幾つかの種類に分けられるが、その中でもダンジョン型と呼ばれる迷宮は、一定階層毎にその様相をがらっと変える。
具体的には、中ボスを倒した次の階からだ。
トラブルに見舞われつつも、何とかトリスタン迷宮の11階にたどり着いた俺達を待ち受けていたのは、辺り一面の花畑だった。
10階層までに存在した壁などは一切存在せず、ただひたすらに360度花畑が続いている。
「花畑の階層は、階段ではなくて転移草を探して階層を移動するんだっけか」
「はい。近づくと薄らと光るそうですので、すぐにわかるかと思います」
メニューのマップ機能は、俺の視界に入った場所を自動的にマッピングしてくれる便利仕様だ。
当然、今までの階層では階段があればキチンと表示されていた。
ということは……
目に魔力を集めることで視力を高め、周りを見渡す。
常に表示している小さいマップ上には何の変化もなかったが、大きいマップに切り替えると少し離れた場所に階段のマーカーが付いていた。
楽勝過ぎる。
ズゴゴゴゴゴ
喜びもつかの間。
土の中から巨大な、ミミズがあらわれた。
──────────
魔物名
ビッグウォーム
レベル
11
スキル
HP吸収(レベル1)
説明
巨大化したミミズの魔物。
取り込んだ生物の生命力を直接吸収し、その生命力を使用して、超回復を行う。
──────────
いやいや、巨大化にも程があるだろう。
口の大きさだけで、俺の身長ほどはある。
スキルは……飲み込まれて攻撃を食らってみるのもぞっとしないし、収集を使っても飲み込むんじゃなぁ……
ということで、無視することにする。
ビッグウォームは……威嚇のつもりなのだろうか? ギチギチと歯を鳴らしながら、身体の半分程を直立させる。
だが、威嚇が通じなければそれはただの隙にしかならない。
ホーンラビットから複製した【ハイジャンプ】を使用し垂直跳びで10メートルほど飛び上がり、【二段跳び】で空中を蹴って飛び上がる。
【ハイジャンプ】は魔力を脚に集めつつ足下に反発しやすく加工した魔力を敷き跳躍力を上げる技で、【二段跳び】は空中に魔力の足場を作りそれを蹴って空中で更に飛び上がる技だ。
ホーンラビットの記憶では、わざわざそんなことはしていないようだった。
どうやら、そのまま使えないような魔物の技は、魔力などを使用して無理矢理再現されるようだ。
「せいやぁぁぁぁあ!!」
気合い一発、唐竹割りに斬りつける。
《刀術技【唐竹割り】を習得しました》
敵は、ビッグウォームだけではない。
ビッグウォームの巨体に隠れていた、巨大な蜂の魔物――ビッグビーが10匹ほど飛び出してくる。
が、既に回り込んでいたイリスによって、側面から次々と刺し貫かれていく。
俺も【空中跳び】で奇襲して仕留めたが、9匹はイリスが仕留めてしまった。
何というか、イリスの強さが上がっている気がする。
もちろんレベルも上がってパラメーターも増えてはいるが、それ以上に強くなっている気がするんだよな……
パラメーターだけがすべてではないのか、それとも別な要素があるのか……
そういえば、称号もメニューでの説明を見る限りではパラメーターアップするようだが、実際のステータスには反映されないようだ。
【身体能力強化】スキルなどの効果は、ステータス上で確認できるんだけどな。
ステータスで確認できない。裏パラメーターとかあるのだろうか?
ちなみに、メニューに表示されている称号についての説明はそれぞれこんな感じだ。
スキルと違って、あまり詳しい説明はされていないのが残念だ。
──────────
名称:
次元を越えし者
説明:
世界の壁を越えた者に贈られる称号。
時空属性の攻撃に耐性を得る。
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名称:
人を超えし者
説明:
人としての限界を超えた者に贈られる称号。
限界値からの差分に応じて、上昇補正がかかる。
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名称:
精霊の寵愛
説明:
契約外の精霊から力を借りることができた者に贈られる称号。
精霊から愛され、精霊魔法の威力が上がる。
また、精霊と契約しやすくなる。
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名称:
スキルコレクター
説明:
スキルをある一定個数以上集めた者に贈られる称号。
スキル及び術技の習得補正がかかる。
──────────
名称:
武神の卵
説明:
武術系スキルを一定個数手に入れ、平均レベルも一定以上となった者に贈られる称号。
武術系スキルの成長に上昇補正がかかる。
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名称:
英雄の卵
説明:
ある一定以上の回数、自分よりレベルの高い犯罪者を討伐すると贈られる称号。
全パラメーターに上昇補正がかかる。
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名称:
賢者の卵
説明:
魔術系の術技をある一定個数集めた者に贈られる称号。
魔術系の術技に上昇補正がかかる。
──────────
名称
魔人の卵
説明
魔術系スキルをある一定個数集めた者に贈られる称号。
魔術系スキルの成長に上昇補正がかかる。
──────────
名称
銀狼の主
説明
銀狼の称号を持つ者から、主と認められた者に贈られる初号。
配下の「銀狼」のパラメーターに上昇補正
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名称
一人前冒険者
説明
一人前の冒険者になった者に贈られる称号。
宝箱の発見率に上昇補正。
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名称
駆け出し賞金稼ぎ
説明
得た賞金がある一定以上になった者に贈られる称号。
犯罪を持つ者への攻撃に上昇補正。
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名称
ウサギの天敵
説明
ウサギ系の魔物をある一定回数連続で一撃死させた者に贈られる称号。
ウサギ系の魔物への攻撃力に上昇補正。
ウサギ系の魔物を一定確率で即死させる。
──────────
ちなみに○○○の加護となっている称号は詳細を見ることができなかった。
イリスの称号で俺と被っていないものは、
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名称
銀狼
説明
固有称号。
身体能力、嗅覚、聴覚、視覚、直感力に補正がかかる。
魔力変換時の威力に補正がかかる。
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名称
ヴァルキリーの卵
説明
英雄に癒やしを与えた者に贈られる称号。
英雄系の称号を持つ者への回復に上昇補正がかかる。
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名称
主の庇護
説明
狼系の称号を持つ者が、主を得た場合に贈られる称号。
主の強さと、主への忠誠心にって、パラメーターに上昇補正がかかる。
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で、俺と同じものとしては、
・一人前冒険者
・駆け出し賞金稼ぎ
を手に入れている。
と、色々考えつつも、ビッグウォームと、ビッグビーをアイテムボックスへと格納し、解体する。
ビッグウォームからは、『大ミミズの歯』『ぬるぬる粘土』『大ミミズの肉』『ビッグウォームの魔石』が、ビッグビーからは『ビッグビーの毒腺』『ビッグビーの毒針』『ビッグビーの羽』『ビッグビーの甲殻』『ビッグビーの魔石』がとれた。
どちらも、ゴブリンやコボルトと比べると高額で買い取ってくれる素材ばかりだ。
次の階層へ移動する手段は既にわかっているのだ。
少しここで稼がせてもらうとするか。




