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第26話 ファンタジーNINJA

 翌日。

 

 朝のピーク時間より1時間ほど早くギルドへ訪れていた。

 

 ボス部屋の件をどこまで報告するかは完全に決めてはいないが、面倒事は早めに済ませるに限る。

 

 元より、報告しないという選択肢はない。

 迷宮への出入りは完全に管理されているため、低階層で3パーティーが全滅したという知らせは遅かれ早かれ伝わるだろう。

 その時になって変に疑われるのもつまらない。

 

 どうせ、早いか遅いかだけだ。

 

「おはようございます、キョーヤさん。今日はどうされましたか?」

「報告したいことがあるんですが、ここで話していいものかどうか判断がつかないので、念のため先日の部屋をお借りできますか?」

「はい、少々お待ちくださいね」

 

 イオさんはぺこりと一礼して、後ろに引っこんでいく。しかし全く待たされることはなく、すぐに「お待たせしました、こちらへどうぞ」と戻ってきた。

 本当は、Cランク冒険者が使わせてくれといっても、ホイホイ使える施設ではないらしいことは、後で聞いたことだ。

 

 先日と同じく、入口のソファでしばらく待たされた後、入室を許可された。

 

 今日は、アヒルのぬいぐるみは座っていなかった。

 

 こちらが何かを聞く前に、「今日は、()も確認していますのでご安心ください」と言われてしまった。

 

「一つ確認したいのですが、こちらが情報を提供した場合、情報の出どころを秘密にしていただくことはできますか?」

「完全に匿名というわけにはいきませんが、可能な限り配慮することはできます。具体的にはギルド内で回覧する報告書に、キョーヤさんの名前を記述しないことはできます。

 ですが、ギルド上部からの命令によって情報の提供元の開示請求が来た場合は、私にはそれを報告する義務が生じます」

「わかりました。――では、イオさんは『魔寄せの香』をご存じですか?」

 

 イリスは例の冒険者に聞くまで知らなかったらしいからな、皆が皆知っているようなものではないかも知れない。まぁ、念のためだ。

 単に話の切り出し方として、丁度よかったというのもある。

 

 ――が、これは思わぬ効果をもたらした。

 

「――っ!? ……

 ええと、魔物を呼び寄せる、禁制アイテムですね。といっても、単純所持ですぐにどうこうなるわけではありません。錬金ギルドが販売および譲渡目的の作成を禁止しているのと、条約によって輸出入が禁止されているだけで、国によってルールはまちまちです。

 ちなみに、ミレハイム王国では保管と使用方法に厳しいルールがあるだけで、所持自体は禁止されていません」

 

 一瞬、非常に驚いた顔をした後、慌てて平静を装っているが、目は泳ぎ声は震えている。これは、何かあるな……

 

 っていうか、禁制アイテムなのかよ。

 普通に使ってたぞ。

 

 イリスは無表情を装っているが、しっぽがビックリした後しょんぼりしているので、恐らく知らなかったのだろう。

 

 効果すら知らなかったみたいだからな。さもありなん。

 

 まぁ、怒るようなことでもない。

 

 保管条件と、使用条件さえキチンとしていれば合法なわけだしね。

 

 ……あとで調べておこう。アイテムボックスに入れている限りは、問題ないと思うけどね。

 

 つーか、あのボス部屋の状況を考えたら、もっと厳しいルールでも構わない気がするんだが……

 このルールだと、錬金ギルドに所属しない錬金術師が作って売っても何の問題も無いことになるけど、大丈夫なのだろうか。

 

 聞いてみると、

 

「実のところは、大した効果はないので通常の危険物と同じ扱いなんですよ」

 

 との事だった。

 

 なるほど。ということは――?

 

「例えば、ここ最近妙に強力な魔寄せの香が出回っているとか?」

「ぎくっ」

 

 口で「ぎくっ」って言う人初めて見たな。

 

「まぁ、どうして、隠そうとしているのかは聞きませんが、魔寄せの香が原因と思われる()()で3パーティー全滅です。俺達は、その場に居合わせたので報告に来たんですよ」

「……ギルドカードかステータスカードは……?」

 急に深刻な顔になったイオさんの質問に、俺は首を振る。

「彼等の持ち物は何も回収できませんでした。なので、この情報には何の証拠もありませんが……」

 

 まぁ、大量の魔石を見せれば一発だろうが、そこまでする気はない。

 

「いえ、是非お聞かせください」

「詳しい状況は正直不明です。事故なのかわざとなのかは不明ですが……狭い空間で魔寄せの香を使用し、溢れかえった魔物にやられたようですね。違うパーティーだとわかったのは、内2パーティとボス部屋の前で会ったからですね。もしかすると、被害は3パーティー以上かも知れません」

「モンスターハウスと同じ状況ですね……情報ありがとうございます」

 

 これ以上話すこともないので、さっさと辞去する。

 

 しかし、急に現れた効果の高い魔寄せの香か……

 ギルドが何を隠しているのかは知らないが、きな臭いな……

 

 

 

 †

 

 

 

 街を出て人目に付かなくなった途端土下座をはじめたイリスをなだめ、迷宮へ向かう途中で、何やら黒い物体が落ちていることに気がついた。

 

 【索敵】によると敵性の反応ではないようなので、とりあえず近寄ってみる。

 

「……くノ一?」

 

 落ちていた物体もとい、倒れていた人物は黒ずくめに赤いマフラーといった、『ファンタジー風NINJA』といった出で立ちの少女だった。

 服装も変わっているが、髪型も変わっている。

 毛先の半分は黒いが、根元からの残りは金髪なのだ。

 

 魔力は感じるし生きてはいるようだが……

 

「……おなか……空いた……」

 

 行き倒れってはじめて見たな。

 

 まぁ、このまま放置して死なれても寝覚め悪いしな。

 

 というわけで、目の前に携帯食料と水を置いてやる。

 味は無いが、弁当代わりにアイテムボックスに入れてある料理を出して、「なぜ冷めてないのか?」とか聞かれるのも面倒だからな。

 

「どうだ? 食えるか?」

 

 と聞くと、のろのろと起き上がり、こっくりと頷いた後、もそもそと携帯食料を食べ始めた。

 

 食事姿を眺めながら、【真理の魔眼】でステータスを確認する。

 

 ふむ。名前は、ヤスナ・ボロワー、職業……は、公儀隠密か。

 犯罪歴はないが……魔術のラインナップが、姿を消したり闇に紛れたり、こっそり盗聴したりといった、一歩間違えれば犯罪なラインナップだ。

 

 職業上必要なラインナップではあるのだろうし、既にその殆どを持っている俺が言うのもおかしな話だろうが。

 

 まぁ何にせよ、ありがたく持っていない術技は複製させてもらっておこう。

 

 体力が落ちているせいか食べる速度はゆっくりだが、ずっと一定速度で食べ続けているので、携帯食料と水はどんどん減っていき、みるみるうちになくなってしまった。

 

「もっと食べるか?」

 

「……いえ……大丈夫です。……助けていただ……きありがとう……ございます……」

 

 全く大丈夫そうじゃあない声色で返事をしたかと思うと、フラフラしながら立ち上がり、数歩歩いたところで、バッタリと倒れてしまった。

 

「『ダイグネス』」

 

 光魔術を使い、診断する。

 

 ──────────

 状態異常

  疲労(重度)

  衰弱(重度)

 ──────────

 

 セレンさんの知識によると、何となく病名などがわかるといった効果のはずだったが、【メニュー】のおかげかウインドウが浮かび上がり診断結果が表示される。

 

「やはり、重度の疲労と衰弱みたいだな……」

「どうしますか? 街へ運びますか?」

 

 問題は、どこの国の隠密かということだが……

 まぁ、判断は衛兵に任せればいいだろう。

 

「乗りかかった船というか……まぁ、このまま放っておくわけにもいかないよな……仕方ない、セーレまで運ぶぞ」

 

 俺がファンタジー忍者を横抱きに抱えると、それを見たイリスが、「あっ……」と小さく声を上げた。

 

「どうした? 俺が運んだ方がはやいと思ったんだが……」

「いっいえ、それもあるのですが……いえ、何でもありません。申し訳ありません、緊急時に」

「……ん? そうか? なら、さっさとセーレに向かおう」

「はい。主様」

 

 

 

 †

 

 

 

 セーレの街門に付くと、当たり前に止められてしまった。

 しかしながら、街門で検閲をしている衛兵の中に初日に世話になった人と、冒険者と揉めた時に居た警備兵の中の一人がいたので、とりあえず話は聞いてもらえることになった。

 

「……行き倒れねぇ……残念だが身分証明書がないものは、街に入れることはできない。冷たいようだが、これは規則でな」

「仮身分証の発行はできないのですか?」

「気を失ってちゃ、腕輪つけての宣誓もできないからな」

「そうですか……」

 

 どうしたものか……と考えていると、

 

「まぁ、格好は怪しいが……念のため、上司に聞いてくるから、ちょっと待っててくれ」

 

 そう言って、初日に世話になった(ほう)が詰め所に引っ込んでいってしまった。

 

「う……ここは……?」

「ん? おお、目が覚めたか? ここは、都市セーレの街門前だ」

「……セーレ? 街門……?」

 

 どうやら、意識はまだはっきりしないらしく、うわごとのようだ。

 

「……これ……を、教会の、デルリオ様に」

 

 と、震える手で謎のメダルを取りだすと、再び気を失ってしまった。

 抱えっぱなしなので、また倒れるというようなことはなかった。

 

 メダルを【真理の魔眼】で見ると、『オリハルコンのメダル』となっていた。

 やはり硬貨ではないらしい。

 

「教会のデルリオ……というと……」

「はい、先日お世話になった教会のシスターが“マリナ・デルリオ”と名乗っていたように思います」

「ああ、やっぱりマリナさんか。どうしてまた……」

「仕方ないな……衛兵さん、構わないか?」

「ちょっと、そのメダルを見せてくれるか?」

 

 求めに応じてメダルを渡すと、

 

「これは……なるほど。すまないが、シスター デルリオを呼んできてくれるか? 私も上司に報告をしにいってくる」

 

 といって、同じく詰め所に引っ込んでいった。

 

「つっても、この子をここに放置しておくわけにもいかないからな。イリス、頼めるか?」

「承知しました」

 

 イリスは頷くとメダルを持って勢いよく駆け出していった。

 

 しばらくすると、報告に向かった衛兵が戻ってきて、「とりあえず詰め所の中に運んでくれ」と言われたので、その通りにする。

 

 しばらくすると、イリスがマリナさんを連れて戻ってきた。

 イリスは涼しい顔をしているものの、マリナさんは少し息を切らしているようだ。

 

 それと同じタイミングで、最初に相談に向かった衛兵が、上司と思われる男を連れて戻ってきた。

 他の衛兵と比べると、上等な装備を身につけている。

 

 

 

「お待たせしました。主様」

「ありがとうイリス。意外とはやかったな」

「それが、メダルを見せてその女性の話をした途端、飛び出していったもので……」

 

 なるほど。一瞬イリスが()かして連れてきたのかとも思ったが、逆だったらしい。

 

「ああ! やはり、ヤスナではありませんか!!」

 

 と驚嘆の声をあげるマリナさんを、衛兵達は難しい顔で見つめている。

 

 まぁ。とにかく、これでお役御免かな?

 

 と、そう思っていたら、表情でバレたのか、雰囲気で察したのだろう衛兵たちの上司が、

 

「ああ、お前達はもう行ってもいいぞ。後は、こちらで何とかしておく」

 

 と若干面倒そうに告げてきたので、辞去して街へと戻った。

 

 丁度昼時だったので、街で昼食を摂るためだ。

 このまま、Uターンして迷宮に潜るという気分でもなくなっていたというのもあるが……

 

(それに、このままだとスッキリしないからな。何があったか、理由くらい聞かせてもらっても罰は当たらないだろう)

 

 と胸中で独りごちると、仕掛けておいた盗聴魔術を起動した。

 

 

 

 

 ■改稿履歴

 旧:

 魔除けの香

 新:

 魔寄せの香

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